Playbackシリーズ「突撃! 研究室訪問」第3回は、同志社大学・石井好二郎教授の研究室に突撃!
前任校・北海道大学(以下、北大)時代も希望者が続出したという人気の研究室にお邪魔しました。
--※本稿は『コーチング・クリニック』の連載「突撃!研究室訪問」第3回として、2011年3月号に掲載したものを再構成したものです。

ジプシー精神が生んだ研究室

「私のところには、なぜかいろいろなタイプの学生が集まるんですよ」と教授は笑う。北大時代には水産学部を卒業して研究室に入り、スポーツ科学の研究を始めたと思いきや、北大に戻って准教授になった者がいた。元環境学部生もいたし、工学部出身者もいた。「あぶれもなく人が集まってくる『水滸伝』の梁山泊みたいなものです」とは、教授の例えだ。

 石井先生の専門分野は、運動処方。競技力の向上や体力向上、健康などの目的に対して運動をどのように処方するか、という分野である。
行き着いたキッカケは、自身が行っていた陸上競技にある。そのうちに膝を故障し、選手生活を断念。一度は走ることを諦めたが、ふとした拍子で出合った京都のランニングショップでその後の人生が開ける。お店が主催するイベントに参加するようになると、同じ走るという行為でも多様な目的があることに気がついた。強くなりたい、早くなりたい、シェイプアップしたい、お酒を美味しく飲みたい。スポーツにも人それぞれの価値観があることを知り、研究に対する視野が広がったと語る。

 現在はいくつかのテーマをもっているが、大きな軸となっているのが子どもの身体に関する研究だ。
「ヒトの身体について『ホンマかな!?』っていうニュースが多いと感じませんか? 特に子どもに関するものは、疑問に感じるものが多い。現代の子どもたちは基礎体温が下がっているといわれますが、子どもの体温を正確に測ることは、実はとても難しいことなのです。大きな氷は溶けにくいけれど小さい氷は溶けやすいのと同じで、子どもの皮膚は外気の影響を受けやすい。体温調節機能も未発達のため、皮膚温度の上下も激しい。にもかかわらず、一般的に、脇の下に挟む体温計を使用している上に、その多くが電子体温計。あれは、熱の上昇カーブを察知し、10分後にどれくらいの体温になるかを予測するものであり、測定時の体温ではありません。そのまま挟んでおけば実測値が出るものもありますが、10分間も体温計を挟んでいられる子どもは、そういないでしょう」

 疑問を晴らすべく、石井研は調査を開始。まずは測定箇所を脇の下から舌下に変更。電子体温計ではなく水銀体温計にして、計測は“朝起きた床の中”に統一。そうして解ったことは、身長に高低差があるように体温にも高い・低いがあるということ。低体温の子どもには肥満が多い、生活習慣がおかしいといわれているが、そのような事実も見受けられなかった。
「体温が低いと代謝も低い、という説がありますが、そもそも代謝が低いことは悪なのか? ヒトの体温が36~37度に収まっているのは、それくらいが代謝をはじめとする身体機能が適切に動くから。それでもヒトの身体は十人十色。個人に合う温度を身体が見つけて、保とうとしている。別の見解では、低体温者は長寿であるという結果が出ています。代謝が低いということは、いわゆる省エネ状態にあるわけですから、一概に“低体温=悪”とは位置づけできないと思うのです」

画像: 部屋のなかで生活をするだけで、エネルギー消費量や脂質・糖質がどれほど燃えたかがわかる「ヒューマンカロリーメーター」。同志社大のこれは、西日本第1号機である

部屋のなかで生活をするだけで、エネルギー消費量や脂質・糖質がどれほど燃えたかがわかる「ヒューマンカロリーメーター」。同志社大のこれは、西日本第1号機である

『異端ではなく、我流』

 学生たちが研究に取り掛かる際、石井教授がかける注意は3つのMだ。
 ①モチベーション(Motivation)目的。意義はあるのか?
 ②メソッド(Method)方法。どのように明らかにするのか?
 ③マテリアル(Material)材料。何を使って実験するのか?
 この3項目を押さえた上で、手間と時間を惜しむことなく地道に実験を重ねていくのだ。

 やっていることは極めてシンプルだから「そんなこと、誰にでもできる」といわれることもある。確かにそうかもしれないが、放っておいたら誰もやらない。だからこそ、今日も石井教授は率先して働きかける。
「とにかく机上の空論だけでなく、行動に起こすこと。時として批判の対象にもなりますが、やらないことには何も変わりませんから」
 

 長年、スポーツと健康を研究し続けてきた権威である石井先生。そんな教授が、今思うこととは――?
「スポーツも健康も、どちらも手段にも目的にもなるものです。共通しているのは、クオリティ・オブ・ライフ、自分の生活を豊かにしたいという思い。学部での教えを通じて世の中の質の向上に強く貢献できる人材を輩出していきたいです。もちろん、私の研究室を出てもスポーツと健康とは別の道を歩く学生は出てくるでしょう。それでも、ここで学んださまざまな手段が、別の領域でも生かせるのだということを知ってもらえたらいいですね」
 石井教授は力強い口調でそう言いながら、優しい笑顔をのぞかせた。

画像: 当時の学生たちと

当時の学生たちと

Profile
いしい・こうじろう
1964年、大阪府生まれ。大阪体育大学体育学部卒業。同大専攻科を修了したのち、兵庫教育大学大学院修士課程を修了。博士(学術)の学位を大阪市立大学にて取得。広島大学助手、北海道大学准教授を経て、2008年に同志社大学に着任。小児から高齢者、及び有疾患者から競技者までの運動処方の開発・展開を研究している。13年5月から同志社大学体力医科学研究センター長に就任。

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