画像: エースQB馬島のあとを受けて登場した野辺。撮影:H.Yamada

エースQB馬島のあとを受けて登場した野辺。撮影:H.Yamada

 「1年生は奴隷で、4年生は神様」。時代やチームの文化によって程度の差はあるが、体育会で育った人間であれば例外なく、一定の上下関係を経験しているだろう。だが、フットボール界にそれをぶち壊そうとしているチームがある。法政大オレンジだ。

 10月28日、公式戦としては初めて慶応大のホームである日吉陸上競技場で開催された慶応大—法政大の一戦は、負けたチームが関東学生リーグの優勝争いから脱落するという重要な一戦だった。

 試合は法政大オフェンスのファーストシリーズで、4年生のエースQB馬島臨太郎が負傷退場するという波乱の幕開けとなった。代わりに出場した2年生のQB野辺歩夢は、慶応大DBの好カバーもあり、パスを決めることができない。さらに、2つのインターセプトを奪われた。WR高津佐隼矢のパントリターンTDによって、スコア上は法政大リードで試合が進んだが、じりじりと慶応大が流れを押し戻していった。

 第4クオーター、慶応大の1年生QB三輪忠暉がWR加藤航太郎にTDパスを決めて、ついに13−10と慶応大が逆転に成功する。ここまでほぼ完璧に抑え込まれていた法政大オフェンスに、逆転する力は残されていないかと思われた。しかし、QB野辺がラストドライブで奮起すると、試合時間残り53秒に再逆転となるTDランを自ら決めて、17−13と激戦に終止符を打った。

 時計の針を2017年の2月に戻す。法政大の新チームがスタートした時に、「上下関係をなくしたフラットな関係」という方針が打ち出された。最終的にはLBの小山克成が立候補して主将を務めることになったが、当初はキャプテンすらも置かない予定だった。選手たちは戸惑った。「いきなり“フラット”と言われても、先輩とどう接していいか分からない・・」とQB野辺が当時を振り返るように、ぎこちなさと違和感が漂っていた。

 状況を一変させる出来事があった。法政大の選手たちが、前人未到の大学選手権8連覇を達成している、帝京大ラグビー部の練習を見学した時のことだ。私自身も一度だけ帝京大の練習を見たことがあるが、大きなカルチャーショックを受けた。顔と名前が一致するスター選手を除いて、誰が上級生で誰が下級生かまったく分からないのだ。掃除などの身の周りの雑用は上級生が積極的に行い、練習中に何度も行われるポジションごとのミーティングでは、全員が堂々と発言していた。

 この日を境にして、フラットな関係は少しずつ法政大に定着していく。だが、誰もが納得したわけではなかった。4年生を中心とした上級生の中には不満を持つ選手もいたし、「上下関係のけじめはしっかりつけたほうがいい」と、OBや父兄の中にも反対意見はあった。主将の小山はリーグ戦の開幕を前にして、安田秀一総監督に悩みを打ち明けている。

 安田総監督のアドバイスは、「正解はないから、自分で考えてみなさい」だった。

 それから2カ月。リーグ戦も佳境を迎えて、小山はすっきりした表情をしていた。「モヤモヤしている部分がまったくないわけではないですが、気持ちはだいぶ整理できました。僕らは正しいことをしています。1年生が強制ではなく、自主的にうまくなろうとアフター練習をする。こんな光景、今までありませんでした。4年生の中にはストレス感じているやつもいますし、僕らは損な役回りなのかもしれません。けど、ここでフラットな文化を作れれば、例え今年結果が出なくても、来年以降に必ず花が咲くと思います」

画像: 慶応大のDBと競り合いながら、QB野辺のパスをキャッチするWR神。撮影:H.Yamada

慶応大のDBと競り合いながら、QB野辺のパスをキャッチするWR神。撮影:H.Yamada

 フラットな関係について、以前に帝京ラグビーの岩出雅之監督が印象的な話をしていた。「文化として根付くまで、チームは一時的に弱くなるよ」。法政オレンジは、まさにチームとしてその葛藤を乗り越えている最中なのかもしれない。

 2年生のQB野辺は、フラットな関係についてこう語る。「僕がエースの隼矢さん(高津佐)に注文を出すこともあるし、逆に1年生の神から指摘を受けることもあります。フラットな関係というのは、お互いにリスペクトした上で、学年に関係なく自己主張しあう、正しいことや間違ったことを指摘しあう関係だと思います」。事実上この試合を決めたプレーは、日頃から切磋琢磨する、野辺から神への下級生ホットラインによるロングパスだった。

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