アメフトの世界最高峰、米プロフットボール・NFLは現地10月24日(日本時間25日)に第7週を終えた。
過去20年のNFLを彩ってきたスターQBたちへの挽歌が流れている。通算パス獲得ヤード1位のトム・ブレイデイ(バッカニアーズ)、同7位(現役2位)のマット・ライアン(コルツ)、同10位(現役3位)のアーロン・ロジャース(パッカーズ)が揃って苦境にある。
QBの権化ともいうべきブレイディは、今週は思いもよらない惨敗。天馬空をゆくが如き名手、ロジャースも、思うようにパスが決められずに3連敗。ライアンは、2インターセプト(INT)で今季9INTとなり、スターターから降格することになった。今季のNFLは大きな歴史の転換点にあるのかもしれない。
ただし、この3試合は、勝ったチームのランゲームが、敗れたチームのそれを大きく上回ったことも、忘れてはならない。(写真はすべて Getty Imeges)
ブレイディ、ノーTDでまさかの惨敗
バッカニアーズ●3-21○パンサーズ
バッカニアーズのブレイディと、パンサーズの先発QB、PJウォーカーの間には100倍以上の差があった。
スターター経験は322試合と2試合。通算パスヤードは86462ヤードと850ヤード。通算タッチダウン(TD)は632と8。INTだけは202と8で、12倍強の差だった。
確かに、今季は不調で、プライベートも含め様々な憶測が流れる中でプレーしていたブレイディだった。
だが、パンサーズは、第5週終了後にマット・ルールヘッドコーチ(HC)を解雇、この試合の3日前には、オフェンスの主軸、RBクリスチャン・マキャフリーを49ersにトレードしたばかり。今季の残り試合は、来年ドラフトの上位指名権を得るために捨てているのではないかという見方さえあった。
そもそもQBウォーカーは、テンプル大学卒業後の3年間は、NFLでは実績は皆無。新興プロリーグXFLでプレーしていたところを2020年、パンサーズに拾われた。理由は、当時新任だったルールHCが、かって自分が指揮官を務めていたテンプル大の教え子だったから。
そのルールを解任したパンサーズにとって、ウォーカーは、もはや「どうでもいい存在」だった。かっての1巡1位だったベイカー・メイフィールド、1巡3位だったサム・ダーノルドに見切りをつけ、来年ドラフトでカレッジのトップQBを指名することが確実な状況だった。
前置きが長くなったが、現在のブレイディとバッカニアーズが、いくら不調でも、落とすことはないだろうと思われていたのがパンサーズ戦だった。
その試合で、敗れた。しかもTDを1本も奪えない完敗だった。
内容的には、ブレイディのパスが、今季それほど悪くなっているわけではない。成功率66.9%は昨シーズンと変わらないし、INTはわずか1。問題視されるOLのプロテクションだが、この試合の被サックは1回だけで、ここまで10サックは許容の範囲内だろう。
問題は、勝負所を獲り切れず、決定力を失っていることだ。7試合でTDパスは8本で、TD率は2.7%は実質的にキャリアワースト。昨シーズンはこの時期21TDだった。
パンサーズ戦では、3rdダウンコンバージョンは2/12、後半に、敵陣に攻め入った2度の4thダウンではいずれもパス失敗に終わった。
バッカニアーズは3勝4敗となった。ブレイディが開幕から先発QBを務めたシーズンで、第7週を終えた段階で負け越しているのは、2002年以来だという。
ゲーム全体を見ると、パンサーズが粘り強く守ると同時に、ランで試合を支配した。大型RBディオンタ・フォアマンがランで118ヤード。チューバー・ハワードも9回63ヤード。支えられたQBウォーカーは、キャリア初となる、1試合で複数TDパスを決めた。
フォアマンは、通算で4試合しか先発していない、典型的な控えRBだが、走りはパワフルで、パスレシーブにも長けている。これでラン100ヤード越えは4試合。昨年は、タイタンズでデリック・ヘンリーの穴を埋めて余りある活躍をした。
トレード期限に向けて、スタープレーヤーの移籍が活発だが、特にランオフェンスに課題を抱えているチームはフォアマンのようなRBを獲得すべきではないだろうか。
ロジャース、3Q終了時でパス100ヤードに届かず パッカーズ●21-23○コマンダース コマンダーズのテイラー・ハイニケは、めげないQBだ。
昨シーズンは15試合に先発し、7勝8敗。だが、今季は、コルツから移籍のカーソン・ウェンツの控えを務めてきた。
ウェンツが利き腕の指を骨折して手術。先発したハイニケだったが、試合開始から2Qの途中まで、パスは2/9で21ヤード。しかも、63ヤードのインターセプトリターンTD「ピック6」という最悪のおまけまでついていた。
パッカーズのLBディボンドレ・キャンベルが、コマンダーズのJ.D.マキシックを、タイトにカバーしていたのに投げ込んでしまった、QBのミスだった。
2018年以降、コマンダーズのQBは11選手が務めてきたが、その中では比較的好成績に見えるハイニケが、首脳陣からの信頼を得られない理由がわかる気もした。
しかし、ハイニケはここから奮起した。2Qに、ゴール前9ヤードの3rdダウンからRBアントニオギブソンに9ヤードのTDパス。
そして後半の2Qは、パス13/16、163ヤード、1TDパスと、前半のミスをしっかり取り返した。
リスクを背負って、取り返しに行ったのがハイニケなら、MVP4回の名手ロジャースは、終始、物足りないパスだった。
前半で14-3とリードしたとはいえ、保守的なプレーコールになる展開ではない。だが、INTを恐れたのか、ディープを狙わずに、短いパスばかりになった。
ロジャースの前半のパスは9/15で、わずか47ヤード。3Q終了時にも100ヤードに達していなかった。
INTはなかったが、ファンブル2回、1回はロストした。
ロジャースらしいパスは、4Qに決めた、RBアーロン・ジョーンズへのTDだけと言ったら言い過ぎだろうか。
2点差を追うゲーム最終盤、残り23秒タイムアウトなしからWRサミー・ワトキンスに決めた28ヤードのパスも、可能ならフィールド中央ではなく、サイドラインに近いレシーバーを狙いたかった。
余人ならいざ知らず、プレーリードとパスの精度とに関しては、NFLでNo.1のQB。決して過大な要求とは思わない。
試合全体を総括すると、バッカニアーズ・パンサーズ戦と同様に、ランゲームを確立できた方が勝った形だ。
パッカーズのラン38ヤードに対して、コマンダーズは166ヤード。共に大型のRB、ブライアン・ロビンソンJrが20回73ヤード、アントニオ・ギブソンが10回59ヤードで、地上戦を支配した。
ライアン、20ヤード以上のパスは1回コルツ●10-19○タイタンズコルツが、近年相性の悪いタイタンズの注文通りに戦わされて、そして敗れた。
コルツQBマット・ライアンはパス33/44で、成功率は75%だったが、獲得した距離は243ヤード。20ヤード以上のパスは1回だけ、TDパスは1本にとどまった。
そして、タイタンズディフェンスの強いプレッシャーにさらされた。
ライアンは3サックされ、2インターセプト、うち1本はピック6だった。
ライアンだけに責任を背負わせるのは酷かもしれない。 RBジョナサン・テイラーのランは10回で58ヤードにとどまった。
これに対して、タイタンズの「キング」デリック・ヘンリーは30キャリーで128ヤードと本領を発揮した。
NFLのネクストジェネレーションスタッツによると、ヘンリーのランは30回中29回がボックス(OLのタックルからタックルの内側)の中で、しかもディフェンダーが7人以上いたプレーだったという。
ヘンリーは、3試合連続の100ヤードラッシングで、エンジンがかかってきた感じだ。
タイタンズのQBライアン・タネヒルは、コルツ戦に強い。先発した試合は通算6勝1敗だという。
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コルツは、試合翌日の定例記者会見で、フランク・ライクHCが、次週から先発QBをNFL2年目のサム・アーリンガーとすることを発表した。
NFL Week7の他の試合の結果
10月20日サーズデーナイト
セインツ●34-42○カーディナルス
10月23日
ブラウンズ●20-23○レイブンズ
ファルコンズ●17-35○ベンガルズ
ライオンズ●6-24○カウボーイズ
ジャイアンツ○23-17●ジャガーズ
ジェッツ○16-9●ブロンコス
テキサンズ●20-38○レイダース
シーホークス○37-23●チャージャーズ
チーフス○44-23●49ers
10月23日サンデーナイト
スティーラーズ●10-16○ドルフィンズ
10月24日マンデーナイト
ベアーズ○33-14●ペイトリオッツ
ビルズ、イーグルス、バイキングス、ラムズはバイウィークだった。