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【高校野球】埼玉勢が夏の甲子園初優勝に最も近づいた日

関東勢で唯一、夏の甲子園で優勝の栄冠をつかんだことがない埼玉。今夏の甲子園、花咲徳栄が決勝進出を果たしたが、埼玉に初の歓喜をもたらすか注目が集まる。この花咲徳栄の前に決勝で戦った埼玉勢は1993年の春日部共栄だ。2年生左腕が奮闘した24年前。埼玉勢が甲子園優勝に最も近付いた試合を振り返る。
向こうっ気の強い左腕の奮闘
春日部共栄は2年生左腕の土肥がエースとして投げ抜いた
「監督、ちょっと気分が悪いんですよ」
1993年8月23日。育英(兵庫)との決勝戦が始まる直前のことだった。春日部共栄の2年生エース・土肥義弘(現西武投手コーチ)の顔から血の気が引いていた。試合前、気分が悪くなって酸素を吸入、貧血気味でくらくらする頭を氷で冷やしながらの決勝のマウンド。それが影響したのか、初回、持ち味の緩いカーブが入らず、球の走りも悪かった。
そこにつけ込んだ育英は、先頭の安田聖寛がプッシュバントで出塁し、岡本健二のときにバスターエンドランを決め、一、三塁と先制のチャンスを作った。続く大村直之(のち近鉄ほか)の四球で無死満塁とし、西内宏が右前適時打を放ち、桑鶴英作もスクイズを決めて2点をもぎ取った。それでも土肥は笑顔を見せた。その後、ピンチに立たされてもスローボールでカウントを稼ぎ、どんな場面でも真っ向から力勝負に挑んだ。向こうっ気の強さが、そのピッチングに表れていた。
育英の先発は井上靖士。継投は予定の策だったが、1安打しか許していない井上が、4回先頭の梅村を四球で歩かせたところで、2番手に酒谷敏を登板させた。育英の継投は早過ぎる気はしたが、案の定、前日完投している酒谷の球に力はない。高橋正幸の二ゴロで梅村真司が二封されたあと、高橋は二盗、捕手のけん制悪送球で三進、柴田耕一の右前打で春日部共栄は1点を返した。さらに5回だ。小川晃一、土肥の長短打で2対2の同点とし、試合を振り出しに戻した。
シメタ!と春日部共栄、シマッタ!と育英
8回裏、育英のセーフティースクイズが土肥の悪送球を誘い、決勝点となった
試合の分かれ目は8回だった。春日部共栄は8回一死一、三塁のチャンスで動かず無得点。その裏だ。育英は先頭の四番・西内が投手強襲の内野安打で出塁。次打者・桑鶴の送りバントは失敗に終わったが、六番・渡辺順之がバスターエンドランを決め、一死一、三塁とチャンス拡大。育英は、ここまでこの試合の4を含めて、通算最多犠打30と大会新記録を作っているチーム。100パーセント、スクイズだ。春日部共栄ベンチも、バッテリーも、そう確信している。事実、日下篤監督のサインもそうだった。
ただし、育英の場合、スクイズはすべて打球が転がるのを確認してから三塁走者がスタートを切る、いわゆるセーフティースクイズ。だから、1球目をファウルしても、打席の田中秀和も、三走・桑鶴も動じない。
田中は思った。
「初球からずっとスクイズのサイン。でも、結構、シュート回転がきついから、よほどしっかりボールを見ていないと。カウント3ボール1ストライクだから次は絶対にストライク。勝負だ......」
土肥の投じた5球目、確かにストライクだった。ただし、田中の打球は土肥の正面の強い当たりだ。シメタ! と春日部共栄ベンチ。シマッタ! と育英ベンチ......。
土肥はサウスポーである。三走の動きは背中で感じるしかない。そして、前日ビデオで研究しているだけに、育英がセーフティースクイズを仕掛けてくるのも百も承知だ。一瞬、強い打球だから「ホームには走らないな」。そう判断した。走塁に関してはイヤらしいほどしたたかな育英の桑鶴が、このワンチャンスを逃すはずはない。いきなりギヤをトップに入れてホームへ向かうと、判断が遅れた分、土肥の送球がそれ、バックネットへ転々とする間に勝ち越しのホームインを果たした。
5回表、守備で左ヒザをスパイクされ負傷し、試合中、球場近くの病院で3針縫う治療を受けた育英の安田主将も8回裏の攻撃中にベンチへ戻ってきて、決勝点を挙げる場面を見届けていた。
結局、9回表に得点を奪えず、準優勝に終わった春日部共栄。自らのエラーで敗れた土肥は「3年生の方に悪いことをしてしまいました......」。その後は言葉にならない。先輩たちに囲まれ、「おい、笑えよ。来年頑張ってくれよ」と励まされても、涙は止まらなかった。しかし、全国の舞台で5試合を1人で投げ抜き、チームを準優勝にまで押し上げた左腕にマンモススタンドのファンから温かい拍手が降り注いだ。
「大満足です。本当によくやってくれました」
埼玉勢の夏の甲子園初優勝は逃したが、春日部共栄の本多利治監督も選手を称えた。
写真=BBM

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