画像: 【石田雄太の閃球眼】観覧車から美しい野球場を見下ろしてみて――

【石田雄太の閃球眼】観覧車から美しい野球場を見下ろしてみて――

Koboスタ宮城(現Koboパーク宮城)に昨年誕生した観覧車
まだ後楽園球場があった頃――。
巨人戦の切符を買えなければ、隣にあった後楽園ゆうえんちへ行ってスカイフラワーに乗ったものだった。ゴンドラに乗って高いところまで上がり、パラシュートで下まで降りてくるという、あのアトラクションである。後楽園球場のレフトスタンドの向こう側にそびえたっていたスカイフラワーは、パイオニアがやけに目立った電光掲示板、目に鮮やかな日本初の人工芝と並んで、後楽園球場の三大アイコンだった。
一番上まで行くと、巨人が試合をしているグラウンドが見えた。豆粒のように小さくても、白いユニフォームを着てサードを守っている選手がいればそれは長嶋茂雄で、ファーストを守っていたのは王貞治だった。空から見下ろす球場は、ダイレクトにONと自分の間をつないでくれた。さえぎるものが何もない幸せ――距離は離れていても、スカイフラワーで上った天空と、決して立ち入ることのできない後楽園球場のグラウンドが、直接、つながっていることを実感できたあの感じが、子ども心にたまらなかったことを、今でもよく覚えている。
そんな風景を思い起こさせてくれたのが、仙台のKoboスタに昨年、誕生した観覧車だった。後楽園球場と同じ、レフトの向こう側にそびえたつ観覧車は、Koboスタ宮城の風景を一変させた。正面の入り口からのアプローチで観覧車が見えないのは残念ではあるが、それでもスタンドへ入った瞬間、目の前に現れる観覧車は心を弾ませてくれる。ところが仕事で球場へ行くとなると、なかなか観覧車に乗る機会を得られない。そのうちに、と思っていたら昨年のシーズンが終わってしまった。そんなわけで、今年こそはと思っていたのだが、ついにその機会を得ることができた。思い切って試合中、観覧車に乗ってみることにしたのである。
観覧車に乗るためには400円を支払わなければならない。決して高くない値段設定だ。列に並び、順番が回ってくると、係員のおにいさんが何やら早口でまくし立てた。
「もしよろしければブラックゴンドラに乗れますが、これは外が......」
よく聞き取れなかったのだが、珍しい黒のゴンドラに乗れるチャンスだということは分かった。ならば乗るしかあるまいと思って、さっそうと真っ黒に塗られたブラックゴンドラとやらに乗ってみたら、なんと、中はすりガラスに囲まれていて、外が見えないではないか。おいおい、観覧車なのに外が見えないってどういうことだ、と思わず一人で苦笑い。これでは当初の目的が達成できないと思い、再度、400円を払って、今度はノーマルなゴンドラに乗った。
今度こそ空から球場を見下ろすぞと、胸を躍らせる。グラウンドに立つイーグルスの選手たちとゴンドラで天空へ上がる自分をダイレクトにつなぐことができるのは、球場を覆う無粋な屋根がないからだ。今でも東京ドームにはスカイフラワーがあるが、天空から見下ろせるのは無機質な建造物だけ。何度も言うが、ドーム球場はとことん寂しい。
観覧車のゴンドラは、予想をはるかに超えて高いところまで上がっていく。豆粒ほどに、しかし金網の隙間を通せば確かにダイレクトにつながった選手たち。あっ、打球が左中間へ上がった。センターの島内宏明とレフトの松井稼頭央がこちらへ向かって走ってくる。まるで高層ビルから花火を見下ろすときのように、高く上がった打球が下に見えるのは、なんとも不思議な気分だ。一周6分間、高いところへ上がっているのは2分ほどではあったが、幸せを満喫するのには十分な時間だった。
ベイスターズが今年の3月、横浜市に提出した横浜スタジアムの改修案。ブルーライトに包まれた球場を描いた完成予想図にワクワクした野球好きは多かったはずだ。6月末にファイターズが発表した新球場建設の構想にも、天空から見下ろした美しいボールパークのイメージが描かれていた。福岡の屋根がほとんど開かない現実を思えば、半分がドーム球場の日本球界。百歩譲って、札幌の構想にあったスライド式の屋根はいいとして、空を無神経に覆うドームは、もはや時代遅れだ。ここに手を付けようとしない球団は、間違いなく取り残される。観覧車から美しい野球場を見下ろしてみて、あらためてそんなことを感じた次第――。
文=石田雄太 写真=BBM

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