アメリカンフットボールの日本一を決める「プルデンシャル生命杯 第75回ライスボウル」に進出したXリーグ、X1スーパーのパナソニックインパルスが12月20日に練習を公開するとともに主力選手が取材に応じた。
【NFLと同じ契約でOK】全米大学王座への道のり、日本で初放送 2016年以来、6年ぶりの日本一奪還を目指す「西の王者」は、X1スーパーのリーグ戦を7戦全勝(1試合は不戦勝)で1位通過した。伝統の強力なディフェンスは健在だが、カギを握るのがオフェンスだ。6年前のパナソニックには、高田鉄男というチームの浮沈を託すことができる絶対的なQBがいた。そしてQB高田が、試合最終盤で、富士通相手に鮮やかな逆転のTDドライブを決めた。
今、パナソニックオフェンスを率いるのは、加入して3年目を迎えたQBアンソニー・ローレンスだ。
ロサンゼルス出身で、FCSのサンディエゴ大では、4シーズン48試合でパス12628ヤード、120タッチダウン(TD)。最上級生時には12試合で4107ヤード39TDで7インターセプトという驚異的なパス成績を残し、NFLからも注目された。卒業後、ブランクなしでパナソニックに加入した25歳、プライベートでは日本の神社仏閣を訪れるのが楽しみだという。
ローレンスの今季の成績は一見地味だった。リーグ戦6試合でパス903ヤード6TD。獲得距離はリーグ6位、米国人QB5人中4番目だ。もちろん理由はある。今季のパナソニックは序盤から大量点を奪う盤石の戦い方が続いた。パスを投げる必要がない展開が多かった。
一番大切なことは勝つことであり、ローレンスは自分のやりたいオフェンスのためにQBをしているのではない。米国人QBの中にときおり見かけられる、主客が転倒している選手とは違う。
今季リーグ戦で128回パスを投げてインターセプトは1本。インターセプト率0.78%は、100回以上パスを投げているQBの中では最少だ。今のパナソニックのオフェンスの中で必要なことをやった結果が、スタッツとなっているに過ぎない。
ローレンスは、いざとなればいつでも鋭い爪を表す。Xリーグでも屈指のパス能力で、相手を追い詰める。準決勝のIBMビッグブルー戦がそうだった。パス 24/37、266ヤード、4TD。インターセプトは無く、パサーズレーティングは122.1だった。
特に、IBMにロングドライブでTDを許し7点をリードされてからの第4Qで、ローレンスのパスは冴えた。計11回のパスアテンプトで9回成功86ヤード2TD。自身のキープも含めれば、このキャッチアップで93ヤードをゲインした。
単にスタッツが優れているだけではない。ローレンスのパスは、きわめて正確で、この試合の4TDパスはすべてレシーバーが構えたところに、ほぼ狂いなく投げ込んでいる。Xリーグの公式サイトにダイジェスト映像があるのでぜひ確認していただきたい。
ローレンスの一問一答 12月20日のQBローレンスの質疑応答は以下の通り。通訳はWRのブレナン翼が務めた。
―― アメリカと日本との違いについて
ローレンス:Xリーグに来て、アメリカでやってきたことと変わっていない。毎回の準備で同じルーティーンをやってきた。ただ、Xリーグとアメリカの違いというのは、(アメリカが毎週試合があるのに対し)2週間ごとに試合があるので、その分、スカウティングの時間であったり、体を整えるタイミングであったり、ピークを持っていくタイミング、余裕があるというのがありがたい。
―― 富士通の印象は
ローレンス:富士通は、過去7年くらいで、今日まで、2回しか負けていない。やはり、すごく長い間、伝統的にXリーグでは強いチームなので、手強い相手だと思っている。レギュラーシーズンで戦い(11月13日)勝ったが、LBの山岸、OLの町野選手もCFLに行っていて、いなかった。WRのサマジー選手もいなかった。その状態で戦っていた。今回は、メンバーが揃って、対戦するので、レギュラーシーズンと比べたら、もうちょっと難しい試合になると思っている。
――準決勝のIBM戦、何があったのか。
ローレンス:IBMはすごく手強いディフェンスをしていて、けど、僕たちは、アップテンポのオフェンスを1つの武器として使っていて、それを後半にも続けることができた。コンディション、スタミナがIBMのディフェンス陣に比べたら、1つ上回っていたおかげで、後半もアップテンポのオフェンスでリズムを作って、そのおかげで、IBMディフェンス陣が疲れて足が止まっていた印象がある。
――パナソニックのレシーバー陣のタレントレベルについてどう考えているか
ローレンス:質問の通り、パナソニックはレシーバー陣が豊富で、それは、荒木(延祥)監督と本多(皓二)コーチがしっかりといい人材を見つけ出しているから。まず、そのことに感謝している。本多コーチが、レシーバーをうまく育てている。パナソニックのオフェンスのシステムに合うようにしてくれたことに感謝している。そして、コーチ陣だけでなく、レシーバーのグループがハードワーキングで、互いに競い合って、高め合っているので、僕はラッキーです。
――(ブレナン翼に)ローレンスをQBとしてどう見ているか?
ブレナン:アンソニーは、とても頭が良くて、フィールドでのリードでも、ミーティングルームでも、スカウティングをしている時でも、対戦するディフェンスの弱いところ、弱点を突き詰める能力がすごく高い。シーズンを通してみるとターンノーバーが少ないと思うが、やっぱり、いい意味で攻めたプレーをしない。変に、無理やり投げ込まないということであったり、常に安全な方法を考えて、判断している印象がある。
――最近、どんなお寺や神社に行きましたか。
ローレンス:(京都・宇治の)平等院です。
◇
ローレンスと言えば、思い出されるのは、2019年のジャパンXボウルだ。第4Q最終盤、残り3分を切ってからパナソニックがTDをあげて26-28と2点差に追い上げた。2ポイントコンバージョンでは、ローレンスがサイドラインに出て、他のQBが入った。ランで来るのか。そう思わせて、パスだった。エンドゾーンの奥を狙ったパスは、富士通DLが叩いて失敗した。これが勝敗を分けた。
後で録画した中継映像を見直すと、失敗の瞬間、サイドラインのローレンスは失望とも呆然ともつかない、何とも言えない顔をしていた。
2点差となったTD自体は、RBビクタージャモ―のランだったが、その前に、敵陣43ヤード付近の3rd&7で、富士通がインサイドからのブリッツを仕掛けたのに対し、ローレンスが右に大きくロールしてかわし、40ヤード近いロングパスをWR頓花達也に決めていた。このパスで、一気にゴール前に攻め込んでいた。
NHKで解説をしていた、オービックシーガルズの古庄直樹さんが思わずうなるほどの剛球をストライクで投げ込んでいた。
3rdダウンロングと、ゴール前からの2ポイントでは、シチュエーションが違うのは承知のうえ。なぜ、あれだけのパスを決められるローレンスに2ポイントも託さなかったのか、率直に言って、今も疑問として残ったままだ。
1月3日のライスボウルで、同じシチュエーションがあったなら。ローレンスがサイドラインに下がることはないと、断言できそうだ。