アメリカンフットボール・Xリーグの「X1エリア」は11月21日、富士通スタジアム川崎でアサヒビールシルバースター対アサヒ飲料チャレンジャーズの全勝対決があり、序盤から主導権を握ったシルバースターがアサヒ飲料の反撃をしのいで、逃げ切った。シルバースターは6戦全勝・勝ち点18でX1エリア優勝を決めた。敗れたアサヒ飲料は5勝1敗・勝ち点15で2位※となった。(写真はすべて撮影:小座野容斉)
アサヒビールシルバースター○38-28●アサヒ飲料チャレンジャーズ(2021年11月21日、富士通スタジアム川崎)【得点経過】
シルバースター 第1Q5:24中谷友哉パントブロックリターンTD(K梅垣光理キック成功)
[7-0]
アサヒ飲料 第2Q1:47K西岡慎太朗,36ヤードFG
[7-3]
シルバースター 第2Q2:47QB田中大輔→WR小林一輝,76ヤードTDパス(K梅垣キック成功)
2プレー76ヤード1:00[143]
シルバースター 第2Q6:46QB田中大輔→WR戸倉和哉,11ヤードTDパス(K梅垣キック成功)
3プレー41ヤード1:25[21-3]
アサヒ飲料 第2Q9:46QBギャレット・サフロン,44ヤードTDラン(K西岡キック成功)
9プレー79ヤード3:00[21-10]
シルバースター 第2Q10:05RB川村洋志,90ヤードキックオフリターンTD(K梅垣キック成功)
[28-10]
アサヒ飲料 第2Q11:55K西岡,32ヤードFG
[28-13]
シルバースター 第3Q9:56QB田中大輔→#83林雄太,15ヤードTDパス(#2梅垣光理,Kick)
6プレー57ヤード3:03[35-13]
シルバースター 第4Q0:12K梅垣,30ヤードFG
[38-13]
アサヒ飲料 第4Q4:10QBサフロン→WRロバート・アールジョンソン,37ヤードTDパス(K西岡キック成功)
9プレー76ヤード3:58[38-20]
アサヒ飲料 第4Q10:43QBサフロン→WR阿部拓朗,17ヤードTDパス(QBサフロン2点CVパス→WR阿部拓朗)
8プレー77ヤード2:19[38-28]
※他に、福岡SUNSが勝ち点15で並び、警視庁も勝ち点15となる可能性があるが、当該チーム間の直接対決の勝敗、もしくは対戦相手の勝ち点数の合計で、アサヒ飲料が上位となる。
大森DCが檄「スーパーの初戦として戦おう」 アサヒ飲料は、最初のオフェンスシリーズから、インサイドのランが進んだ。シルバースターディフェンスは3-4隊形で、DLは3人。真ん中のNTをアサヒ飲料OLがダブルチーム。中を完全にコントロールしていた。
シルバースターは2度ファーストダウンを更新されたが、アサヒ飲料がディレイ・オブ・ゲームの反則で5ヤード罰退。3rdダウン10ヤードとなった。シルバースターは3メンラッシュで、パスカバーに重点を置いたディフェンス。アサヒ飲料のQBサフロンはパスが投げられずに横に流れたところで、QBをケアしていたシルバースターLB平岡峻が、タックルフォーロスに仕留めた。
そして、4thダウンのパントでシルバースターにビッグプレーが飛び出す。DB中谷友哉が長身を生かしてパントブロック。そのままリカバーしてリターンタッチダウン(TD)を決めた。
一連の流れが、この試合を象徴することになった。
アサヒ飲料は直後のオフェンスシリーズでも、RB山田陸斗のラン、WR阿部へのパスで2度ファーストダウンを更新し、シルバースター陣内に攻め込んだが、2nd&2でQBサフロンが投げたロングパスを、シルバースターDB長島佑輔がインターセプトした。
パスディフェンスを重視して、手厚いカバーを展開したシルバースターの術中に、QBサフロンがはまったのだった。
シルバースターの大森優斗ディフェンスコーディネーターは、ある程度ランを出されてもいいと考えていたという。
「考えていたよりはランを出されたなと思ったが、向こうはランのチームではなく、パッシングチーム。ランは3回に1回止めれば、ファーストダウンは更新されない。ランは多少は出されても構わない。パスから優先して守るようにと伝えていた。」
すでにX1スーパー昇格を決めていた両チームの1戦。大森DCはテーマを持ってこの戦いに臨んでいた。それはアサヒ飲料の強力パス攻撃を止めるということだった。
「QBサフロンの強肩、WRもロバート・ジョンソンだけでなく、亀山(暉)、阿部(拓朗)と、能力の高いレシーバーがそろっている。今まで戦ってきたチームとは違う」
そこで、シルバースターは今季ラン中心のディフェンスからパス中心のディフェンスに切り替えた。いつもの3倍くらいの時間をかけてパスへの対策をしてきたという。幸いなことに、第5節の名古屋戦から4週間あり、ディフェンスを切り替える時間と練習は確保できた。
パッシングファーストのオフェンスだが、カバーをしてパスが投げられないとわかったら、QBがOLのポケットを出て、どんどん走ってくるという予測も立てていた。そのため外をまくられない、サイドラインに出さないディフェンスも心掛けた。OLBをパスカバーに下げず上げて、アタックさせるような守り方も工夫した。
QBサフロンは、前半パス76ヤード。20ヤード以上のパスは1本だけで、ホットラインのWRジョンソンには7ヤードのパスを1回成功させただけだった。
サフロンは第2Q10分に、インサイドからスクランブルして44ヤードのTDランを決めたが、それはレシーバーがすべてカバーされて投げるところがないことの裏返しでもあった。しかもせっかく詰めた点差を、シルバースターの若きスター、RB川村洋志の90ヤードリターンTDで帳消しにされてしまった。
13-28と15点のビハインドで折り返した第3Q最初のオフェンスで、アサヒ飲料は勝負に出た。シルバースター陣43ヤード、ほぼ中央という地点で4thダウンギャンブルをチョイスした。
しかし、シルバースターはここをしっかり守ってゲインをさせず、攻撃権を手に。川村、岩田和樹というRBタンデムのランで前進すると、QB田中がこの日3本目のTDパスを、WR林雄太にヒットした。3ポゼッション・22点のリードとなり、シルバースターサイドラインにとっては勝利が見えた局面だった。
シルバースターディフェンスは、5試合でパス1190ヤード13TDというQBサフロンと、ジョンソン、亀山、阿部のWRトリオを、第3Qまでパス88ヤードTDゼロと封じ込めた。さらに、サフロンを1インターセプト2ファンブルロストの3ターンオーバーと追い込んだ。
第4クオーター、25点差となってからの2ドライブで、サフロンはパスで117ヤード2TDを記録したが、フットボール的には大きな意味を持たなかった。
大森DCは、試合前にディフェンス陣にこう語ったという。
「この試合は、エリアの最終戦ではない。スーパーの初戦だと思って戦おう」
日本人選手のみのシルバースターディフェンスはその言葉通りに戦った。
X1スーパー各チームのパッシングユニットは米国人選手を中心に構成されている。強肩、豪腕のQB。長身、俊足のWRやTEがずらりと揃う。来季からの戦いの前に、シルバースターのディフェンスがやり遂げたことは、今季のエリアでの全勝優勝以上に意味を持つといってもいい。
80歳「傘寿」の阿部監督に最高のプレゼント 試合後のインタビューで、シルバースターの有馬隼人ヘッドコーチ(HC)は開口一番「今日は今年一番の試合ができたと思います。」と話した。
最終的には点差を詰められたが、第4Q 途中まではアサヒ飲料を圧倒する展開だった。
「キッキング、ディフェンス、オフェンス、すべてがこれまでの成果をきっちり出して、それをフィールドで表現する。今年、蓄積してきたものをすべて、いい形で出せたのが、今日のゲーム。それが(シーズンの)最終戦でできたことに意義があると思います。」と、最大級の賛辞をチームに送った。
完全に同意したい。それどころか、過去10年間のシルバースターのゲームを振り返っても、1,2を争うような好ゲームだった。
第3Qまでアサヒ飲料パス攻撃を封じたディフェンス。先制のTDを生んだキッキングチーム、そしてオフェンスではシーズン序盤はインターセプトを連発したQB田中が、成長の3TDパスを決めた。3本は、副将のWR小林、WR最年長の戸倉、今季復活の林に投げ分けた。
すべての局面で入れ替わりヒーローが現れる展開、有馬HCの言葉も理解できた。
試合後、11月22日で80歳の誕生日を迎える阿部敏彰監督へ花束贈呈があり、「傘寿」祝いの黄色いちゃんちゃんこもプレゼントされた。阿部監督は、藤縄大樹ゼネラルマネージャーが、ちゃんちゃんこだけでなく、黄色い頭巾をかぶせようとすると、「年寄り扱いするな!」と断固拒否して突き返し、その場は爆笑に包まれた。
「『日本のフットボール界の輝ける星』を目指し、日本の頂点で輝く銀色の星になる」
有名なスローガンと共に、50年以上シルバースターと共に歩んできた名将にとって、何よりもうれしいプレゼントだったのは、この日の会心の勝利だったに違いない。
最後に日本一の栄光を手にしてから22年がたった。この10数年は低迷し、強豪チームに大量失点で敗れる屈辱も何度も味わった。栄光を知らない今の選手たちは、今季最後のゲームを終えて口々に誓い合った。「もう二度と、エリアではプレーしない。」
その誓いを決して忘れないでほしい。