オフシーズンに突入するスポーツも多い、この季節。ボディビルやフィジークなどの肉体美を競う競技も11~12月に世界大会を終え、今は体づくりの時期にある。体づくり=筋肥大。そして、筋肥大のためには食事・栄養摂取が重要だ。日本ボディビル選手権、目下8連覇中の鈴木雅選手は、どのような食生活を送るのだろうか。気になる人代表で、トレマガ編集部が聞いてみました。
(取材・構成/鈴木彩乃、撮影/石島道康)
※本稿は、2015年2月に発行の『トレーニングマガジンVol.37』に掲載したインタビューを再構成したものです。ここでご紹介する鈴木選手の食生活、栄養摂取の考え方は当時のものです。何卒ご了承ください。

最も重要なのはトレ前後

――鈴木選手自身が筋肥大に着手するときの手順を教えてください。
鈴木 私はトレーニングと食事、そして休養が体を大きくするための3大原則と考えています。それぞれの比率は1:1:1。すべてが同じくらい大切ということです。たっぷりトレーニングをしたなら、その分しっかり栄養をとるべきですし、ゆっくり体を休める必要があるのです。
――そのなかで「食事」は、どのようにしていますか?
鈴木 3食きちんと食べることをベースとして、できれば間隔を空けずにタンパク質の補給ができるといいですね。例えば肉類をとると、3~4時間で消化します。空腹になると筋肉が分解されてしまいますから、アミノ酸血中濃度を保つために2~3時間ごとに何か食べたほうがいいのですが、私の生活リズムで考えるとそれは難しいので、プロテインを飲むようにしています。
――それが基本。
鈴木 鉄則ですね。もう1つはカロリーの調整。自分が日常生活を送る上での必要カロリー数を知っておくことです。体を大きくしたいときは摂取カロリーをそれより多くすればいいし、減量したいときは少なくすればいいので、体をつくりやすくなります。さらに、そのなかでタンパク質の基準値(必要量)を満たしているかどうかが大切です。基準値は、除脂肪体重×2g。これは最低限の数字で、人や性別によってその数は変わります。私の場合はかなり多めで、4~5gくらいです。
――もう少し具体的に、筋肥大に向けた栄養補給のスケジュールを教えてください。
鈴木 1日3食に3~4回のプロテインをプラスして、トータル7~8回の栄養補給をしています。とにかく隙を見ては食事をとりたいと思っています。ちなみに、私は仕事の合間にプロテインを2回飲んでいますけど、そこはあまり重要ではありません。それよりもむしろ、トレーニング前後の食事が大切です。トレーニング前の食事とトレーニング後のプロテイン、そしてその後の食事はできるだけしっかりとるように心がけています。
――「しっかり」というのは?
鈴木 とる時間やその内容を考えて、ということです。仕事をしていると日々不規則になりがちですが、重要視しているトレーニング前後の食事に関しては唯一、仕事の忙しさなどに関与されない時間なんです。トレーニング後は速やかに必要量を入れてあげるという考えです。
――食事内容に関して、特に気をつけていることはありますか?
鈴木 糖質でしょうか。特に、タンパク質をとるときは、糖質を同時にとらないと吸収が悪い。タンパク質だけとっても窒素やアンモニア、あるいは疲労物質に変換されてしまうので、タンパク質をなるべく効率的にとるためにも糖質をとりたいと考えています。ただ、減量期間に入ったときなどは、糖質は特に必要となるトレーニング前後だけしっかりとって、寝る前の食事からは減らす、というような調整をしています。
――糖質はどのようにとっていますか?
鈴木 白米や玄米、オートミールです。トレ後は吸収の早い糖質を体に入れるよう意識しています。というのも、吸収が早いもののほうが回復も早く、すぐグリコーゲンに変換されやすいから。つまり炭水化物が炭水化物、そのままの糖質として体に吸収されやすくなるので、そのときはエネルギードリンク(スポーツドリンク)などを飲むようにしています。果糖が多いとグリコーゲンになりにくいといわれているので、マルトデキストリンやブドウ糖といったものを選んでいます。

画像: トレーニング前の食事とトレーニング後のプロテイン、そしてその後の食事はできるだけしっかりとるように心がけている

トレーニング前の食事とトレーニング後のプロテイン、そしてその後の食事はできるだけしっかりとるように心がけている

美味しく食べる、が鉄則

――調理法については、どのように考えていますか?
鈴木 揚げ物はなるべく避け、極力自然の脂をとるようにしています。オイルを使った料理をするときには、量を計って適量をフライパンに引く程度。きちんと計らないとカロリーの計算ができなくなりますから。体重を増やす時期であれば誤差は問題ないと思いますが、最終的に減量につなげようと思うなら、管理しておいたほうがいいと思います。例えば、サーロインステーキを食べるとき、アメリカやオーストラリア産の肉と和牛とでは、脂質の量が全く違いますよね。霜降りになった和牛を選ぶと、脂肪部分を取り除くことができませんし、そもそもカロリー計算(調整)ができなくなります。脂肪の少ない肉をとりつつ、足りない分の脂肪はフライパンにたらす小さじ1杯のオイルや、あるいは卵、ナッツなどでフォローします。
――味付けはどの程度?
鈴木 塩コショウじゃないとダメ!ということはなく、減量期でもケチャップやソースなどの調味料を使います。どれも多すぎない程度の量であればいいかな、という考えですね。逆にこだわりを強くもちすぎて、美味しくない状態で食べたとしても、唾液がうまく出てこないというか、体内酵素が出ないといわれています。私自身も調理法がシンプルすぎる食事だと、消化できている感じがしないですね。ずっと胃のなかに残っているような…。私は食欲を制御することに苦痛を感じないタイプですが、食という楽しみを捨ててしまうと、人間としての3大欲求の1つがなくなってしまうわけですから、幸せホルモンが出ないですよね。だから調味料も使って、美味しくいただくほうがいいのではないかと思います。
――そうすることも継続のポイントの1つなのですね。
鈴木 食事に関しては、ストレスを溜めないことが一番だと思います。我慢を続けていると、前頭葉が疲れてホルモンバランスが崩れ、夜に眠れなくなり、最終的に自律神経のバランスが崩れてしまいます。とはいえ、体づくりに取り組む以上、絶対的に何らかの制御を加えた生活になる。そのために、何も気にすることなく食べていい日を設ける「チートデイ」というテクニックが存在するので、それを活用するのもアリですよね。
――鈴木選手もチートデイを設けるのですか?
鈴木 いえ、私は食事を制限することにストレスを感じないので、チートデイはありません。ちなみに、田代誠選手や佐藤貴規選手も同じタイプのようです。田代選手は以前、「チートデイの意味がわからない」ともおっしゃっていました。
――さすがのコメントです。
鈴木 本当です。木澤大祐選手は食べることが好きだから、チートデイを活用しているそうですよ。どういうタイプかによって、人それぞれ最善策は変わると思います。
――食材についてはいかがですか?
鈴木 肉に関しては脂肪の多い・少ないだけでなく、さまざまな種類をとるようにしています。豚肉もとりますし、牛肉も、鶏肉も、もちろん魚も。そうすることでいろいろなアミノ酸が入ってくるので、体のバランスが保てます。よくあるのは、鶏肉だけにするという方法ですが、私の感覚では筋肉が萎む。パンプアップする気配がなく、何となく元気がない状態になるのです。あとは、肉をとったら野菜をとるようにしないとバランスが崩れます。肉は酸性で野菜はアルカリ性。体はアルカリ性にしておかないと、疲れがたまりやすくなりますから。
――野菜はしっかり食べておきたいですね。
鈴木 実は私、以前は野菜を全然食べなかったんです。
――全く食べなかったんですか?
鈴木 はい、全く(笑)。何年くらい食べていなかったでしょうか…? いや、たまには食べていましたけど、でも2日続けて食べるようなことは、まずなかったですね。今思うと、年間の2/3は疲れていました。野菜を食べるようになってからは、体調がすこぶるよくなりましたね。それはビタミン・ミネラルの働きというより、野菜の繊維質が胃腸の働きをよくしてくれたり、酵素が酸性をアルカリ性に中和する働きをしてくれたりするから。その重要性をひしひしと感じています。できるだけ季節に合わせた旬の野菜をいただくようにしています。

画像: ボディビルダー=鶏肉、というのは完全な思い込み。鈴木選手は鶏肉のみでタンパク質を補給すると、筋肉が萎む感覚に陥るという

ボディビルダー=鶏肉、というのは完全な思い込み。鈴木選手は鶏肉のみでタンパク質を補給すると、筋肉が萎む感覚に陥るという

お手本はマッスル北村さん

――筋肥大に向けて、バランスのいい食事をきちんととろうとすると、なかなか量がとれないという人も多いです。
鈴木 私も最近そうなんです…。ここ何年か、特に夏場はお腹が減らなくて、結果として体重が減ってしまうんです。そういうときはドリンクを飲んでもいいのですが、胃腸を疲れさせてしまうので、私はなるべく食べることを前提に、食べやすいものを用意します。それでも追いつかない場合は、胃腸薬を飲むこともありますね。胃も筋肉なので、毎食少しずつ多めに食べていけば、胃袋が大きくなってたくさん食べられるようになります。とはいえ、やっぱり年齢とともに入らなくなってきたな、とは思います。
――そうなんですか?
鈴木 20代前半のトレーニングを始めた頃は、体重が50kgくらいしかなかったんです。「体を大きくするためにはとにかく食べることだ!」と、もともと所有していた3合炊きの炊飯器に加えて、6合炊きを購入しました。
――え、両方使っていたのですか!?
鈴木 はい。朝3合、昼3合、夜3合で1日9合。間食には当時、某ファストフード店のハンバーガーが1個50円だったので、それを。でも、それでいっぱいいっぱいでした(苦笑)。先ほどの「野菜を食べない」という発想は、ここからきたんですよ。野菜を食べるとお腹がいっぱいになってしまうから、野菜をとらずに炭水化物をとっていたというわけです。
――トレーニングと平行してとにかく食べることから始めたのですね。
鈴木 ご飯をたくさん食べるために、ふりかけもよく使いました。ポテトチップスを砕いてふりかけていたこともあります。変な話、食べやすければ、量が食べられれば、何でもよかったんです。そのような食生活を1年ちょっと続けて、75kgまで増量しました。今思えば、最初に見たビデオの影響が大きいですね。マッスル北村さんの『THE世紀末バルクアップ1999』で、裸で生卵10個をミキサーにかけるシーンがあって。それがボディビルダーの常識なんだ、と(笑)。「皆、こんなことをしているのか!」と衝撃を受けました。それ以降朝は、生卵は無理だったので、卵10個をスクランブルエッグにして、ご飯3合とサバ缶と一緒にかき込みました。
――北村さんに倣って裸で?
鈴木 いえ、そこはマネしていません(笑)。
――若さゆえの方法ですよね。
鈴木 そう思いますね。若い頃は食べれば食べるだけ、トレーニングで扱える重量も増えていきました。それはもう「体重が増える=筋量も増える」といえるくらい。でも今は、たくさん食べると体がダルくなってしまいます。心肺機能が落ちて、トレーニングの質も低下してしまうので、なるべくそうならないような食事の仕方を心がけています。

画像: 2017年、世界選手権での鈴木選手。ケチャップを活用するのは当時から変わっていません(しかし、ゆで卵10個て…!)

2017年、世界選手権での鈴木選手。ケチャップを活用するのは当時から変わっていません(しかし、ゆで卵10個て…!)

PROFILE
鈴木雅(すずき・まさし)
1980年12月4日、福島県生まれ。21歳から本格的にトレーニングを始め、ボディビル競技歴2年で東京選手権優勝。2010年以降、日本選手権で優勝を重ねており、今年で連勝記録を「8」に伸ばした。16年3月のアーノルド・クラシック・アマチュアで男子ボディビル80kg級優勝を果たすと、同年11月にスペイン・アリカンテで開催された世界選手権でも、男子ボディビル80kg級で遂に頂点に立った。株式会社THINKフィットネスに勤務し、ゴールドジムアドバンストレーナーとして活躍中。

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