米プロフットボール・NFLの偉大な伝説が今終わろうとしている。現地2月1日、現在はタンパベイ・バッカニアーズのQBで「GOAT(the Greatest Of All Time、史上最高)」と称されるトム・ブレイディが、22年間にわたる現役生活に終止符を打ち、引退することを、自身のインスタグラムで表明した。(写真はすべてGeety Images)
ブレイディは「フットボールとは全精力を傾け、100%の競争心によるコミットが無ければ成功しないスポーツ。私は今後、そのようなコミットをするつもりはない」「今は、私は競技のフィールドを去り、献身的で熱心な次世代のアスリートたちに委ねることがベスト」と述べて、引退を明言した。
ブレイディは、ニューイングランド・ペイトリオッツで、2001年シーズンのスーパーボウルを初制覇して以来、史上最多の10回出場、7回優勝、5回のMVPに輝いた。QBとしても、歴代最多の通算84520ヤード、624タッチダウン(TD)など、NFLの大半のパス記録を塗り替えてきた。
2020年に、長年所属したペイトリオッツからバッカニアーズへ移籍し、最初のシーズンでスーパーボウルに優勝した。今季は44歳にして自己最高となるレギュラーシーズン、パス5316ヤードで、NFLのパッシングリーダーにも輝いたが、チームは1月23日、プレーオフのディビジョナルラウンドで、ラムズに敗れていた。
米スポーツ専門局ESPNは1月30日にブレイディが引退を決断と報道。その中で、決断は、家族や健康状態などいくつかの要因に基づいていると伝えた。また、引退そのものにはあまり大きな影響を持たなかったが、バッカニアーズが大幅なロースターの入れ替えを行う可能性が高いことも認識していたという。ブレイディの妻は「世界一収入の多いスーパーモデル」と評されたこともあるジゼル・ブンチェンさん。
トム・ブレイディの持つ主なNFL記録と業績は以下の通り。
・QBとして試合出場:318試合
・QBとして最多勝利:243勝
・最多パス試投:11317回
・最多パス成功:7263回
・最多パスTD:624本
・最多通算パスヤード:84520ヤード
・通算被サック:543回(2位)
・1シーズン最多パス成功:485回(2021年)
・選手としてスーパーボウル最多出場:10回
・選手としてスーパーボウル最多優勝:7回
・スーパーボウルMVP最多選出:5回
・NFLのシーズンMVP:3回(2位タイ)
・選手としてポストシーズン最多出場:47試合
・選手としてポストシーズン最多勝利:35勝
・ポストシーズン最多パス試投:1865回
・ポストシーズン最多パス成功:1165回
・ポストシーズン最多パスヤード:13049ヤード
・ポストシーズン最多TD :86本
・ポストシーズン最多被サック:79回
・プロボウル最多選出:15回
・QBとしてポストシーズン最多進出:17シーズン
・レギュラーシーズン10勝以上が最多:19シーズン
・40歳以上で10勝以上のシーズン:5シーズン
・40歳以上で先発勝利数:60勝
・40歳以上でスーパーボウルに先発出場:3回
・40歳以上でスーパーボウル先発勝利:2勝
ブレイディのNFLでの年表
トム・ブレイディは1977年8月3日生まれの44歳。今季のNFLで現役最年長だった。
カリフォルニア州の出身で、米カレッジフットボールの名門、ミシガン大学でQBとして大活躍したが、NFLからの評価は低く、2000年ドラフト6巡199位でペイトリオッツに入団した。当時ペイトリオッツにはエリートQBだったドリュー・ブレッドソーがいたために控えとなり、ほとんど出番はなかったが、2年目の2001年のシーズンに、ブレッドソーが大怪我をしたために急遽途中出場した。
9.11同時多発テロの後に初めて開催されたNFLの試合の1つだった。
ブレイディは、そして次週からスターターQBとなった。これ以後のブレイディは、あまりにも多くのことを成し遂げ、エピソードを書ききれないので年表形式として掲載する。(◎がスーパーボウル出場、〇がプレーオフ出場、●がプレーオフ出場できず)
◎2001年シーズン
先発昇格後、11勝3敗で乗り切り、スーパーボウルに進出。圧倒的優勢と言われたラムズを破って初優勝した。24歳6カ月でQBとしては最年少のスーパーボウルMVPに輝き、檀上のインタビューでは「夢がかなった」と涙を流した。メディアはブレイディをシンデレラと称え、ラムズを破ったペイトリオッツを、第3回スーパーボウルでジェッツがコルツを破って以来の歴史的アップセットと称えた。
●2002年シーズン
スターター2年目、2001年以降で唯一プレーオフに進めなかったシーズン。
◎2003年シーズン
スーパーボウル進出、パンサーズを破って2度目の優勝
◎2004年シーズン
スーパーボウル進出、イーグルスを破って、27歳で3度目の制覇。これが、現時点でスーパーボウルを連覇した最後のチーム。
〇2005年シーズン
自身初のパス4000ヤード越えでNFLパッシングリーダーに。プレーオフディビジョナルラウンド敗退。
〇2006年シーズン
AFCチャンピオンシップで、宿命のライバル、ペイトン・マニング率いるコルツに敗れる。私生活では2004年から事実婚していた女優のブリジット・モイナハンと破局。
◎2007年シーズン
WRランディ・モスが加入。レギュラーシーズン16戦全勝、自身もパス4806ヤード、50TD、8INT、レーティング117.2とキャリア最高の成績でオールプロ選出。スーパーボウルではジャイアンツに敗退し、「パーフェクトシーズン」ならず。
〇2008年シーズン
開幕戦で膝にヒットを受け、靭帯断裂の重傷でシーズンアウト。ほぼ全休した唯一のシーズンとなった。。オフの2009年2月に、世界的スーパーモデルのジゼル・ブンチェンと結婚。
〇2009年シーズン
16試合に出場し、パス4398ヤードでカムバック・オブ・ザ・イヤーを獲得。プレーオフワイルドカード敗退。
〇2010年シーズン
自身2度目のオールプロ選出。インターセプトわずか4回、0.8%を記録。チームはプレーオフディビジョナルラウンド敗退。
◎2011年シーズン
2年目のロブ・グロンコウスキーが「モンスターTE」として開花。自身初のパス5000ヤード超え(5235ヤード)で、5回目のスーパーボウル出場も、「天敵」QBイーライ・マニング率いるジャイアンツに敗れる。
〇2012年シーズン
プレーオフディビジョナルラウンド敗退
〇2013年シーズン
プレーオフディビジョナルラウンド敗退。宿敵ペイトン・マニングが移籍したブロンコスに敗れる。
◎2014年シーズン
6回目のスーパーボウルで、シーホークスを破り、10年ぶりの優勝。テリー・ブラッドショー、ジョー・モンタナに並ぶ。
〇2015年シーズン
プレーオフディビジョナルラウンドで、ブロンコスに敗れる。ペイトン・マニングと最後の対決となった。
◎2016年シーズン
シーズン前に、ボールの空気を抜いて捕球しやすくしていた疑惑が持ち上がり、リーグの調査に十分に応じなかったとして、開幕から4試合出場禁止に。しかし第5週から出場して11勝1敗でスーパーボウル進出。
スーパーボウルではファルコンズに最大で25点差とされながら、第4Qに同点に追いつき、史上初のオーバータイムで勝利。QBとして個人最多となる5回目の制覇。
◎2017年シーズン
40歳で、自身2度目となるスーパーボウル2年連続出場も、イーグルスに敗れる。
◎2018年シーズン
自身初の3年連続スーパーボウル出場。ラムズを破って6回目のスーパーボウル制覇。ペイトリオッツも優勝回数でスティーラーズに並ぶ。
〇2019年シーズン
ワイルドカードでタイタンズに敗退。12回目のパス4000ヤード越えも、シーズン終盤で成績が落ち込む。オフに20年在籍したペイトリオッツに別れを告げ、バッカニアーズへ移籍。
◎2020年シーズン
43歳。移籍1年目でバッカニアーズをスーパーボウルへ。QBパトリック・マホームズ率いるチーフスに完勝して個人として7回目のスーパーボウル優勝、5回目のMVPに選出。
〇2021年シーズン
44歳。開幕からパスが好調で、トップを走り続け、自己最高となる5316ヤード、2番目となる43TDパスを記録した。バッカニアーズも13勝を挙げて地区優勝、8度目のスーパーボウルに向けて視界良好とみられていたが、プレーオフディビジョナルラウンドで、ラムズに敗退した。ブレイディ自身は終盤に神がかり的なパフォーマンスで同点とするなど、衰えはどこにも見せていなかった。
ゲーム終了後から、米のメディアで引退情報が出始め、2月2日に引退を発表した。
【1月23日、ブレイディの現役最後のTDパス】
ブレイディの引退声明
ブレイディがインスタグラムに投稿した引退声明の冒頭部分は次の通り。
1月30日の引退報道
ブレイデイの引退については、現地1月29日(日本時間30日)にESPNが最初に報じた。公式サイトのNFL.comや、他の多くのメディアも相次いで引退を伝えた。引退情報は、ESPNのアダム・シェフターが伝えたもので、NFLネットワークインサイダーのイアン・ラポポートも追認していた。
一方でAP通信など、一部のメディアは、引退に否定的な情報も流した。米紙USA TODAY Sportsは、事情を直接知る人物が「間違いなく引退する」と語っていると報じていた。同紙のマイク・ジョーンズによると、この人物は、引退発表について公にする権限がないため、匿名を条件に話したというが、他のメディアがブレイディはまだバッカニアーズに引退を伝えていないと報じたのに対し、この人物は「ブレイディは、自分で(引退の)ニュースを伝えたい」だけで、引退そのものは間違いないと語っているとしていた。
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