前回のストーリーでは、チームやアスリート個人における「ハイパフォーマンス・カルチャー」について触れた。日々のトレーニングから生まれるチームの「性格」とも言える「カルチャー」が、いかに中長期的にチームのパフォーマンスに影響するのかについて説明した。今回も引き続き、米国で最も信頼の置かれている水泳専門誌『スイミング・ワールド』の姉妹誌である『スイミング・テクニック』の最新号から、「リーダーシップと性格が結果をもたらす」(Ralph L. Pim:Ed.D教育学博士)から、同記事を解説してみたい。

「タレント・デベロップメント」という考え方

「タレント(talent)」は英語で「才能」。「デベロップメント(development)」は「開発」の意味だ。アスリート一人ひとりの持っている才能や性格、特徴を把握したうえで、能力を最大限に引き出す開発プログラムを生み出し、応用する。これがコーチ、さらにはアスリートも意識しなければならない考え方だ。

 アスリートが成長するタイミングや、年齢に応じたコーチングは本来、一人ひとり異なるはずで、誰ひとり同じ成長曲線を描くことはない。早熟の選手もいれば、大器晩成型の選手もいる。

 コーチの重要な役割は、おのずと一人ひとりの選手に寄り添い、その成長曲線を見極め、彼らの才能やスキルを最大限に引き出すことになる。トップコーチと呼ばれる人たちは、正しいタイミングで適正なチャレンジを選手に与え、計算され尽くした形で休養と自由時間をコントロールする。才能は重要だが、当然それだけでは十分ではないのだ。素晴らしい才能を持つ選手が、コーチとの軋轢(あつれき)やモチベーション(やる気)の維持の失敗などから、その才能を活かしきれずに競技を離れていく姿を私たちは何度となく目にしている。トップコーチは、まさに個々の選手への全体的なマネジメント能力が必要になるのである。

 アメリカンフットボールの強豪・アラバマ大のヘッドコーチ、ニック・セイバンは、「選手の性格は成功するための重要な指標になる。リクルートでは、チームが求める“性格”とマッチングする選手を探しにいっている。それは事実だ」と述べている。

 アメリカの大学スポーツでは金銭面で学生とその家族に大きなベネフィット(利益)を与えるスポーツ奨学金についても、セイバンは、「スポーツ奨学金は、表面上の才能が優れた学生よりも、素晴らしいアスリートとしての性格を持つ学生に与えることにしている」と結論づけている。過去の経験から、選手の性格こそが、入学後によりトレーニングに励み、チーム全体に良い影響を与えることを認識している。

 同じくアメリカンフットボールの強豪、オハイオ州立大のヘッドコーチ、アーバン・メイヤーは別の見方を提供する。「経験上、“才能=リーダーシップ”ではない」とする考え方だ。「リーダーは、『そのレベルには到達できないよ』と皆が考える目標に、才能を超えて到達させる。チーム全体がリーダーシップの力を理解することがまず何よりも大事だ」と発言している。

リーダー・デベロップメント

 それではいかにしてリーダーを育てればよいのか? 自然にリーダーが生まれるケースもあるだろうし、そうでないこともある。大事なことは、トップコーチと呼ばれる人たちは、リーダーを開発するためのプログラムをしっかり持っていることだ。小手先な手法で中長期的に勝手にリーダーが育つことはないのである。リーダーシップはスキルであり、時間をかけて育っていくものなのだ。

 次の項目がRalph L. Pim:Ed.D教育学博士が考えるリーダーシップの根幹をなす基本的な考え方だ。

【リーダーシップの考え方】リーダーはチームメンバー全体を把握し、より生産的なプロセスと結果をチームにもたらす。
【リーダーシップから生まれる利益】リーダーシップは役割であり、役職ではない。その点で、チームメンバー全員がリーダーシップを取る役割・責任がある。リーダーシップはスキルであり、獲得することができる。リーダーシップを発揮するには、人をリードする前に自らをリードできなければいけない。もちろん、全員がすぐにリーダーになれるわけではない。チーム内におけるリーダーシップを発揮する段階は主に4つある。

●セルフリーダー(self leader):自己の成長可能性を認識し、そこに到達するために必要なスキルを意識する。これはセルフリーダーシップ、とも呼ばれる。

●フォロワー(follower):日本語では何となくネガティブな意味もあるが、ここでのフォロワーは、チーム内のトレーニングとシステムを積極的に理解し、将来の可能性を見出すことである。

●ピア・リーダー(peer leader/ピアとは仲間の意味):ピアリーダーは自分だけでなく、周囲のチームメンバーを意識し、チームにとっての新しいスキルの獲得や、見えない将来に向けての方向性を示すことができる。

●本物のリーダー:上記の経過をたどったうえで、本物のリーダーは生まれ、同時にいくつもの役割をこなせるようにもなる。基礎となる考え方や自己が確立しており、自らが成功するためのスキルセットを強く意識している。さらには、自分の強みと弱み、信条とモチベーションの盛り上げ方を知っている。困難な場面に直面した時の感情の整理、決断とアクションの取り方を心得ている。失敗からも学び続け、過去を脱ぎ去り前に進む能力を信じている。

 日本では残念ながら、「リーダーシップ」に対する理解やコーチングは、教育現場やトレーニングの現場において、ほとんど行なわれていない。オリンピックやさまざまなナショナルチームでも「キャプテン」が指名されているが、そのキャプテンがどのような具体的なリーダーシップを発揮しているのか、についてマスコミで報じられることは多くない。

 さまざまなチームで、キャプテンが指名されて、さらに指導者がリーダーシップの重要性を理解し、それを「コーチング」することで、キャプテンシーが発揮される可能性は大きく向上する。

※次回、さらにスポーツにおけるリーダーシップについて考えてみたい。

文/望月秀記

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