社会人アメリカンフットボールのXリーグは、9月半ばの現在、第3節に突入している。9月第1週まで衰えを見せなかったこの夏の猛暑に加え、9月中に第4節までの4試合を終えるという、例年にない前倒し進行の日程がリーグ戦に微妙な影を落としているようだ。どのチームも本来のパフォーマンスが発揮できない納得のいかない試合が続いているように見える。9月16日に富士通スタジアム川崎で、アサヒビールシルバースターと対戦する、IBMビッグブルーの今を探った。
9月9日、明治安田ペンタオーシャンパイレーツに38-0で今季初勝利を挙げたIBM。だが試合後のハドルで、前ヘッドコーチ(HC)、山田晋三シニアディレクター(SD)の異例の檄が飛んだ。「お前らの目指しているところは、こんなところやないやろ。今まで積み上げてきたことが、全部試合で出るんや。(親指と人差し指で形を作りながら)この先、こんなわずかな差で勝負がつくんや」。
「お前らは、このハドルでも、声をかけてから集まるのが遅い。俺はこのリーグで8年間(コーチを)やって来たからよくわかっている。こういう時にパッと素早く集まるチームが勝ち残る。だらだら遅いチームが負ける。ずーっと見てきたけれど、そうなっとんねん」。精神論を言うタイプではない山田SDの、言わずにはいられない気持ちが声に表れていた。そもそもケビン・クラフトHCが話すべき順番に、山田SDが割り込んで、選手を叱咤していたのが異例だった。
率直に言って、長年サイドラインでXリーグを撮影してきた筆者も山田SDと同感だった。IBMはよく言えば「自由闊達」、しかし悪く言えば「緩い」カラーを持ったチームだ。
緩さは、必ずしも悪いことではない。社会人スポーツにとっては必要な場合もある。
プロではなく、企業チームでさえないクラブチームの彼らは、平日はチームとは関係ない企業でサラリーマンとして通常に仕事をしている。練習は基本、土日のみだ。主将の中谷祥吾、エースRBの高木稜ら、東京ではない遠隔地で勤務をしながら練習に通ってくる選手もいる。さらに、家庭を持っている選手も多い。オン・オフの切り替えをして、緩急をつけなければ、競技生活は続けられない。それは山田SDとて承知の上だ。
ただ、試合に出ない選手の服装や、ハドルの時の集まり方などは、見ていて気になっていた。これは企業チーム・クラブチームの有利不利とはまったく関係ない。やるべき時はやらねばならない。なんのために、体を痛め、プライベートを犠牲にして戦っているのかを、山田SDは改めて選手たちに問いただしたのだと思う。
クラフトHCは米国人なので、そういう類の「説教」はしないが、内心は同種の感情を抱いているのかもしれない。これまで日本語を使わなかったクラフトHCは、今、必ずQB政本悠紀ら英語が堪能な選手たちに、自分の言っていることを日本語に翻訳させているのがその証だと感じる。
今季のIBMの2試合を見て、強いのか弱いのか判断がつかないというのが感想だ。開幕戦が35度、第2戦が31度という気温が、ベストのパフォーマンスをチームから奪っていた。昨シーズン、長年の課題だった、オービック戦、パナソニック戦勝利を挙げ、2度目のジャパンXボウル進出を成し遂げたとはいえ、まだまだそういう側面も併せ持つのがIBMの現状だ。今季の真の力がどのくらいなのか、まだ見えていない。
確かにクラフトHCが、開幕直前に利き腕を骨折したのは大きな誤算だった。昨年の陣容からは、高木と並ぶエースRB末吉智一が引退。クラフトが出られないことで、QBとRBを欠く状態で富士通フロンティアーズとの開幕戦を迎えた。しかし、富士通もQBコービー・キャメロン、RBジーノ・ゴードンという攻撃の2枚看板が引退。代わったQBのマイケル・バードソンは今夏に来日してぶっつけ本番のデビュー戦だった。そこだけを見れば、条件はそれほど変わらない。その試合で6-41と完敗した。
明治安田戦は、スタッツ上は完勝に見えた。しかし前半はランを封じられ、39ヤードのフィールドゴールトライを失敗するなど攻めあぐみ、試合の1/3までは7点のリードだけで推移した。QB政本のスクランブルからのランでオフェンスがリズムを掴み追加のタッチダウンを奪うまでは、決して褒められた内容ではなかった。
WRでは立命大前主将・近江克仁をはじめ、前田泰一(関学大)、中村 聡吾(関大)ら、強力なルーキーが加わった。若手の鈴木隆貴、白根滉も含めた、QB政本率いるパッシングユニットは、2016年の大学日本代表チームをほぼそのまま引き継いだようなXリーグ屈指の陣容だ。ここに栗原嵩やジョン・スタントンが加わるのだ。末吉が退いたRB陣も、法政大で鳴らした鎌田洋輔、明治安田戦の後半で力強い走りを見せた山中大輔らが加わっている。
試合後、クラフトHCは、筆者が話を聞き終わると、骨折した右手で握手をしてくれた。その感触は力強かった。今季中の復帰も十分に考えられるのではないか。
9月中旬とはいえもう3戦目だ。強敵シルバースターとの対戦、そして8日後の9月24日には、宿敵LIXILディアーズが待っている。戦力が足りないわけではない。戦術がまずいわけでもない。選手たちが、今シーズンの本当の本気を見せられるかどうか。IBMの今季はこれからの2試合で決まる。
【撮影・文 小座野容斉】
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