文&写真/船橋真二郎

「やっぱりテレビの反響はすごくて。中国人じゃなくて、日本人からも、タクシーの運転手とか、電車に乗ってても『木村選手ですよね』って話しかけてもらえることが今日、あったんで。これから日本のメディアにもしっかり出て、木村翔というボクサーをアピールしていけたらと思います」

 元日、一夜明け会見でのこんなコメントも木村翔(青木)ならではだろう。昨年7月、上海でオリンピック連覇の中国の英雄ゾウ・シミンを相手に大番狂わせの11回TKO勝ちで、WBO世界フライ級チャンピオンの座に就き、日本よりも、まず中国で有名になった。

 1月某日、そんな木村に対する中国での関心の高さの一端に触れる機会があった。まだ大晦日の初防衛戦から間もない青木ジムで、木村が中国メディアの取材を受けている場面に出くわしたのだ。

 というより、実際は挨拶回りなど、忙しい木村との取材日程の調整がつかなかったところ、有吉将之会長から、これまで何度も中国メディアの取材を受けた経験で「まず時間どおりに取材が始まることはない。それまでの時間で取材できるかもしれないから」ということでジムを訪ねていたのだから、出くわしたも何もないのだが。

「お前、ベルトは?」。有吉会長が危惧したとおり、木村自身が約束の時間を5分ほど遅れてひょっこりと登場。その上、手ぶらだった。「ちゃんと言っておいただろー」と呆れる有吉会長に対し、「あれ、そうでしたっけ?」と悪びれるところがまったくない。のっけから、どこかふてぶてしくも、憎めない木村らしさ全開である。

 おそらく動画ニュースサイトの類と思われる中国メディアのスタッフ3名も、さらに10分ほど遅れて到着。木村に予定を確認し、私はその取材が一段落したところで時間をもらうことになり、その模様を撮影に来ていたTBSとともに見守らせてもらうことにした。

画像1: 現地では大スター!
木村翔を取材する中国メディアに密着!

 まず質問項目が日本語で記された紙が渡され、事前に打ち合わせ。その間に撮影用のカメラなどがセッティングされていく。次に、なぜかハンドマイクを持たされるものの、そのまましばらく待機。手持ちぶさたの木村は、お約束のように「あー、あー」とやった。アシスタントの女性が「カワイイ」とつぶやき、クスクス笑っているのを知ってか知らずか、しばらく子どものように「あー、あー」……。

 さらに、そのメディアから上海で以前にも一度、取材を受けていることを聞かされた木村。男性ディレクターに「見たことあると思った。前に会ってますよね?」と親しげに笑いかけたのだが……。中国語しか話せないらしい男性に代わり、女性インタビューアーから「いえ、初めてです」。「あれ、そうでしたっけ?」とでも言いたげにニヤニヤ笑う木村を横目で見ながら、有吉会長は「適当だなー」と苦笑い。

 結局、ピンマイクをつけられて、無事に(?)インタビューは始まった。

画像2: 現地では大スター!
木村翔を取材する中国メディアに密着!

 一通りの受け答えを終えると、今度はさまざまな“絵”を撮っていく。まずは、世界チャンピオンになってからプレゼントされたという黄色いグローブやギアを持って。次に5針縫った右目上の傷の抜糸が済んでおらず、練習はしないという木村にサンドバッグ打ちを要望。セーター、ジーンズに、リングシューズ、グローブという珍妙な出で立ちで「アクション!」の掛け声を合図にしばらく殴り、「疲れた~、OK!」と自分でOK出し。

 それから屋外に移動。世界チャンピオンになった自分へのご褒美に買った電動自転車でジムにやってくる風景を撮影するなど、次々とイメージカットを収めていった。

 一区切りしたところで女性インタビューアーに訊くと、やはり中国では、ゾウに勝った木村の知名度は高いのだという。すでにいろいろなところで報道されているとおり、卓球の福原愛の名前を出し、スポーツという括りの中で「彼女と同じくらい中国では有名」と教えてくれた。

 取材のポイントは、初防衛にも成功した木村の生活が「その後、どれくらい変わったか」。関心が集まっているのはその点だという。

 根底にあるのは、酒配達のアルバイトをしながら世界チャンピオンとなった木村への共感。「一般の庶民と同じか、それ以下」の暮らしをしていると捉えられている木村が、有名なスポーツヒーローにして、お金持ちのゾウに勝利するという痛快さ。以前まで、使い込まれ、ボロボロだった用具が新品になり、普通の自転車から買い換えた電動自転車でジムに通っている。今のところは、そんなささやかな姿に象徴されるサクセス・ストーリーを木村に求めているようなのだ。飾らない人柄もまた支持される理由なのではないかと感じた。

 昨年2月、熊本で福原辰弥(本田フィットネス)がモイセス・カジェロス(メキシコ)との王座決定戦を制し、WBO世界ミニマム級王者となった一戦を取材に来ていた『Fightnews.com』のアメリカ人記者に尋ねたことがあった。「アメリカでは軽量級への関心が低いと聞いています。なぜ、わざわざ取材に来たのですか?」と。彼の答えはこうだった。「これまでに何度も何度も負けているフクハラのようなアンダードッグが世界チャンピオンになる。『ロッキー』みたいなストーリーが、アメリカ人は好きなんだ」。

 無名から一転、一夜にして有名になる。“逆転”のストーリーが愛されるのは万国共通だろう。

「木村が中国でスターになれたのも、ゾウ・シミンが試合後のリングで木村を称えてくれたから」という有吉会長は「無名の木村にチャンスをくれたゾウには特別な思いがある」と感謝を忘れない。 

 再戦もうわさされたゾウは、目の疾患が断片的に伝えられるなど、不透明の状況。だが、20日に中国・深センで開催される興行にゲストして招かれるなど、現地での木村人気は相変わらず。有吉会長によれば、取材申し込みはもちろん、興行権を握るゾウ陣営以外の中国のプロモーターからも出場オファーがあるという。

 ポテンシャルを秘めた中国のマーケットで、日本人ボクサーのプレゼンスを高める。そんな未知の可能性があるのも木村ならではなのである。

This article is a sponsored article by
''.