2015年の春、家族旅行に来ていた軽井沢で、ジュエリー職人の武藤愛さんは怒っていた。「こんなピンク色の石、使えるわけないじゃないですか!チームカラーがどれだけ大切なものか分かってるんですか!」。休暇そっちのけで担当者とやりとりし、必死で「赤い石」を探し続けた。

画像1: チャンピオンリングと「赤い石」

 さかのぼること8年前、武藤さんは知人に誘われて、初めてXリーグの試合を観戦した。「チアや音楽を含めて、アメフトの雰囲気が好きになりました。ルールを少しずつ勉強しながら何試合も見るうちに、どんどんのめり込んでいきました」と、当時を振り返る。

 武藤さんはオーダーメイドのジュエリーブランド、株式会社ケイ・ウノの職人として、普段はブライダルやファッション向けのジュエリーを制作している。アメフトと出会ってからしばらくして、チャンピオンリングの存在を知った。スーパーボウルのリングはティファニーなどのブランドが、趣向を凝らしたものを作っているという。「日本でも大好きなアメフトのチャンピオンにふさわしい、素敵なリングを作りたい。これを私が作らないで誰が作るんだ」。武藤さんの中で大きな夢ができた。

 2014年にチャンスが巡ってきた。富士通フロンティアーズが創部30年目でライスボウルを初制覇。チャンピオンリングを作るのも初めての富士通は、制作を依頼する会社を決めていなかった。武藤さんは知人のつてを頼ってコンペに参加し、チャンピオンリング制作の仕事を勝ち取った。「限られた予算の中でも、高いクオリティーのリングを作れるのが私たちの強みです。普段からオーダーメイドの仕事をしているので、選手たちの希望や思いをできる限りかたちにすることができます」

画像2: チャンピオンリングと「赤い石」

 受注が決まった後、リングのデザインについて、富士通の選手たちと何度も打ち合わせをした。その時の様子について、WR宜本潤平はこう語る。「やはり作るからにはいいものを作りたい。しかし、僕らは画が描けません。武藤さんにとにかくイメージを伝えたら、すごくきれいでイメージ通りの画が出てきました。しかも、そこにはデザインに込めた思いも書かれていて、みんな気に入りました」

 デザインに1カ月、サイズ計測に1カ月。お互いに初めての経験ということもあり、ようやく作り始めたときには4月だった。だが、ここで問題が発生する。富士通のチームカラーである、「赤い石」が見つからなかったのだ。宝石を調達する部署の人たちが持ってくる石は、ピンクがかっているなど、「フロンティアーズの赤」とはイメージが違う。だが、武藤さんはあきらめなかった。自分の夢であったチャンピオンリングの製作については、一切妥協をしないと決めていた。最終的には上司が海外に飛んで、チームカラーにふさわしい赤い石を見つけてきてくれたという。「これは本当にチャンピオンにふさわしいものか。何度も問いかけながら作りました。かっこ悪いものを作ってしまったら、二度と川崎球場には行けない」。武藤さんをはじめとして制作チームが一丸となり、培った技術とありったけの情熱がリングに込められた。

画像3: チャンピオンリングと「赤い石」

 6月、武藤さんはチームへの納品に立ち会った。日本一から半年近くが経過していたが、選手たちが喜んでくれたことにほっとしたという。「選手たちがXリーグアワードや結婚式などで、チャンピオンリングをつけて出席してくれたという話を聞いたりすると、とてもうれしいです」

 日本で昨年公開された映画「ドラフト・デイ」の中で、印象的なセリフがあったと武藤さんは言う。「おれたちはチャンピオンリングを取るために、ここまで来たんだ」。日本でもボウルゲームに出場する選手たちが、チャンピオンリングを目指して戦うような文化を作りたい。そして、それにふさわしいリングを作りたい。武藤さんの夢にはまだ続きがある。

▽取材後記

 もちろん、チャンピオンリングの存在は知っていました。しかし、その意味について深く考えたことはなかったし、今回武藤さんを取材するまで、ライスボウル王者がリングを作っているということも知りませんでした。NFLではスーパーボウルの優勝チームが、選手だけでなくスタッフの分までリングを作り、家族同伴でチャンピオンリングの贈呈式を行うチームもあるという話を聞いたことがあります。トロフィーは全員が持ち帰ることはできませんが、リングはそれぞれがチャンピオンになった証として、手にすることができます。Xリーグでプレーする選手たちが仕事とフットボールを両立する上で、家族の理解と支援は不可欠でしょう。そんな支えてくれる人たちに感謝の気持ちをかたちで表すためにも、この「チャンピオンリング」という文化がもっと浸透すればいいなと思いました。(松元竜太郎)

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