現在も本誌にて好評連載中の「突撃!研究室訪問」。本連載は2011年にスタートし、これまでに80を超える大学研究室を訪問してきた。記念すべき第1回を飾ったのは、本誌連載『最新 筋肉の科学』でもお馴染みの石井直方教授だ(東京大学)。筋肉研究の第一人者である石井先生の研究室と実験室にお邪魔し、研究者としての素顔に迫っている。(取材・構成/本島燈家〈ライトハウス〉)
※本稿は『コーチング・クリニック』の連載「突撃!研究室訪問」第1回として、2011年1月号に掲載したものを再構成したものです。

「オリジナル」が
一番強い武器

 東京大学大学院「石井研究室」(以下、石井研)は、1999年に誕生。筋肉のスペシャリストである石井直方教授のもと、これまで数々の大学院生たちが籍を置き、社会に巣立っていった。
 そんな石井研の特徴は、各々の研究テーマを比較的自由に決められること。石井教授はアドバイスしたり、アレンジを加えたりすることはあっても、「基本的にはやりたいことをやらせる」。ただし、自分の好きなテーマを研究するということには、楽しい面もあれば苦しい面もあるのだと石井教授は言う。

「これをやりなさいと指定されたり、前任者の研究を引き継いだりすれば、レールができていますし、結果もある程度は確約されています。それをそれなりにこなして学位論文を書けばいいというのは、楽と言えば楽。逆に、自分のやりたいテーマで研究を始めると、ほかの人が似たようなことをやっていることが後でわかったり、角度を変えて攻めなければいけなかったり、という問題が出てくることがあります。誰も触れていないテーマだと思ったら、過去にたくさんの人が頓挫したものである可能性もある。そうした壁を乗り越えなければいけないケースが多いので、若い頃に好きなテーマをやるというのは、苦しいことも多いものです。もちろん、それを乗り越えて成果を出すことができれば、非常に大きな財産になりますから、強い意志をもって取り組んでみる価値はあると思いますが」

 石井教授も数々の試行錯誤を繰り返してきた経験がある。
 筋肉のことがほとんど解明されていなかった70年代に東京大学大学院に進み、ムラサキイ貝を題材とした平滑筋の研究と日々格闘した。その後も暗中模索の実験を地道に続けることで、筋肉研究の第一人者という現在の立場につながる成果をいくつも生み出してきた。
 石井研には「調べたいことがあったら、それを調べるための機械を作るところから始める」という伝統があるが、これは石井教授の学生時代からの根幹的なポリシーだ。

画像: 試行錯誤の末に作られたオリジナルの測定器たちは、石井教授にとっては我が子のようなもの。写真は、石井教授がアドバイザーとなって開発された市販の筋力測定器「メディモP」

試行錯誤の末に作られたオリジナルの測定器たちは、石井教授にとっては我が子のようなもの。写真は、石井教授がアドバイザーとなって開発された市販の筋力測定器「メディモP」

「手法からしてオリジナルであるというのが、一番強い武器になりますからね。過去に誰かがやった研究と似たようなことして、同じ結果が出た、微妙に違う結果が出た、ということを証明するのも1つの研究ではあります。ただ、そうした後追い的な研究が多すぎて、情報過多になっている面があるのも事実。我々は、もっと人間の本質的なところに迫るような、オリジナリティの高い研究をやっていきたいのです。世の中にないもの、新しいものを求めていく。それは口で言うほどやさしくはありませんが、それで本当に成果が上がれば、ゆくゆくは教科書に載るようなものになる可能性もあるのですから」

執念をもって
チャレンジしていくことが大事

 実験室には、ある大掛かりな測定器が設置してある。ふくらはぎと前脛骨筋の筋力を測るためのものだが、この機械が十分な性能を発揮できるようになるまでには何度も改良が繰り返され、膨大な時間と経費がかけられた。
 それを使用したデータが論文にまとめられたのは2006年のことだったが、着想は87~88年頃にはあったという。努力が形になるまでに、実に20年近くの歳月が要されたのだ。そうして石井教授と何人もの院生の試行錯誤が反映された測定器は、世界に1つしかない画期的なものとなった。

「結局、研究で大事なものは“着想”と“執念”だと思います。簡単にできてしまうような研究は、既に誰かがやってしまっていることが多いもの。だから、なかなかうまくいかないことに情熱をもって取り組み、何度も挫折したり、違う角度から攻めたりしながら、執念でチャレンジしていくことが大事なのです。それでも成果が出るまで何年かかるかわからない。世の中にないものを求めていくというのは、そういうものです。大学院生は修士課程2年、博士課程3年のなかで学位を取るので、時間制限がありますが、その後も長い視野で目標をもって研究を続けていれば、やがて必ず実を結ぶと思います。院生のみんなには、そういう執念をもってもらいたいですね」

 自らの筋肉をこつこつと鍛え上げ、ボディビル日本一になった石井教授の哲学は、最終的には根性論に近くなる。これは「失敗したことはない。うまくいかない方法を1万通り見つけただけだ」というエジソンの名言にも通じる。その背中を追っているだけあって、現在の院生たちも志は高い。

画像: 取材当時の石井教授と院生の皆さん

取材当時の石井教授と院生の皆さん

 石井教授には、残りの人生をかけて取り組む予定の壮大な研究テーマがいくつかある。いずれも簡単に成果が出ないことはわかっている。石井研の院生たちも、その研究の一部に関わりながら、貴重な時間を共有することになるのだろう。

Profile(2017年11月現在)
いしい・なおかた
1955年、東京都生まれ。東京大学理学部卒業。同大学大学院博士課程修了。東京大学教授(運動生理学、トレーニング科学)。理学博士。東京大学スポーツ先端科学研究拠点長。力学的環境に対する骨格筋の適応のメカニズムおよびその応用としてのレジスタンストレーニングの方法論、健康や老化防止などについて研究している。日本髄一の筋肉博士としてテレビ番組や雑誌でも活躍。『筋肉まるわかり大事典』『トレーニング・メソッド』(ともに小社刊)など、著書多数。日本ボディビル選手権優勝(81、83年)。アジアボディビル選手権優勝(82年)、NABBA世界ボディビル選手権3位(81年)。

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