画像: 元近鉄・中村紀洋が浜松開誠館に注入した“打ち勝つ”スタイル

元近鉄・中村紀洋が浜松開誠館に注入した“打ち勝つ”スタイル

現役時代はフルスイングが身上。高校生にも自身のスタイルを注入していく構えだという
元メジャー・リーガーの高校生指導は異例
この春、高校球界にビッグニュースが飛び込んできた。近鉄、オリックス、中日、楽天、DeNAで活躍し、2005年には米ドジャースでもプレーした中村紀洋氏が4月1日付けで浜松開誠館(静岡)の非常勤コーチに就任。
5月1日に浜松市の同校で行われた就任会見で、中村氏は「選手が甲子園に向かって汗水流している姿を見て、何か手助けできないかと思い、決断した。接する中で、子どもたちがみるみる進化している。『すごいな』という第一印象から『もっと教えたい』と思うようになった。指導した選手が1人でも多くプロや社会人といった上のレベルの野球に就いてほしい。できればメジャー・リーガーにも。夢は大きく持ってほしい」と述べた。
メジャー・リーグを経験した元プロ選手が高校野球の指導者になるのは異例だ。
選手として日米通算23シーズンで404本塁打、2106安打を記録。フルスイングを貫いた男の新たな挑戦である。
23年間で6球団を渡り歩いた経験値
浜松開誠館は1924年に誠心高等女学校として創立した私立校。98年の男女共学化に伴い、現校名に変更されると同時に野球部も創部した。春夏通じて甲子園出場経験はなく、昨夏の県4回戦進出がこれまでの最高成績。着実に力を付け、さらに上を目指す意欲に満ちている。
その浜松開誠館と中村氏が出会ったのは今年2月。1本の電話がきっかけだった。昨年2月に学生野球資格を回復した中村氏の下に、同校の佐野心監督から「打撃と守備を教えてほしい」と連絡があったのだ。
佐野監督もかつて中日でプレーした元プロ選手。年齢こそ違うが2人は92年のプロ入り同期であり、同年のジュニアオールスターにそろって出場している。依頼を受け、同校のグラウンドを訪れた中村氏の指導ぶりを、佐野監督ら同校側が高く評価。
「23年間で6球団を渡り歩いた経験値に期待したい。私自身も勉強になることが多々ある。監督としてはチャンスに強い打者がほしい。どういう気持ちで打席に立っていたのか。2000本を打っている人の言葉はすんなりと選手たちに入っていくと思う」
非常勤コーチ就任がとんとん拍子で実現した。
中村氏は実際にバットを振り、守備に就いて手本を見せる。3~4月の1カ月間でチームは10本の本塁打を量産した。選手が練習試合で本塁打を打つ場面を目の当たりにした中村氏が「プロ選手かと思うような打球もあった」と驚けば、佐野監督も「高校野球に携わっていれば分かると思うが、1カ月で10本なんて、ほとんどない。昨年は本塁打はめったに出ていないので、私が一番ビックリしている」と舌を巻いた。指導の効果はてきめんのようだ。
「難しいことを言っても、選手が理解しないと成長しない。できる限りやさしく、簡単に指導しようと思っている。どんなフォームでも基本を身につければバットは振れる。力強いスイングができるように簡単に教えている。子どもは素直なので、難しいことを言うと悩む恐れがある。コミュニケーションを取りながら、一つひとつ細かく、分かりやすく。難しい作業だが、チャレンジしています」
技術指導だけでなく、中村氏が体験談を語るミーティングも選手にとっては学びの場だ。ある日のグラウンドでこんなやりとりがあった。
「『エラーしたらかっこ悪いと思うか?』と手を挙げてもらったら、あまり挙がらなかった。これは楽しみだなと。では、『空振りはかっこ悪いか?』と聞いたら、それはかっこ悪いと思うみたい。恥ずかしいことないぞ、空振りもエラーも付きものだよと話した」
中村氏と選手のそんなやりとりを見た佐野監督は言う。
「嫉妬心を感じた。自分が高校生になりたい。選手の目がキラキラしていましたから」
技術、指導法は地域や県内の共有財産
中村氏の招へいはもちろん、チーム強化が第一の狙いである。だが、それとは別の思惑もあるという。説明したのは78年春のセンバツで浜松商を優勝に導き、常葉菊川(現常葉大菊川)の監督としても甲子園に出場した磯部修三氏。浜松開誠館の監督を務め、現在は名誉監督として野球部に関わる、静岡県内きっての名将である。
「中村さんの実績はご存じのとおり。その中村さんの技術、経験、指導法を浜松開誠館で独占する気はない。この地域や県内の共有財産にしたい」
他校の選手や指導者が浜松開誠館のグラウンドを訪れ、中村氏が指導する姿を見学する。それを持ち帰り、お互いのレベルアップに生かしてほしいというのだ。
「甲子園で全国の動きを見ていると、正直(全国との差は)年々、開きが出ている。以前は『組み合わせ次第でベスト8まで行ける』だったのが、『組み合わせが良ければ、1回戦は勝てる』というレベルまで、開きが出てしまった。中村さんが起爆剤になってほしいのです」
名誉監督の思いを知った中村氏は「初めて聞きました」と苦笑いしたが、もちろん歓迎の意向だ。現在は自宅がある兵庫県内で野球指導のスタジオを開いていて、浜松開誠館での指導は月に2、3回、週末になる予定。夏の静岡大会は時間が許す限り、球場まで駆けつけるつもりだ。
「指導するわけだから、今までの成績ではなく、一つでも上に行きたい。僕にできるのは打ち勝つチーム作り。1人でも思い切り振れるバッターに成長してほしい。甲子園という夢舞台に立ってもらいたい」
正式には引退表明しておらず、「また挑戦し続けて、まだまだ現役です」と話す中村氏。野球人生第二幕の始まりである。
写真=BBM
※『週刊ベースボール6月24日号増刊 第99回全国高校野球選手権大会 予選展望号』より

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