海の向こうでは、“究極のテクニシャン対決”ワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)vs.ギジェルモ・リゴンドー(キューバ)がまもなく始まろうとしている。全世界のボクシングファンが、この瞬間を待ち望んでいたといっても過言ではない。まさに21世紀最大最高の“ミクロの戦い”。
 そして、わが日本でも、世界チャンピオン同士、同じくサウスポー同士の女王対決が、あと1週間に迫ってきた──。
 WBC女子世界ミニマム(ミニフライ)級タイトルマッチ10回戦。
チャンピオン黒木優子(YuKOフィットネス=26歳)vs.WBC女子アトム級チャンピオン小関桃(青木=35歳)、福岡県・九電記念体育館。
 地元・福岡で小関を待ち構える黒木。東京から敵地に乗り込んでいく小関。
それぞれのこの試合に賭ける想いをお届けしたい。

文&写真/本間 暁

 喜びが、全身からにじみ出ている。

 ジム、試合前の会見、試合、そして直後の控え室。
仏頂面で無口という印象が強いが、それは彼女にとって、“戦闘服”をまとっているようなもの。
後輩の応援や、プライベートで佇んでいるときの小関は、実におしゃべりでよく笑う。

 しかし、今回の取材で、彼女はジムでいままで見せたことのない表情をしていた。
弾むような声、笑顔、そして饒舌。

「黒木さんに勝ってるところですか? う~ん、顔ですかね!」
そういってケタケタと笑う。

 この2年間の鬱屈からの脱出。その反動なのだ。

「去年、2試合しましたけど、正直、自分としては物足りない相手でした。
自分の中では2年間ほんとに『何やってたんだ小関は!』っていうくらい。
 職業=ボクサーって言えるのかな? くらい存在感もなく、
チャンピオンって言われても下向いちゃうくらい恥ずかしいな……って。
 全然何もできてなかったから……」

 2008年8月に、1度負けているウィンユー・パラドーンジム(タイ)から王座を奪って、なんと在位9年4ヵ月。その間に積み重ねた防衛回数は、国内最多の17回におよぶ。これは、セシリア・ブレークハス(ノルウェー、WBC、IBF、WBO女子世界ウェルター級統一チャンピオン)の21度防衛(WBC王座)に次ぐ、女子世界王座防衛記録である。

 しかし、女子ボクシングの置かれている現状から、ふさわしい名声、待遇を得ているとは言い難い。

 ならば、自らが望む相手と戦って、心の満足感を得るしかない。
2015年10月に、WBA王者・宮尾綾香(当時、大橋。現ワタナベ)との王座統一戦に勝ったとき、味わったことのない感触を得た。そして、その手応えが忘れられない。

「アトム級で相手選びとか難しくなってきていて、
『実力どうなの?』っていう相手と試合して防衛記録を積み重ねても……。
それだったらタイトルはいらない。
だったら、1階級上で挑戦したい。
4団体、どのチャンピオンでもいいからやりたいって
有吉将之会長に去年から言ってきて──」

 王座よりも、強い相手を求めて。
そして、1階級上の王者・黒木優子に挑むことになったのだ。

画像: 若い選手の息が上がる中、小関は呼吸ひとつ乱さずに、淡々と連打を打ち込んでいく

若い選手の息が上がる中、小関は呼吸ひとつ乱さずに、淡々と連打を打ち込んでいく

「黒木さんとは、はるか昔と、最近では1年半くらい前にスパーリングしています。でも、あのとき黒木さんは腰を痛めていたみたいだし、私もスパーしていない時期だったから、まったく参考にはなりません」

 互いにサウスポースタイル。でも、ボクシングは対照的だ。
小関は、無尽蔵のスタミナ、まるででんでん太鼓のように、打ちだしたら止まらない連打。テンポが恐ろしく速く、「止むのを待って……」などと悠長に構えていたら、そのまま仕留められてしまう。

「向こうがどう出てきても、やることは一緒です。
迷いはありません」

 チャンピオンになる前、2007年5月のプロデビューから5戦は、
すべてタイでの試合で、それ以降は全部、後楽園ホールをメインとした関東での戦い。福岡のリングに立つのは初めて。しかも、完全アウェーである。

「国内ですけど、判定じゃ勝てないと思ってます。
圧倒しなくちゃ判定では勝てないですし、
圧倒できるような相手じゃないですから。

 どっこいのラウンドは全部向こうに付くと思ってるので。
どっこいのラウンドが10ラウンド続いたら、フルマーク負け。
でも、それを覚悟の上で福岡でやるんだから」

 つまり、最終ラウンドまでいかない戦いをする、ということだ。

有吉会長の持つミットに強弱を織り交ぜた連打。実に小気味いいリズムを奏でる

 インタビュー中、何度か「年も年だから」とか、「おばさん」と自虐的な言葉を口にした。が、「本当にそう思う?」と訊くと、首を大きく横に振った。
「周りに言われてるだけ(笑)」

 スパーリングでは、ひと回り以上若い2選手と手合わせをしたが、
2人は呼吸の乱れが激しいのに、小関はひとつも乱さない。しかも、涼しい顔。
 昔から、有吉会長は「みんな、桃くらい練習してくれたら苦労しない」と言い続けてきたが、その賜物なのだろう。それをアマチュア時代から、プロに入ってもずっと、20年以上続けているのだ。

 立派なチャンピオンである。

 承認団体が増え、男女ともに国内にいる世界チャンピオンも増加の一途。
その中で、若い選手たちの台頭もあって、自分の時代が少しずつ押し込まれつつあることも十分肌で感じ取っている。でも──。

「『もう、小関は終わった』って思われてると思うので、
『まだ終わってねーぞ! 見てろよ!』って、心の中で言ってます(笑)」

 35歳の意地。安定王者としての誇り。
 小関桃のすべて。集大成が披露される。

後輩のWBO世界フライ級チャンピオン木村翔と。木村は大晦日に元WBC同級王者・五十嵐俊幸(帝拳)を迎えて初防衛戦を行う。小関が2階級制覇を果たし、木村へと勝利のバトンをつなぎたい

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