社会人アメリカンフットボール「Xリーグ」第4節注目の全勝対決、富士通フロンティア-ズ対ノジマ相模原ライズの一戦は、富士通がノジマ相模原に快勝した。
第4クオーター(Q)の残り16秒でノジマ相模原QBジミー・ロックレイがタッチダウン(TD)パスを決めて意地を見せたが、それまでは41対15のワンサイドゲームだった。ただ、点差ほどに内容に差はなかった。ゲームの流れの中で、どう転ぶかわからない局面が多々あった。その局面ごとの勝負で、ほぼすべて勝ったのが富士通で、負けたのがノジマ相模原だった。
富士通は、オフェンス主導のチームと見られがちだが、ディフェンスもXリーグでトップクラスだ。アグレッシブに守って、チャンスを作り出す。それがこの試合でもいきなり飛び出した。最初のノジマ相模原のオフェンス、自陣のサードダウン14ヤードで、富士通DB髙橋悟が少し遅れてブリッツし、パスを狙っていたロックレイの右腕を叩いた。高橋は転がったボールを拾い上げるとエンドゾーンに駆け込んだ。開始わずか1分、鮮やかな先制のリターンTDだった。
富士通オフェンスは当初、順調だったとは言えない。高橋の先制TDの後、ノジマ相模原はロックレイのパスを中心にオフェンスが12プレーで67ヤードをゲイン、フィールドゴール(FG)を返した。富士通は、QBマイケル・バードソンのパスが決まらずに3&アウトでパント。ノジマ相模原はロックレイがパスだけでなく、積極的に走ってファーストダウンを重ね、9プレー58ヤードを進んでFGを決めた。得点差は1点。第1Q、富士通の攻撃時間はわずか1分18秒、試合は明らかにノジマ相模原ペースだった。
第2Q最初の富士通のドライブ。ファーストプレーで、ゾーンブロックの富士通OLがこじ開けたインサイドの穴をRBトラショーン・ニクソンが走り抜けた。ダウンフィールドに出たときはもうトップスピードで、ノジマ相模原ディフェンスは追いつけなかった。74ヤードの独走TDとなった。
この1本が効いた。次のドライブから、バードソンはニクソンのフェイクを入れたパスを投げ始めた。余りにも鮮やかな走りを見せつけられたノジマ相模原ディフェンス陣の足は一瞬止まる。バードソンは、レシーバーがブレークするのを待つゆとりが生まれ、富士通3回目のオフェンスでは、バードソンが2本のパスを通してTDを奪った。
バードソン自身の進化も見逃せない。前半最後のオフェンスシリーズ。猪熊星也の好リターンで50ヤードからのスタートだったが、残り27秒でタイムアウトなし、21対9という得点差を考えれば、無理に攻めずに時間を流してもよかった。しかし、藤田智ヘッドコーチ(HC)は、攻めを選んだ。直前にノジマ相模原にFGを決められている。そのままハーフタイムを迎えたくなかったのだろう。
バードソンは左サイドライン際のWR森田恭平へ12ヤードのパスをきっちりヒットして時間を止めた。次のプレーはパス失敗。残り15秒でボールオンは38ヤード。できれば10ヤードは進みたい場面だった。バードソンは、意表を突いてすぐ前にいたニクソンにパスを投げた。ニクソンはランアフターキャッチでノジマ相模原陣16ヤードまで22ヤードを進み、ファーストダウンを奪った。
素早く移動した富士通オフェンスはハリーセット、バードソンがスパイクして時計を止めた。残り3秒。キックの名手・西村豪哲を擁する富士通にとっては、3点を手中にしたプレーと言ってよい。西村は32ヤードのFGを決めた。
バードソンは、タイムアウトのない状態で、サイドライン際のパスを通して前進すると思わせて、フィールド中央で空いていたニクソンにパスを決めた。NCAAルールでは、ファーストダウンを更新すると、チェーンクルーが移動するまで数秒間時計は止まることを把握したオフェンスだった。
1週間前のオール三菱戦、バードソンは前半の最後に同じシチュエーションがあり、パスは成功させたが、時間を止められず、FGのチャンスを作れなかった。1週間で、より強いディフェンスを相手にしっかり宿題をクリアした。
高橋の先制リターンTDが、冒頭で試合の流れを作ったビッグプレーなら、勝敗を決めたのは、第4クオーター3分のDBアルリワン・アディヤミのインターセプトリターンTDだ。この場面、16点差は付いていたが、第4Qが丸々残っており、ノジマ相模原逆転の可能性は十分にあった。
レッドゾーンまで攻め込んだフォースダウンで、ノジマ相模原はギャンブルに出た。TDを狙ったロックレイのパスを富士通ディフェンスが弾いた。宙に浮いたボールに、アディヤミが反応した。ボールを奪い取ると、そのまま左サイドライン沿いを快足を飛ばして走り抜けた。99ヤードのリターンTD。ポイントアフタータッチダウン(PAT)も決まり、23点差となった。試合は事実上決まった。
このプレー、点差を考えるとFGで3点を取っておく考えもあったが、結果論だろう。
筆者は撮影していて、ボールが跳ね上がった瞬間、ファインダーの中でノジマ相模原の選手の動きが一瞬止まり、その中で「ボールホーク」アディヤミだけが素早く動いたように感じた。フォースダウンギャンブルでパス失敗、「ああ、ダメか」と思った一瞬がノジマ相模原の選手たちに生じた分だけ、反応が遅れたように思えた。
◇ ◇
ファーストダウン更新とオフェンスの獲得ヤードは、富士通が17回で378ヤード、ノジマ相模原は20回で333ヤード。個々の選手たちの能力にそれほど差があったわけではない。ただ、一つ一つのプレーのディテールと完成度の差が出たと思う。筆者は、5~6年前を思い出した。富士通が、当時無敵を誇ったオービックシーガルズに挑んでは、はね返された試合が続いた時代だった。
試合後、藤田HCはハドルで「ナイスゲーム。よう勝った。しかしいっぱい宿題を貰ったな。練習して、上手くなって次に備えよう。一試合一試合、成長しよう」と選手たちに声をかけた。前節まで本当に厳しい表情を崩さなかった藤田HCの顔に少しだけ、柔和さが戻ったように感じた。
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