画像: 最終戦同率決戦! 伝説の「10.8」【1994年10月8日】

最終戦同率決戦! 伝説の「10.8」【1994年10月8日】

プロ野球の歴史の中から、日付にこだわって「その日に何があったのか」紹介していく。今回は10月8日だ。
指揮官に悲壮感なし
気持ちよさそうに宙を舞う長嶋監督。会心の一戦だった
「みなさん、こういう試合は初めてですか。やりますよ! 総動員です。もう社会現象というか、国民的行事になっていますからね」
巨人・長嶋茂雄監督が満面の笑顔で報道陣に語ったのが、10月7日、新横浜駅の新幹線ホームだった。ナゴヤ球場で行われるシーズン最終戦への出発前だ。
130試合制の129試合を終え、巨人は翌8日に対戦する中日と同じ69勝60敗。最後の一戦での勝者がリーグ優勝という劇的な戦いとなっていた。現役時代、73年の最終戦の阪神戦も勝てば優勝。そのときを思い出していたのかもしれない。優勝か2位かの大勝負だが、目をキラキラさせた長嶋監督に悲壮感はまったくなかった。
長嶋監督はその夜、宿舎で槙原寛己を呼び「あすは、お前と斎藤(雅樹)、桑田(真澄)に任す。まず、お前が先発で行け」と告げ、次に桑田を呼び「しびれる場面で行くぞ」と声を掛けた。なぜか斎藤は呼ばなかったようだが、巨人が誇る「先発三本柱」にすべてを懸けたのだ。
槙原が思わぬ乱調
二番手で登板し、気迫の投球を見せた斎藤
決戦当日、試合前のミーティングで、長嶋監督は顔を紅潮させながら「俺たちは勝つ! 勝つ! 勝つ!」と叫び、選手たちも「おう!」と大声でほえた。「選手冥利に尽きるでしょう」と長嶋監督は試合前に話していたが、間違いなく、自分も選手として出たいと思っていたはずだ。
初回、巨人の攻撃を中日先発の左腕・今中慎二が簡単に3人で打ち取る。その裏、マウンドに立った槙原がピリッとせず、2本のヒット、1死球を与えるが、大一番の緊張もあってか中日の拙攻に救われ、無失点に抑えた。
2回表、均衡を破ったのが、FA入団1年目、40歳の四番・落合博満だ。今中の真ん中低めの速球をスタンドに運び1点。その後、巨人はさらに1点を加えた。
しかし、その裏、またも槙原が崩れ、同点に追いつかれ、さらに無死一、二塁とされる。ここで長嶋監督は早くも槙原を見切り、斎藤にスイッチ。槙原は「特別な緊張感はなかったけど、それがよくなかった。何となく自信があって、その勢いのまま先頭打者に初球を投げて、打たれたことですべておかしくなったんです」と語った。
そのときブルペンにいた斎藤は「バッテリーコーチの山倉(和博)さんに、斎藤!って呼ばれたけど、こんな場面で投げたくないと、聞こえないふりをしました」と振り返るが、おそらくジョークだろう。ピッチングは気合十分。2日前に先発している疲れを感じさせぬ力投で、その後を抑えた。
3回表には川相昌弘がヒット、松井秀喜のシーズン初の送りバントの後、落合がライト前に運び、ふたたび3対2とリードした。
しかし、その落合が3回裏の守備中に左足の内転筋を痛めてしまう。痛み止めを打って一度はグラウンドに戻ったが、「迷惑をかけると思い、自分から言った」と4回からベンチに退く。
村田真、コトーの本塁打
4回表、巨人打線が今中をつかまえた。一死から村田真一、二死からコトーがソロで2点。流れが一気に巨人に傾く。さらに5回表には、今中から代わった山田喜久夫から松井が20号。珍しく右手を大きく上げ、塁を回った。
結果論だが、中日にはまだ最多勝の山本昌広、防御率1位の郭源治がいた。巨人同様、早めに2人につなぐ展開も考えられたが、高木守道監督はなぜか動かなかった。
二番手の斎藤は6回裏に1点を取られたが、被安打は3で中日打線を沈黙させた。大きな声でほえ、何度もガッツポーズを繰り出す気迫のピッチングを貫く。実は、途中で内転筋を痛め、テーピングでぐるぐる巻きにして投げていたという。捕手の村田真は「足がちぎれても投げろ!」と乱暴な喝を入れた。長嶋監督も斎藤を「この試合、一番の功労者」と称えている。
7回には桑田が登場。こちらも3日前に8回を投げ、「体がバリバリだった」と言うが、斎藤同様、気迫を前面に出したピッチングで三者凡退に斬って取る。
落合の涙
胴上げ投手となった桑田が捕手の村田真が抱き合う
8回裏、中日も意地を見せた。桑田にとってはPL学園高の後輩でもある立浪和義が三塁前の当たりで一塁にヘッドスライディング。内野安打としたが、左肩を脱臼し退場となった。「野球には流れがある。自分が出たら絶対点になると思った」と語った捨て身のプレーだ。意気消沈としていた中日ベンチにこれで再び火がつき、一死一、三塁とする。
しかし、ここで桑田は「さすが立浪。PL野球だ。俺はお前のためにも勝つぞ」と自らを鼓舞し、ギアを上げる。しっかり後続を断った。9回表には、バックスクリーンに当たったかに見えた川相の幻のホームランもあったが、結局、無得点。ただ、きょうの桑田に、もう援護の必要はなかった。
その裏、最後の打者を空振り三振に打ち取り、桑田はガッツポーズ。走ってきた捕手の村田真に思い切り、飛びついた。
時計は21時22分。笑顔の長嶋監督が5度宙を舞う。自身、77年以来、17年ぶりの優勝胴上げだ。その後、ベンチから足を引きずって出てきたが、胴上げには参加しなかった落合と長嶋監督が抱き合う。落合の目に涙が浮かんだ。「長嶋監督を胴上げするために来た」と巨人入団。まさに有言実行となった。
インタビューで長嶋監督は「竜の背中にまたがり、天にも昇るような気持ちです」と語った。この試合のテレビ視聴率は関東で48.8パーセント。まさに国民的行事だった。
写真=BBM

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