九州場所11日目、全勝の白鵬は関脇嘉風と結びの一番で顔が合いました。これまで16回対戦して1勝しかしていない嘉風は、「まともにいっては勝ち目がない」とある作戦をひらめきます。立ち合いでひと呼吸、遅れて立ったのです。

 突っかける形となった白鵬は当たる瞬間に力を抜きましたが、両者きちんと両手をついており、立ち合いは成立と見なされました。式守伊之助の「はっきよい、のこった」の掛け声とともに猛然と前に出た嘉風。作戦は成功し、白鵬は土俵下に吹っ飛ばされました。

 起き上がった白鵬は、右手を上げて、「今のは“待った”だ」と主張しますが、誰も聞き入れてくれません。「今のはズルいよ、もう1回やらせてよ」とごねる子供のようでした。約1分間、泣き出しそうな表情で土俵下に立ち抗議しますが、審判に促されて渋々土俵に上がりました。

 土俵に上がって嘉風が勝ち名乗りを受ける間も、白鵬は立ったまま動こうとしませんが、弓取り力士が上がってきたところであきらめて土俵を降り、花道を引き揚げました。これは模範となるべき横綱としては恥ずべき行為です。日馬富士の暴行問題で情緒が不安定だったとしても、横綱の品格に欠けた行動だったと思います。しかし、私はここに白鵬の強さの秘密があるのかなと感じました。

 どんなスポーツにせよ、頂点に立つ者は総じて負けず嫌いです。その中でも白鵬は、飛び抜けた負けず嫌いだと思います。力を出さずに負けて帰ることが悔しくて仕方がないのです。その気持ちがあるから、どれだけ記録を更新しても、勝ち続けていけるのだと思います。

 部屋に戻った白鵬は、何度もこの相撲を見たでしょう。そして、納得したのでしょう。翌日、審判部に呼び出され、厳重注意を受けた白鵬は、素直に「反省しています」と詫びたそうです。

 負けて悔しい気持ちがなくなったときが引退の時期と、よく言われますが、白鵬の引退はまだまだ先になりそうです。

文=山口亜土

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