現在発売中の『コーチング・クリニック』1月号では、「信頼関係を築く指導の勘どころ」という特集を展開しています。そのなかで、昨年のリオデジャネイロ(以下、リオ)・オリンピック女子200m平泳ぎで金メダルを獲得した、金藤理絵選手にご登場いただき、東海大学時代から二人三脚で彼女を支えてきた加藤健志コーチとの信頼関係についてお話を伺いました。水泳をやめたいとまで思っていた金藤選手を、もう一度奮い立たせた加藤コーチの言葉とは――?

加藤コーチへの絶大な信頼

 人によっては自分の考えとコーチの考えをぶつけ合いながらよりよいものをつくっていく選手もいますが、私の場合、こと泳ぎに関しては、加藤健志コーチ(東海大学水泳部監督)を絶対的に信頼していました。もちろん、時にはコーチの言うことに対して「それは違うのではないか」と感じることもありますが、コーチの指導に対して反抗することは、ほとんどありませんでした。
 2012年のロンドン・オリンピックに出場できなかったときは、もう水泳をやめようと思っていました。しかし、その頃知人から「コーチを変える選択肢はないのか」と聞かれたときも、「続けるなら加藤コーチのもとでしかできない」と答えたほどです。その話を聞いた加藤コーチは「当たり前だ」と言っていましたが(笑)、おそらく加藤コーチ自身も、「それくらい自分は選手のことを考えている」という自負があったのだと思います。
 そこまで加藤コーチを信頼している理由は、東海大学水泳部で過ごした4年間が、私のなかで一番純粋にコーチとともに水泳をやったからだと思います。加藤コーチは知識がとても豊富で、一つ質問すると十の答えが返ってくる。聞いたことに対してきちんと返事が返ってくるというのは、信頼関係を築く上でとても大切だと感じます。

画像: 水泳をやめたいとさえ思っていたという金藤選手。しかし、加藤コーチとの信頼関係が彼女のその精神面を支えた Getty Images

水泳をやめたいとさえ思っていたという金藤選手。しかし、加藤コーチとの信頼関係が彼女のその精神面を支えた Getty Images

水泳部は家族

 大学に入学する直前、加藤コーチに「お前なら2分20秒を切れる」と言われたことを、今でもよく覚えています。当時の私の200mのベストは2分27秒台で、そのときは正直、「この人は何を言っているんだろう。できるわけがない」と思ったのですが、徐々に自分でも2分20秒を切りたい、世界大会で勝ちたいと思うようになりました。
 その後なかなかうまくいかない時期が続いて、ロンドン・オリンピックを逃した後は、そういう目標をもてなくなっていました。しかし、私がそんな状態のときも、加藤コーチはずっとその目標をもち続けてくれました。これは、私にとって非常に大きいことでした。
 今振り返ると、水泳をやめたかったあの2年間は、ある意味加藤コーチとの間に信頼関係はなかったのかもしれません。私自身、「こんなにやめたいのに、なんでわかってもらえないのだろう」という気持ちがとても強かった。それでも加藤コーチは、私以上に私のことを真剣に考えて、目標をもち続けてくれました。そのおかげで、私は水泳をやめなかったのだと思います。
 加藤コーチはいつも、「東海大学水泳部は家族だ」と言います。だから、たとえ選手が何か問題を起こしても、ほかの部員から「あの選手はチームのためにならない」と言われるような人間であっても、そこで関係を切っては絶対にいけない、と。どんな部員でも家族のように面倒を見続けてくれる――。そうしたところが、私たち選手が加藤コーチを信頼する理由かもしれません。

リオの金メダルに導いたのも
コーチとの信頼関係

 リオ・オリンピック直前の大会の決勝では、自分の殻を破る泳ぎができませんでした。それが、加藤コーチには納得できなかったそうです。改めてレース映像を振り返ってみると、確かに自分で見ても、全力で泳いでいるようには見えませんでした。
 そのとき、「もしここでやめたら、応援してくれる方々の記憶に残る最後のレースが、自分の納得できないレースになってしまう。それは絶対に嫌だ」と思い、そこから私は変わりました。
 もともと私は後半で追い上げるスタイルだったので、前半に飛ばすと後半落ちるのではないかという不安があったのですが、コーチに言われる通り前半から攻めるようにしました。レース前に「前半頑張っていきますから、後半どんなに失速しても絶対に文句は言わないでください」と宣言すると、加藤コーチも「よし、わかった。それでいいから行ってこい」と言って送り出してくれました。そういうやりとりができるのも、信頼関係ができていたからかもしれません。
 結果的にその後、リオ・オリンピックで金メダルを獲得することができましたが、もし選考会で負けてリオに行けなかったとしても、それは自分自身のせいだと思っていたでしょう。結果によってコーチとの関係性が変わることは、絶対にないと思います。
 私は運よく加藤コーチに巡り会うことができ、やめたくなったときも、諦めずに乗り越えることができました。ただ、コーチとそういう関係をもてる選手は、意外に少ないと感じます。そういう子どもたちに私の経験を伝えることによって、「うまくいかないからやめる」という人が少なくなるような活動ができればと思っています。

多くの壁を乗り越え、リオ・オリンピックで見事金メダルに輝いた Getty Images

かねとう・りえ
1988年、広島県生まれ。2012年東海大学体育学部体育学研究科卒業。専門は平泳ぎ。08年北京オリンピック7位、09年日本選手権水泳競技大会、ユニバーシアード、16年リオデジャネイロ・オリンピック女子200m平泳ぎで優勝。昨年は紫綬褒章、広島県民栄誉賞、VOGUE JAPAN Women of the Year 2016を受賞。

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