アメリカンフットボール・Xリーグの最上位「X1 スーパー」は11月27,28日に最終第7節を迎える。オービック、富士通、IBMで奮闘する3人の日本人QBに注目した。(写真はすべて撮影:小座野容斉)
Xリーグは、国内で最高レベルにありながら、関西学生Div.1や関東大学TOP8に比べてファンの関心が薄く、誤解されている部分も多い。「Xリーグの上位チームはアメリカ人QBばかりで日本人が入る余地がない」というのはその一例だろう。今季に限って言えば、富士通フロンティアーズ、IBMビッグブルーは、米国人QBは在籍していない。富士通は高木翼、IBMは政本悠紀が、エースQBとしてオフェンスをけん引してきた。
日本代表のエースとしてもプレーした高木、前エースのケビン・クラフトともプレー機会を分け合ってきた政本は、名の通った存在だ。そして、連覇を狙う王者オービックシーガルズでも、第6節の対エレコム神戸ファイニーズ戦でQB小林優之が台頭、2人に負けないパフォーマンスで、チームを勝利に導いた。その小林から話を始めたい。
163センチのQB小林を輝かせたクイックリリース 小林は11月14日のエレコム神戸戦で、Xリーグで初先発した。エースQBジミー・ロックレイが、第5節のパナソニック・インパルス戦で負傷したためだった。ロックレイはスタイルして、試合に出る気は満々だったが、すでに準決勝進出を決めているオービックサイドラインは安全策を取った。
とはいえ、オービックはこの試合を負けてもいいと考えていたわけではない。小林の能力の高さは、折り紙付き。ロックレイを獲得する前、WR木下典明が「米国人QBに頼らなくても、小林でいける」と評価したという話も漏れ聞こえていた。
小林は最初のドライブから本領を発揮した。WR水野太郎、そして木下へ鋭いミドルパスを決めて前進。RB望月麻樹のTDに結びつけた。次のオフェンスシリーズでは、すべてパスだけの8プレーで59ヤードを前進し、WR野崎貴宏に15ヤードのタッチダウン(TD)パスを決めた。
この試合、小林は20/27で239ヤード1TD。8人のレシーバーに、偏ることなく投げ分けた。ミスらしいミスは第3Qのインターセプト(INT)くらいで、しっかりゲームメーキングした。Xリーグで初めて、大学以来3年ぶりの先発ゲームとは思えなかった。大橋誠ヘッドコーチ(HC)も「オフェンス全体をしっかりコントロールしてくれた。フィールドを広く使う。リリースを速くするということに特化して、トータルのクオーターバッキングとして非常に良かった」と称賛した。
大橋HCの言葉通り、小林の最大の武器はクイックリリースだ。DLカーデル・ローリングス、木保慎太郎ら、破壊力十分なエレコム神戸のパスラッシュが届かない「早撃ち」で、被サックはゼロだった。
菅原俊QBコーチは「コバは絶対活躍しなければいけない選手でしたから。全然いけるだろうと信じていました」と、現役時代に自分が活躍した時よりも嬉しそうだった。クイックリリースについては「(2番手のQBなので)シーガルズの強いディフェンスと、練習でずーっと戦ってきたQBですから。肩だって強い。60ヤード普通に投げますから」とほめたたえた。
小林は強豪・佼成学園から日体大に進学した。身長163センチで、当時の関東大学TOP8でも最も小柄なQBだった。だが強肩と機動力に、プレーリードも兼ね備えたQBとして評価が高かった。
先発を言われたのが一週間前。「ジミー(・ロックレイ)と同じことはできない。自分は自分のスタイルがあるのでそれを貫いていこうと思っていました。クイックリリースは自分の生命線だと思っています」という。
「練習で、(オービックのディフェンスの)いつも凄いプレッシャーの中でやっているので、今日も自信をもってやれた」という小林。
「今のXリーグを考えると、いつ出られるかわからない状況で、パッと試合に出て結果を出せなかったら『やっぱり日本人QBは駄目』と言われてしまう。それだけは絶対嫌だと思ってやっています」と話した。
日本人QBへの先入観だけではなく、小林は体格でも、偏見と闘ってきた。
「高校・大学とずっとデカい相手と戦ってきました。(OLの向こう側は)見えないのが普通で、周囲がいきなりデカくなったわけではないので気にしていません」と笑う。
大橋HCの言う通り、「単なるバックアップではない。Xリーグのどの強豪相手でも、いつでも先発起用できる」という小林の存在は、富士通との連戦、さらにその先まで考えた場合、大きな意味を持つ。ロックレイの回復次第ではあるが、11月28日最終節は、小林が起用される場面が、かなりの確率でありそうだ。
エースの責任、QB高木「決める意識」が、持ち過ぎに 第6節のパナソニック戦が、試練のゲームとなったのが富士通の高木だ。
昨年のXリーグMVP、マイケル・バードソンを放出してまで、今季の富士通は高木に賭けた。オフェンスのウェポンとして、RBトラショーン・ニクソン、WRサマジー・グラントを同時にセットできる破壊力を選んだ。
スタッツ上、高木のパフォーマンスは決して悪くない。5試合でパス1199ヤード11TD2INT。4試合はINTなし。敗れたパナソニック戦もパス24/34、255ヤード、1TDという数字を残した。
だがパナソニック戦の中身は、褒めることはできないものだった。パス成功24回、255ヤードのうち、13回146ヤードはRBトラショーン・ニクソンが記録した。ニクソンが卓越したランアフターキャッチで稼いだものや、第4Qのキャッチアップオフェンスの中での数字も多かった。WRグラントが、第5節で負傷して欠場したのが、「ニクソン依存」を高めた。
ハーフタイムアジャストをして臨んだ第3Q、富士通オフェンスは3回連続で3&アウト。高木のパスは1回しか決まらなかった。
試合を通じて、高木がボールを持ち過ぎる場面が目についた。レシーバーを探せずに、ニクソンにチェックダウンとして投げたパスも多かった。
第2Qの7分から始まったオフェンスが持ち過ぎの典型だった。
富士通は、ニクソンのランとパスレシーブで、リズムよく攻め、レッドゾーンに侵入した。しかし、パナソニックのDLデイビッド・モトゥのサックで10ヤード下がった。
3rdダウン18ヤード、最初のタイミングで高木が探したレシーバーはすべてカバーされていた。ポケットから右に流れてダウンフィールドを見るが、レシーバーは空かなかった。そしてパナソニックのディフェンス陣がプレッシャーをかけてきた。高木は仕方なく、サイドラインにパスを投げだした。ボールがスナップされてから約6秒が経過していた。
高木は、ハートが強く、人一倍責任感が強いQBだ。第2Qに富士通オフェンスに2回連続でファンブルロストがあり、そこにも責任を感じていたのだろう。それが結果的に裏目に出た。「自分がTDパスを決める」という意識が、ボールの持ち過ぎと、強力なパナソニックディフェンスのプレッシャーを受ける形となった。
ここからは、オービックと2回対戦する。国内最強クラスのパスラッシュに対してQBが長くボールを持ち過ぎることはリスクでしかない。投げ急いではいけないが、レシーバー陣を信じて速いタイミングのパスで勝負するほかはない。
リーグ1位のパス成績も、QB政本の課題は成功率の低さ 政本は今季6試合でパス1681ヤード、17TD、8INT。パス獲得距離とTD数はリーグトップだが、第5節オール三菱戦で348ヤード7TDと荒稼ぎしたこともある。そして開幕から4試合は、勝ち星がなかった。本人もスタッツだけが積みあがっていくむなしさを感じていたのではないか。
今季の政本で一番の問題点は、成功率が低いこと。ここまで55.3%だが、敗れた3試合では48.8%と5割を切る。ノーハドルショットガンのハリーアップオフェンスで、この成功率の低さだと、オフェンスの時間があっという間に終わり、ディフェンスが休む間もなく出番となる悪循環に陥る。
政本は以前よりも走らなくなった。今季はここまで6試合で30回114ヤード。2年前にQBのランプレーでハードヒットされ大けがをしたこともあるが、ケビン・クラフトの後継QBとしてよりパスに力を入れている。第6節のノジマ相模原では、勝負所で絶妙なQBランを決め、ゲインは8ヤードだったが2TDを挙げた。うち1本が試合を決める逆転TDだった。
パナソニック、オービック、富士通の3強に比べると、OLの層が薄いIBMだが、レシーバー陣は能力が高い。WRジェイソン・スミス、白根 滉、TEジョン・スタントンに加え、海外プロリーグから帰国した近江克仁も第5節から戦列に加わった。
最終節の相手は東京ガス。政本と同じスプレッド&ガンのQBだが、実績やスケールは遥かに上のジェロッド・エバンスが相手になる。シュートアウトとなるのは間違いがない。
政本に求められるのは、パス成功率を挙げること、3rdダウンコンバージョンの成功率を挙げること、そしてオフェンスのドライブを継続することだ。その中ではQBのランもある程度は必要になってくるだろう。
東京ガスに勝てば、他チームの結果に関係なく、IBMの3年ぶりの準決勝進出が決まる。それは政本のクオーターバッキングにかかっている。