アメリカンフットボール 関東学生1部TOP8最終節早稲田大学ビッグベアーズ○30-18●法政大学オレンジ(2022年11月23日、横浜スタジアム)早大が3年ぶり7回目の優勝 間断なく降り続ける雨の中で、両校のゲームプランは、「ラン重視」だったはずだ。法大の不運は、その戦略が前半で大きく狂ってしまったことだった。
今季ここまで700ヤード以上を走ってきた、オフェンスの切り札であり、学生屈指のRB星野凌太朗が、第1Qの終わりから、出場しなくなったのだ。
法大の富永一ヘッドコーチ(HC)によると、星野は脳震盪の疑いがある症状が出たために「今日の出場を見合わせることにした」という。
それでも、残った2人のRB宮下知也、岩田翔太郎が奮起し、第2Qにはランで2TDを奪った。しかし、後半、早大ディフェンス陣が鋭い出足から好タックルを連発すると、法大のランが進まなくなった。
今季、6試合でパス成功率、パサーズレーティング共に関東トップだったQB平井将貴だが、星野を欠いた状態で、雨と低温という悪コンディションは、流石に堪えた。
雨であっても、通常通りのパスができる準備を重ねたはずだったが、「ほんの少し、投げるタイミングが速かったりしていた」(富永HC)といい、いつものパフォーマンスができなかった。
得点差も微妙に影響した。前半のTDでエクストラポイントを失敗していたため、4点差を追う展開となった第4Q。残り4分余り、自陣28ヤードでの4thダウンギャンブルは、TDを奪わなければならない重圧からの選択だったように見えた。
結果的にギャンブルは失敗し、次のプレーで早大がTDを奪って、試合の大勢は決まった。
スタッツが、この試合をよく表していた。パスは早大が9/18で101ヤード、法大が10/22で123ヤード。早大はパスで1TDを決めたものの、差はほとんどなかった。一方、ランでは、早大がニーダウンを除いて35回277ヤード。法大は32回で111ヤードだった。特に後半、10回18ヤードと、早大に完全に走り負けた。
尊かった富永HCの判断 試合後、星野は表彰式に参加するなど、幸いにも、挙措は普通だった。富永HCも「星野の症状は軽度」と認めた。
軽度であっても脳震盪の疑いがある選手を、どんなに大切な試合であろうと出さない。
富永HCの、その判断はとても尊かった。
春からチームを率いることになってわずか半年余り。かって、オービックシーガルズで、オフェンスコーディネーター(OC)として、ライスボウル4連覇を果たし、日本代表のOCや、LIXILディアーズのHCも務めた、オフェンスの鬼才だ。今季は、オービック時代に苦楽を共にした元QBの菅原俊、龍村学の両コーチの力を借りながら、チームを作り上げてきた。
9月の宿敵・日大との対戦では、得意の「マネジメントフットボール」で完勝した。だが、栄冠にはあと一歩届かなかった。
試合後の会見で、言葉に詰まる場面もあった富永HC 。
だが「今季の法大は、とても良いチームだったと思いますが」という質問には、「まったくその通りです。それは間違いない。本当に良いチームでした」と即答した。その声は、優しさに満ちていた。