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2019-05-10

【海外ボクシング】ウィークエンド・プレビュー ベルチェルトvsバルガス 三浦隆司の宿敵がリマッチ

5月の第2週末、三浦隆司の元ライバル同士が対戦する。本来、技巧派ながら、いざとなったら、とことんの打ち合いも厭わない。そんなメキシカンの熱血を感じたい。

上写真=ミゲール・ベルチェルト
Getty Images

5月11日/コンベンションセンター(アメリカ・アリゾナ州ツーソン)
勢いのあるベルチェルトが古豪バルガスを返り討ちか

★WBC世界スーパーフェザー級タイトルマッチ12回戦
ミゲール・ベルチェルト(メキシコ)対フランシスコ・バルガス(メキシコ)
※ESPNで全米放映

ベルチェルト:27歳/36戦35勝(31KO)1敗
バルガス:34歳/28歳25勝(18KO)1敗2分

 ベルチェルトの名前が国際的に知られるようになったのは2年前。それまで保持していたWBO暫定のタイトルを捨て、バルガスの持つWBCタイトルに挑んだ一戦からである。スリムな体から連射するストレートで、古豪をストップへと追いやった。ただ、この試合で9連続KOをマークするなど、要マークの存在になったが、どことない不安定感も囁かれた。初防衛戦で三浦隆司(帝拳)の強打を空転させたものの、専守防衛の戦い方にもうひとつ景気が上がらず、そのままメキシコで防衛戦を重ね、昨年秋にようやくアメリカのファイトに帰ってきたばかりだ。

フランシスコ・バルガス(右)

Getty Images

 一方のバルガスは三浦との大激戦にTKO勝ちして獲得したタイトルを手放してからは、アクティブに戦ってはいない。しっかりと2勝をマークしてはいるものの、最後の試合から今回までは1年半も空いている。3連続TKOで5度目の防衛戦に臨むベルチェルトと比べると、どうして昔の名前のイメージになってしまう。

 もっとも、この再戦が激戦になる予感は漂っている。これがメキシカンの血なのか、両者とも高い技巧のベースを持っているはずなのに、どうしても打撃戦に走ってしまう。ベルチェルトにしても、三浦戦を除けばみなそうなっている。ベテランパンチャーのミゲール・ローマン(メキシコ)と対したときも、打ち合いが得意、いや、そういう展開にならなければ持ち味を発揮できないローマンと真正面から向き合い、凄絶な殴り合いの末にTKOをもぎ取っている。バルガスもその点はまったく同じだ。

 その両者の戦いだから、ハードパンチの応酬になるに違いない。そして、バルガスがそういう展開に耐えられるかどうか。左右ストレートの連射で戦い抜くベルチェルトのストップ防衛の公算が高い。

◆こちらも再戦、カギはドグボエが自分のペースを守れるか

★WBO世界スーパーバンタム級タイトルマッチ12回戦
エマヌエル・ナバレッテ(メキシコ)対アイザック・ドグボエ(ガーナ)

ナバレッテ:24歳/27戦26勝(22KO)1敗
ドグボエ:24歳/21戦20勝(14KO)1敗

初戦はエマヌエル・ナバレッテ(右)がアイザック・ドグボエに判定勝ち
Getty Images

 両者の第1戦、昨年12月の戦いは、多くのファンからは意外な結末と捉えられた。五輪代表からプロ転向後はアメリカでまず経験を積み、そしてガーナでさらにキャリアを重ねたドグボエは、鮮烈KOでWBO暫定王座を手にすると、またアメリカに帰ってきた。その初戦で、次世代エース候補のひとりだった正規王者ジェシー・マグダレノ(アメリカ)をノックアウトした。身長157センチとなりは小さくても、豪快に過ぎるパンチは魅力的で、その後の躍進を前提にしたローテーションにも入っていた。

 そのドグボエが、アメリカではほとんど知られていなかったナバレッテのハイピッチな連打速攻に後れを取り、ペースを奪い返せないまま敗北してしまった。ドグボエが再び既定の路線に帰り着くためには、この再戦に勝つだけでは物足りない。本来の豪快なボクシングを存分に演出しなければならない。

 ナバレッテの戦いはとにかくビジー。あえてこんな表現を使うが、とてもうるさい。良く動く。反応が早い。どんな体勢からでも、しつこくパンチを出してくる。さらにスタミナも豊富ときている。
 地力ではまさるドグボエとしても、序盤に好打を重ねられるようなら、前回の二の舞、あるいはそれ以上の差をつけられて押し切られてしまうかもしれない。

5月11日/イーグルバンクアリーナ(アメリカ・バージニア州フェアファックス)
馬力自慢のハードが2冠をかけてIBFの指名防衛戦

★WBAスーパー・IBF世界スーパーウェルター級タイトルマッチ12回戦
ジャレット・ハード(アメリカ)対ジュリアン・ウィリアムス(アメリカ)
※FOXで全米放映

ハード:28歳/23戦23勝(16KO)
ウィリアムス:29歳/28戦26勝(16KO)1敗1分

ジャレット・ハード
Getty Images

 首都ワシントンに近く、メリーランド州出身のハードにとっては、地元での防衛戦に近い。ウィリアムスもフィラデルフィア出身だけに、イーストコーストに本拠を置くトップ選手同士の争いにもなる。

 185センチの巨体にまかせて前進し、まさしくハードなブローを連発する。ハードのファイトスタイルは決してスマートは言えないが、そういう形の戦いがこの男には合致するのだろう。アマチュアではローカルチャンプ止まり。無名のままプロの転向してから、そんな武骨なやり方で白星を積み上げてきた。

 キャリア3年目には早くも注目されるようになり、2017年、今はWBCチャンピオンとなっているトニー・モリソン(アメリカ)をTKOで押しつぶしてIBFタイトルを獲得。初防衛戦で手練れのサウスポー、オースティン・トラウト(アメリカ)を棄権に追いやる。昨年春にはキューバのマスターテクニシャン、エリスランディ・ララを最終回のダウンで逆転して、WBAスーパーのベルトも獲得した。

ジュリアン・ウィリアムス
Getty Images

 井上岳志(ワールドスポーツ)と対戦する話もあったウィリアムスも12歳でボクシングを始めているが、アマチュアでは全米ランク5位が最高。やはり無名のままのプロ入りだった。こちらも長く不敗を守ってきたが、ジャモール・チャーロ(アメリカ)のハードパンチに豪快になぎ倒された。その後は4連勝と体勢を立て直して再び頂上にアタックする。

 ウィリアムスも技巧派として安定感がある。上体が柔らかく、的確なポジション取りから打ち出すパンチは実に多彩だ。ただ、何が決め手と問われると答に言いよどむ。さらにチャーロに倒されたときのイメージがあまりに強い。

 ハードも前戦の出来が悪かっただけに万全とは言えない。だが、いつもの圧力が健在なら、終盤にウィリアムスを追い詰めてストップまで持って行くとみる。

◆充実したアンダーカードのランナップ

 テレビファイトの前座は充実している。ちょっとでも注目しておきたいカードが、少なくとも5組はある。期待の選手たちの重要なテスト、それとも不遇の元トップ級の再浮上をかけた戦いだ。

 マイナー団体のIBO世界スーパーバンタム級タイトルに挑むのはスティーブン・フルトン(アメリカ/24歳/15戦15勝7KO)。ここまで10回戦を経験したのは1度だけ。これといった強敵との対戦はない。170センチの長身から振る右のビッグパンチは果敢だが、主武器はその右で脅かしたあとの左のショートパンチ。日本では亀田和毅との対戦で知られる元WBOバンタム級チャンピオン、パウルス・アンブンダ(ナミビア/38歳/27勝11KO2敗)の持つ “世界王座” への挑戦になるが、むしろ今後につなげる大事なキャリア作りの戦いになる。

マリオ・バリオス
Getty Images

 マリオ・バリオス(アメリカ/23歳/23戦23勝15KO)は6年前にスーパーバンタム級でデビューし、今はウェルター級で戦っている。スーパーライト級で戦う今回は上位進出への足がかりを作りたい。ファン・ホセ・ベラスコ(アルゼンチン/32歳/20勝12KO1敗)は注目のレジス・プログレイス(アメリカ)の“WBCダイヤモンド・タイトル”挑戦でTKO負けして以来のリングだ。

マット・コロボフ
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 かつて絶対的なトップアマだったマット・コロボフ(アメリカ/36歳/28勝16KO2敗)は身体能力の高さが光るイスマエル・アリーム(アメリカ/25歳/18勝11KO1敗1分)とミドル級で対する。整然と組み立てられた攻防をハイピッチで展開するコロボフは、昨年暮れにジャモール・チャーロに敗れて以来のカムバック戦。年齢的にみてもあとがない。ジャマイカ人の父を持つアリームはアマチュア元世界王者イフゲン・ヒトロフ(ウクライナ)をストップして注目されたこともある。まだ、総合力ではコロボフが上とみるのが順当だ。

 日本で河野公平(ワタナベ)とも戦ったことがあるスーパーフライ級のルイス・コンセプシオン(パナマ/33歳/37勝26KO7敗)は、アレクサンドル・マリン(ルーマニア/27歳/17戦17勝11KO)と対戦。今はアメリカをベースにしているマリン相手に、強打で鳴らしたコンセプシオンが復活を狙う。

 このほかで注目したいのは、ライトヘビー級のアーメド・エルビアリ(エジプト/28歳/18勝15KO1敗)。191センチのがっちりした体躯を持ち、激しいプレスから強打を打ち込む。老練なジャン・パスカル(カナダ)のタイミングをずらした左フックにしてやられ、TKOに屈したが、その後は連続KOで復調している。メキシコの中堅ハイメ・ソロリオ(30歳/12勝9KO3敗2分)との8回戦になる。もうひとり、爆発力に富むミドル級、デモンド・ニコルソン(アメリカ/26歳/21勝20KO3敗1分)も期待したいひとりだ。

 なお、この日は主要カードが地上波FOXでライブ放送され、そのほかは系列局のFPX1で中継される。

まだまだあるぞ!注目カード

◆不敗のギルがDAZNのメインイベンターに

 10日、イギリス・ノッティンガムのDAZN(現地)ファイトでは不敗のフェザー級、ジョーダン・ギル(イギリス/24歳/23戦23勝7KO)が、保持するWBAインターのタイトル防衛戦を行う。このところ3連続KOと波に乗るギルの相手はこの3年間で2勝しかしていないエンリケ・ティノコ(メキシコ/29歳/17勝12KO5敗4分)だけに、ここは楽にクリアしたい。

テリ・ハーパー(左)
Getty Images

 このイベントにはそのほか2つの国際タイトルがフューチャーされる。そのなかでも女子のWBCインター・ライト級タイトル戦に出場するテリ・ハーパー(イギリス/22歳/6戦6勝3KO)は、将来の女子ボクシングのスター候補。速いステップから仕掛ける連打は多彩だ。ライバルのニナ・ブラッドリー(イギリス)との不敗対決にTKO勝ちして2ヵ月、メキシコのベテラン、クラウディア・ロペス(39歳/25勝6KO9敗)相手に4連続KOを狙う。

◆不敗のビリャが最初の関門に立ち向かう

 不敗の連勝も15戦を迎えるころ、アメリカのリングでは厳しいマッチメイクが始まる。若手の育成、売り出しに大きく貢献するShowtimeのテレビシリーズ『SHOBOS』で10日、アメリカ・カリフォルニア州コロナから中継されるカードでは、サウスポーのルーベン・ビリャ(アメリカ/22歳/15戦15勝5KO)が、メキシカンのルイス・アルベルト・ロペス(17勝8KO1敗)と対する。

 アマチュア時代、6年間不敗だったシャクール・スティーブンソン(アメリカ)に土をつけたのが最大の売りのビリャだが、とてもセンスがいい。カウンターを狙ってやや待ちのスタイルだけにKOの数は少ないが、きっかけをつかめたらもっと倒せるようになる。中堅強豪レイ・ジメネス(アメリカ)を食ったロペスは楽な相手ではないが、無難に突破しておきたいところだ。所属するのはカリフォリニアの家族的な中規模プロモーション、トンプソン・ボクシング。先輩のダニエル・ローマンがWBA・IBFのダブル・チャンピオンになったばかり。ビリャも意気上がるところだ。

◆香港の興行には新人王・佐々木連も出場

 経済的にも人材的にもボクシング興行を打つ上で魅力的なはずの香港だが、なかなか大きな市場に育ってこない。スーパーバンタム級のスター選手だったレックス・チョーも不敗のままリングを去り、代わる主役が育ってこなかったのも背景にはあるのかもしれない。その香港のコンベンション・アンド・エキシビション・センター(香港会議展覽中心)で12日に試合が行われる。村田諒太(帝拳)も戦ったこともあるこの会場では、チョーのラストファイト以来、約2年ぶりのボクシングマッチになる。

 メインイベントはライトフライ級で頭角を現しつつあるレイモンド・プーン・カイチン(香港/23歳/7勝4KO1敗=潘啓情)がつとめる。保持するWBCアジア・コンチネンタルと空位のWBOユースのタイトルをかけてリングに登る。相手は標高1000メートルの高地にある貴州省出身のリー・シャン(中国/20歳/6勝2KO2敗1分=李翔)だ。

佐々木連
BBM

 前座にはマカオのライトフライ級のホープ、ラプ・チョンチョン(22歳/5戦5勝4KO=蒋立昌)のほか、3人の日本選手が出場する。とりわけ、期待したいのは2017年の前日本フェザー級新人王、佐々木蓮(ワタナベ/24歳/8戦8勝5KO)。佐々木は6戦全勝(1KO)のゲ・アン・マ(中国)と8回戦を戦うことになっている。

文◎宮崎正博

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