アメリカンフットボールのXリーグは、12月19日に「X1エリア」と「X2」の入れ替え戦2試合が、富士通スタジアム川崎であった。第2試合ではX1エリア11位のブルザイズ東京とX2ウェスト1位のホークアイが対戦し、ブルザイズがホークアイの反撃をかわして逃げ切り、X1エリア残留を決めた。ホークアイは、昨年まで関学大のエースQBとして甲子園ボウルで3連勝したQB奥野耕世、パナソニックや日本代表のエースWRとして活躍した頓花達也を擁して、第4クオーター(Q)にパスで反撃を試みたが、奥野が足を痛めて退いたこともあり、あと一歩で涙をのんだ。
X1エリア・X2入れ替え戦ブルザイズ東京○21-16●ホークアイ(2021年12月19日、富士通スタジアム川崎)
甲子園ボウルと同じ日。関学大の後輩たちが甲子園球場で、会心の勝利に酔いしれていたころ、ホークアイのQB奥野はフィールドに横たわっていた。5点差を追う第4QのドライブでQBキープで走り、ブルザイズディフェンスのタックルで足を痛めたのだった。
ホークアイのパスユニットは、QB奥野に、WR頓花、さらにパナソニック・日本代表のWR遠藤昇馬、オービックシーガルズで活躍したTE高木翔野と、ビッグネームがそろっていた。さらに、QBのブラインドサイドを守るLTには、関学の同級生、高木慶太が入った。奥野独特のリリースポイントの低いクイックなパスは、決まり始めると止まらなかった。第2Qには頓花に18ヤードのTDパスが決まった。
10-21と、11点差で第4Qに入った時も、ホークアイのパスユニットであれば、十分に射程圏内と思えた。実際、残り8分余りからのオフェンスで、4分10プレーで、頓花、高木に1本づつ、遠藤に3本のパスを決めてあっさりTDを奪った。2ポイントコンバージョンは失敗したが、5点差。そして直後のキックオフで、プーチキックに近い技ありのオンサイドキックを決めて、敵陣31ヤードからのオフェンスとした。ホークアイの逆転は時間の問題と思えた。
この試合、ブルザイズディフェンスは、ビッグネームなホークアイの選手たちに、気後れすることなく、アグレッシブなディフェンスを展開していた。ホークアイのランをほぼストップし、ときおり鋭いスクランブルを見せる奥野にも群がってタックルした。
それがこの局面で吉と出た。奥野はサイドラインに下がり、控えのQB尾関が入った。尾関は長身・強肩のパサーだが、奥野の速射と機動力に対応してきたブルザイズディフェンスにとっては、怖いQBではなかった。その後ホークアイの2度のオフェンスをしのぎ切った。ホークアイの最後のオフェンスはエンドゾーンまで21ヤードの地点から。3点差であればフィールドゴールを狙えた。ブルザイズディフェンスが、2ポイントコンバージョンを止めたプレーが、最後の最後に生きた。
試合後の奥野は気丈だった。負傷をほとんど感じさせないように振舞っていた。関西の民放で働く奥野には、他のXリーグの選手たちと同様、月曜日から多忙な日々が待っている。試合は言い訳にならないし、しない。それが、1年前、学生QBとして甲子園ボウルで勝った時との差だった。
来年、やれたらやりたい ホークアイ・QB奥野のコメント
「上に上がる目標を持ってやっていた。負けて終わってしまって悔しいですけれど。社会人のチームですから、来年同じメンバーが全員そろうかわからないですが、このメンバーで、ここまで来られて、試合ができたのは本当に良かったなと思います」
「フットボールは一回引退すると決めたけれど、先輩に誘ってもらってこのチームに入って、改めて、やってよかったなと思います。植屋(剛)キャプテンも本当にいい人ですし。チームの皆さんが、本当にいろいろなことを裏でやってくださっていたので。その恩返しとして、(X1エリア昇格という)結果を残せなかったのが、悔しいですね」
「来年ですか。うーん。でも、負けたんでね。やれたらやりたいですね」
こういう楽しみ方もある ホークアイ・WR頓花のコメント
「パナソニックでアメフトはやり切ったなと思って引退しました。もう一回やる気は無かった。1991年生まれの同期に“騙された”みたいな感じで、『一回、練習来てみいや』と誘われて。それが8月です。それで選手登録されていて」
「アメフトって、こういう楽しみ方もあるんだなと。立命館でやって、パナソニックでやって、日本代表でもやって。やっぱりガチガチで、絶対に勝たないといけないというプレッシャーの中でしかフットボールをやってこなかったので。仲の良い仲間と、楽しみながら、同時にしっかりとやっていくというアメフトもあるのだなと感じましたね」
「とはいえ、やはり負けるって悔しいなと。私がここに入って、試合に出るようになってからは、苦戦はしていましたが、負けてなかったので」
「今日は向こうのディフェンスも、僕をケアしていて、ダブルカバーしていたりして、その時点で奥野が他を見ると行くこともありました。我々はまだまだ準備不足で完成度が高くなかった。ブルザイズはチームとして強かったと思います」
常にプレッシャーをかけ続けたブルザイズ・住谷主将のコメント
「来年もX1エリアで戦えるというのが何よりもうれしいです」
「奥野君のパスで、追い上げられる展開。非常に厳しい時間帯が続いていたと思いますが、チーム全体として、サイドラインからもよく声が出ていたと思いますし、本当にチームとして落ちていないなというのは、(DLとして)フィールドの中で戦っていて感じられたので。一つ一つのプレーで、思い切りスタートを切ることができていました」
「奥野君が交代したのも、我々のディフェンスラインが常にプレッシャーをかけ続けていたからだと思います。QBが走るのはやはりリスクで、リスクを取らざるを得ないような形に持ち込むことができたのが、今日の試合だと思っています。一試合通じて積み上げてきたものが出たと思います」
「今シーズンは3勝を目標に戦ってきて、結果としては1勝5敗に終わったんですが、確実に毎試合成長できたと思っています。終盤の2試合は、勝機があったと思っていますし、そういう試合をまず勝ちに変えること。そうなれば勝ち越しを目標にもしていけると思います。まずはエリアの強豪チームにならなければと思います」
【試合経過】
ホークアイ 第2Q 2:38 QB奥野耕世→WR頓花達也, 18ヤードTDパス (キック成功) [0-7]
ブルザイズ東京 第2Q 5:12 WR天田裕貴, 19ヤードTDラン(キック成功) [7-7]
ホークアイ 2Q 第12:00 K望月康平, 36ヤードFG [7-10]
ブルザイズ東京 第3Q 1:06 QB南竹司→WR天田, 9ヤードTDパス (キック成功) [14-10]
ブルザイズ東京 第3Q 6:38 QB南竹→WR15 海老沼卓人, 8ヤードTDパス (キック成功)[21-10]
ホークアイ 第4Q 7:16 QB奥野→WR遠藤昇馬, 24ヤードTDパス ( 2点CV失敗) [21-16]