画像: 「先に点を取って我慢を...」。田中史朗が「スピードアップ」に示した存在感。

「先に点を取って我慢を...」。田中史朗が「スピードアップ」に示した存在感。

ラグビー日本代表の田中史朗は、後半13分にグラウンドに立った。先発した流大に代わってSHの位置へ入る。
「スピードアップを意識していました。はい」
6月24日、東京・味の素スタジアムでテストマッチに挑んでいた。アイルランド代表に8-28とリードされていた。
国際リーグのスーパーラグビーへ日本人で初めて挑戦した32歳は、18分、自陣22メートル線付近左でペナルティキックを得ると、クイックタップ。球を回す。田村優の突破を促し、その周りで再びペナルティキックを獲得する。松田力也にボールを託し、敵陣10メートル線付近左へ進む。
FW陣がラインアウトのボールを確保すると、田中は周りの声を聞き、緩急をつけながら球をさばく。同じ「スピードアップ」をするのでも、一本調子には陥らない。右、左、右と歩を進め、アマナキ・レレイ・マフィの作った接点からボールを持ち出す。目の前の味方にパスをさばこうとしたところ、相手がそのコースをふさぐ。球を叩き落とす。
JP・ドイル レフリーはその場面を見落としたが、ファンのブーイングを受けてかテレビジョン・マッチ・オフィシャルを採用。電光掲示板で田中がパスをしたシーンが映し出されると、相手の故意のノックオンが判定された。一転、日本代表がまたもペナルティキックを獲得した。大歓声のもと、大チャンスを得た。
「(目の前に)スペースがなかったので(後方にパスを)離したところ、相手が(反則を)したという感じです」
例の場面をこう述懐する田中は、敵陣22メートルエリア右でのラインアウトから再びタウトを振る。
ランナーを直接相手にぶつけるダイレクトプレーを多用しつつ、防御の乱れを待つ。右から左へ、さらに右へ。タッチライン付近で堀江翔太に球を託すと、堀江が飛び出してくるタックラーをわずかにかわす。ラックを作る。ここから、田中は首尾よく球をさばく。
最後は受け手の松田がグラバーキックを相手にぶつけ、跳ね返ったボールを山田章仁が確保。そのままインゴールを割った。22分のことだった。13-28。田中は改めて言った。
「自分はフレッシュな状態で出ていて、周りは疲れている。しっかりと声を出して、スピードを意識...と」
さかのぼって17日、同カードを22-50で落とした。世界ランク3位も今回は若手中心のアイルランド代表を向こうに、タックルミスや要所での反則に泣いた。田中が昨季までプレーしていたハイランダーズの前指揮官、ジェイミー・ジョセフ ヘッドコーチは、「勝ちたい気持ちが足りない」と断じた。
この日に向けスターターが8名入れ替わるなか、田中も背番号を9から21に変えた。必死に戦っていないわけではないだろう。それでも負けん気の強さで知られるこの人は、こう発した。
「貪欲さが足りないことがプレーに出ていると言われたので...。まだまだ足りないんだなと認識しました」
その決意の表れが、終盤のテンポアップだった。
結局、13-35で敗れた。2戦続けて序盤で勝負をつけられ、6月のテストマッチの戦績を1勝2敗とする。近年の日本代表が先行逃げ切りの形で強豪を制してきただけに、田中はこう悔やむほかない。
「前半に簡単に点を取られてしまって。いまの日本代表にとって、追いかける立場はしんどくなる。きょうもディフェンスでは最後に取られてしまったけど、いい我慢もできていた。ですので、先に点を取って我慢をするという形にできれば...」
2019年のワールドカップ日本大会まで、あと約2年。限られた時間でいかに上昇気流を作ってゆくか。マネジメントサイド、スタッフサイド、選手サイドとも大きく注目されるタイミングだ。
歴史的3勝を挙げた2015年の同イングランド大会時、田中は直接的な提言も辞さないフロンティアの立ち位置にいた。もっともいまは、今後の強化計画について聞かれても「それはジェイミーに聞いていただいた方が」と語るのみだ。
「あの山田のトライも、FWが我慢をして我慢をして最後に...という形でした。ああいう我慢できる状況を作っていければ、もっと得点チャンスも増やせられるかなと思います」
日本代表はこの先、10月末の世界選抜戦や11月のテストマッチを控える。2008年に代表デビューしたシニアプレーヤーは、ただただ自分に矢印を向ける。
(文:向 風見也)

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