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2021-01-25

【NFL】ブレイディはなぜGOATなのか 証明した前半最後の28秒

【バッカニアーズ vs パッカーズ】個人としては10回目のスーパーボウル出場を決め、ガッツポーズをするバッカニアーズのQBブレイディ=2021年1月24日、photo by Getty Images

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NFCチャンピオンシップ(2021年1月24日、グリーンベイ・ランボーフィールド)
タンパベイ・バッカニアーズ○31-26●グリーンベイ・パッカーズ


今季、ニューイングランド・ペイトリオッツからバッカニアーズに移籍したQB、トム・ブレイディが、なぜGOAT=Greatest of All Time(史上最高)と呼ばれるのか。それを証明する試合となった。

【バッカニアーズ vs パッカーズ】QBブレイディが投じた先制のTDパスをキャッチするバッカニアーズのWRエバンス=2021年1月24日、photo by Getty Images
【バッカニアーズ vs パッカーズ】QBブレイディが投じた先制のTDパスをキャッチするバッカニアーズのWRエバンス=2021年1月24日、photo by Getty Images

ブレイディの先制タッチダウン(TD)パス、RBレナード・フォーネットのTDランで、バッカニアーズが14-10としてリードした、第2クオーターの最終盤。
残り28秒からドラマは始まった。

パッカーズのQBアーロン・ロジャースのパスをインターセプトしたバッカニアーズ。ボールポゼッションはバッカニアーズ陣49ヤードとほぼ中央付近だ。

タイムアウトも残っていたので、うまく攻めてフィールドゴール(FG)で前半を終わることができれば、という局面だった。

ファーストダウン、RBフォーネットにパスが決まり、フォーネットが外に出たので時計が止まった。
セカンドダウン、サードダウンはパス失敗。サードダウンのパスは、プレッシャーを受けてブレイディのコントロールが狂い、もう少しでインターセプトされるところだった。

前半終了まで、13秒、ボールオンはパッカーズ陣45ヤードでフォースダウン4ヤード。

一度はパントと見せかけてサイドラインに帰ったブレイディが直ぐにフィールドに戻った。

しかし、これはハードカウントでオフサイドを誘発する狙いかと思われた。警戒したパッカーズはタイムアウトを取った。

プレー再開、ハードカウントではなく、ブレイディは、フォーネットに6ヤードのショートパス決めてダウンを更新、残っていた1回のタイムアウトを使って時計を止めた。

ボールオンは39ヤード、前半終了まで8秒。FGを蹴るには少し遠い。タイムアウトもない。サイドライン際にパスを決めて直ぐ外に出て時間を止め、FGを狙うのが定石と思われた。

GOATの考えは違っていた。「TDで前半を終わる」ことしか考えていなかった。

ショットガンからロングパス。左のバンチ隊型からディープゾーンへ真っすぐ走った小柄なWRスコッティ・ミラーの腕にストライクでパスは決まった。マンツーマンカバーのパッカーズCBケビン・キングは完全に振り切られていた。

39ヤードの完璧なTDパス。前半残り1秒だった。エクストラポイントも決まり21-10となった。


【バッカニアーズ vs パッカーズ】前半残り1秒、バッカニアーズQBブレイディからのパスをWRミラーがキャッチしてTD=2021年1月24日、photo by Getty Images
【バッカニアーズ vs パッカーズ】前半残り1秒、バッカニアーズQBブレイディからのパスをWRミラーがキャッチしてTD=2021年1月24日、photo by Getty Images

バッカニアーズにとってはベスト、パッカーズにとってはワーストな形で前半が終わった。

筆者は、フットボールで特に重要な、相手に影響を与える得点は、大差のゲームではない限り、前半2ミニッツのTDだと考えている。しかも終了間際であればあるほど影響の度合いは上がる。

アジャストのスポーツであるフットボールにとって、試合中最大のアジャストの機会はハーフタイムだ。前半終了間際のTDは、サイドラインのコーチ陣が後半に向けて用意するアジャストの前提条件をすべてひっくり返してしまう。

パッカーズのハーフタイムが大きな影響を受けたのは間違いない。

【バッカニアーズ vs パッカーズ】パッカーズRBディロンの突進を止めるバッカニアーズLBホワイト=2021年1月24日、photo by Getty Images
【バッカニアーズ vs パッカーズ】パッカーズRBディロンの突進を止めるバッカニアーズLBホワイト=2021年1月24日、photo by Getty Images

それだけではない。

フットボールは、対戦相手に「ああ、あれが無かったら」「あの時、取られていなければ」と後悔させることができるチームが勝つ。目の前のプレーに集中できないネガティブな精神状態に、対戦相手を追い込めるチームが強い。

それを今までやってきたのが、ペイトリオッツとブレイディだった。メンタルにミーンなフットボールをする。まさにGOATの真骨頂だった。

反対に、バッカニアーズの士気は上がった。さらに、リードが2ポゼッションとなったために、ディフェンスにも思い切りが生まれた。

第3クオーターの開始3プレー目、パスをキャッチしたパッカーズのエースRBアーロン・ジョーンズにバッカニアーズのSジョーダン・ホワイトヘッドがハードヒット。ジョーンズがファンブルしたボールを、常にボールに絡む位置にいるLBデビン・ホワイトがリカバーすると、一気にゴール前8ヤードまでリターンした。

ブレイディが、このチャンスを逃すはずがなかった。ファーストプレーで、TEキャメロン・ブレイトにTDを決めて、パッカーズを18点差に突き放した。

このプレーでRBジョーンズは負傷し、試合に戻れず。パッカーズの反撃態勢にも水を差した。

と言って、ブレイディ自身のパスが完全だったわけではない。

【バッカニアーズ vs パッカーズ】QBブレイディはパッカーズディフェンスに3本のインターセプトを喫した=2021年1月24日、photo by Getty Images
【バッカニアーズ vs パッカーズ】QBブレイディのパスをインターセプトしたパッカーズCBアレクサンダー=2021年1月24日、photo by Getty Images

パッカーズのホーム、ランボーフィールドは、試合開始時の気温が-1.7度。ブレイディがプレーした過去2シーズンで最も低温下だった試合は、43歳5カ月の身体に確実に影響したようだ。

前半は202ヤード2TDだったパスが、後半は成功率5割、78ヤード1TD3インターセプト(INT)と落ち込んだ。

しかし、北の常勝チームからやってきたフィールドゼネラルの窮地にバッカニアーズディフェンスが奮起した。ブレイディが喫した3INTから始まったパッカーズの反撃ドライブの内、2シリーズを無得点に抑えた。

そして、取るべき時に取った2本のTDが最後までモノを言った。

第4クオーター、残り1分48秒、ブレイディはパッカーズディフェンスの交代のもたつきを見逃さず即座にプレーを始め、交代違反の反則を奪った。

この5ヤードを足掛かりにファーストダウンを奪って、タイムアウトを使い切っていたパッカーズにとどめを刺した。

相手のミスを逃さない、ブレイディらしい締めくくりだった。

【バッカニアーズ vs パッカーズ】個人としては10回目のスーパーボウル出場を決めたバッカニアーズのQBブレイディ=2021年1月24日、photo by Getty Images
【バッカニアーズ vs パッカーズ】個人としては10回目のスーパーボウル出場を決めたバッカニアーズのQBブレイディ=2021年1月24日、photo by Getty Images

10回目のスーパーボウル出場、40代で3回目の出場、当日は43歳6カ月でのスーパーボウル出場選手となる。通算のポストシーズン試合数と勝利数も44試合で33勝。そして、今回は、本拠地、レイモンド・ジェームス・スタジアムでの出場ともなった。

何から何まで「史上最高」「史上最多」「史上初めて」が付いた。

今季、最後に目指すのは、個人として史上最多を更新する、スーパーボウル7回目の勝利、そして7個目のスーパーボウルリングだ。それは他のスポーツではあるが、史上最高のバスケットボールプレーヤーとして記憶される、マイケル・ジョーダンのNBAファイナル優勝回数6を超えることにもなる。

偉業の前に立ちはだかる最強の敵は、昨年の王者カンザスシティ・チーフスと、若きヒーロー、パトリック・マホームズだ。

スーパーボウルは現地時間2月7日午後6時30分、キックオフとなる

【小座野容斉】

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