ゴールデンウィークも終盤戦、海外のボクシングは春のピークを迎える。世界が注目するのはWBA・WBC・IBFと3つのベルトがかかったカネロ・アルバレス対ダニエル・ジェイコブスの対戦に違いない。メキシコ、メキシコ系アメリカ人の間では圧倒的な人気を誇るカネロは、昨年12月のニューヨーク・デビューでも殿堂MSGに2万を超える大観衆を集めた。集客能力はそのまま注目度と同義になる。東海岸地区きっての実力派ジェイコブスが相手なら好勝負は必至だ。
そして、日本のファンからすれば、船井龍一(ワタナベ)が出場するIBF世界スーパーフライ級戦も見逃せない。ジムの門をたたいてから17年、懸命の思いでここまで這い上がってきた船井の強打は、安定政権を誇るジェルウィン・アンカハス(フィリピン)に通用するのか。
前者がラスベガス、後者はカリフォルニアで、困ったことに同じ時間帯での開催となる。そしてDAZN、WOWOWがともにライブストリーミングする。さて、日本のファンはどっちを選ぶ? そろそろファイナルジャッジ――。
写真上=サウル・アルバレス
Getty Images
ジェイコブスの安定感がホンモノなら
勝負は中盤戦以降にもつれる
★WBAスーパー・WBC・IBF世界ミドル級タイトルマッチ12回戦
サウル・アルバレス(メキシコ)対ダニエル・ジェイコブス(アメリカ)
5日午前10時からDAZNでライブ配信
アルバレス:28歳/54戦51勝(35KO)1敗2分
ジェイコブス:32歳/37戦35勝(29KO)2敗
とにかく分厚いミドル級の選手層。その中でも、戦力的に今が最盛期となる両雄が激突する。強烈なプレッシャーから、どこまでもパワフルなショットで追い回すアルバレス。ジェイコブスにはそんな迫力はないが、丁寧に折り返すようなペースメイクで、難敵から勝利を重ねてきた。アルバレスは
巨人ロッキー・フィールディング(イギリス)をなぎ倒して3階級制覇すると、予想どおりにUターンし、ミドル級でこの決戦に臨む。表層の色彩感はメキシカンが圧倒的でも、ボクシングそのものの勢いはどっちにあるのか、微妙なところ。
ひとつのリトマス紙はゲンナディ・ゴロフキンにある。アルバレスは1判定勝ち1引き分け、ジェイコブスは判定負け。ゴロフキンとアルバレス、ジェイコブス両者の3つの戦いにはいずれも大きな差はなかった。アルバレスはアウトボクシングを試みてGGGのアタックに直面して勝ちきれず、そして打ち合いに出て僅差判定をもぎ取った。ジェイコブスはダウンを奪われながら、その後はきちんと距離を管理して、ほぼ互角のまま終了ベルを聞いている。
中間距離でのやりとりも上手なアルバレスだが、本来、ゴロフキン同様、打ち合いに持ち味がある。今回は激しく肉迫してくるはず。身長、リーチで勝るジェイコブスは今回も自分をしっかり守れる距離で戦いたい。
そのためには対戦者をはじき返すジャブ、右ストレートがキーポイントにもなる。ただ、同じプレッシャー型でも、ゴロフキンは大きく囲い込むように攻めて出てくるし、アルバレスは守りを固めてドリルのように壁をこじ開ける。ジェイコブスはより強いジャブ、さらにストレートを打てないと、アルバレスの前進を阻めない。
ジェイコブスは骨肉腫という大病を乗り越えてここまできた心の強さがある。一方のアルバレスにはDAZNから日本円400億円超の巨大マネーでボクシングの主役を任されたという責任感もある。精神面では互角。肉体面では、やはり、より打たれ強く、最初から最後まで厳しいプレスをかけ続
けることができるアルバレスに一日の長がある。
ジェイコブスが辛抱強く戦えば、中盤過ぎに勝負が持ち越されるかもしれないが、クロスレンジから左ボディを狙い打ちされるような早い決着もありえる。
オーストラリア期待のアッカウィが
暫定王座決定戦に出場
WBA暫定世界スーパーミドル級タイトルマッチ12回戦
ジョン・ライダー(イギリス)対ビラル・アッカウィ(オーストラリア)
ライダー:30歳/31戦27勝(15KO)4敗
アッカウィ:25歳/21戦20勝(16KO)1分
素質豊かな南洋の新鋭が、初の“世界タイトル”を目指してリングに立つ。アッカウィは元WBA王者ジョバンニ・デカロイス(イタリア)に勝って名を上げ、アメリカに進出してきてこれが4戦目。デカロイスを含め、世界レベルでほんとうに試される相手と戦ってきたわけではなく、ちょっとした冒険マッチにもなる。
ただ、ちょっと早い遠出をさせたくなる素材ではある。柔軟で躍動感もある。ロングレンジでビッグパンチを見せ、素早く飛び込んでの連打は歯切れがいい。
一方、サウスポーのライダーは絶好調だ。以前は肝心な試合を落としてAクラスに定着できずにいたが、飛び込みざまのショート、とりわけ右フックは強烈。パトリック・ニールセン(デンマーク)、ジェイミー・コックス(イギリス)ら世界戦経験者、さらに不敗のアンドリー・シロトキン(ポーランド)と一撃でKOした憩いそのままにこの試合を迎える。
アッカウェイの可能性に期待したいが、サウスポー対策も含めて、今回初めて試される点は多い。
◆KOスター、オルティスに最初のテスト
明日のスター候補の筆頭格、バージル・オルティス・ジュニア(アメリカ/21歳/12戦12勝12KO)が最初の大きなテストを迎える。マウリシオ・エレラ(アメリカ/38歳/24勝7KO8敗)とのスーパーライト級10回戦だ。エレラは暫定とはいえ元世界王者。距離をコントロールしながらの味のある試合運びには定評があった。すでにピークは越えているが、ここまでKO負けなしというタフネスの持ち主でもある。オルティスがこの関門をKOで乗り越えられれば、世界の上位との対戦を急いだとしても、誰も文句は言えなくなる。
いずれは伊藤雅雪のライバル候補にもなりそうなレイモント・ローチ・ジュニア(アメリカ/23歳/18勝7KO1分)も大事な一戦を迎える。17歳で全米ゴールデングローブ、誕生日をまたいで同じ年の全米選手権を制し、翌年、プロ転向。時間をかけてプロの技術を磨いてきた。決め手に心許ないのが難だが、それはこれからの課題か。トップレベルとの対戦経験豊富なジョナサン・オケンド(プエルトリコ/35歳/30勝19KO5敗)だが、次世代を担いたいなら軽く突破しなくてはならない。
元WBO世界スーパーウェルター級チャンピオン、サダム・アリ(アメリカ/30歳/27勝14KO2敗)は、アンソニー・ヤング(アメリカ/31歳/20勝7KO2敗)と対戦する。ヤングは9連勝と好調とはいえ、アリは格の違いを見せつけたい。
★IBF世界スーパーフライ級タイトルマッチ12回戦
ジェルウィン・アンカハス(フィリピン)対船井龍一(ワタナベ)
※5日午前11時ころよりWOWOWオンデマンドでライブ配信
アンカハス:27歳/33戦30勝(20KO)1敗2分
船井:33歳/38戦31勝(22KO)7敗
「打ち合いにチャンスがある}とは船井陣営のコメントだ。玉砕覚悟という意味ではないだろう。
正しい観察の結論である。今度で7度目の防衛戦となるアンカハスはテクニカルで決め手もあるサウスポー。自在に試合を管理させたら、なかなか崩せない。戦いの縦横姓と言う点では劣る船井は、まずはかき回しておきたい。船井の持ち味でもある角度のある右ストレートがヒットすれば、序盤から波乱のシーンもあるかもしれない。
ただ、ことがうまく運んだとしても、それ以降の戦い方には十分に注意したい。次第に圧力を増してくるアンカハスと中途半端な距離でやり合うことは避けるのが得策。技術の多彩さ、ペースの調度を管理する手法にかけてはアンカハスに分があるのだ。
船井は勝つための自分の立ち位置を、そのときどきでしっかりと把握しなければ勝機は得られない。
◆豪腕ベテルビエフ、14連続KOなるか
★IBF世界ライトヘビー級タイトルマッチ12回戦
アルトゥール・ベテルビエフ(ロシア)対ラディボエ・カラジック(ボスニアヘルツェゴビナ)
ベテルビエフ:34歳/13戦13勝(13KO)
カラジック:27歳/25戦24勝(17KO)1敗
まさしく鋼鉄の拳。「この男のパンチは、ほかの誰よりも格段に強い」。対戦者はもちろん、スパーリングで相まみえたボクサーの多くがそう証言する。そんな圧倒的な破壊力を持つベテルビエフの登場である。プロモーターとの契約のもつれから、長い試合枯れに苦しんだ。やっとアクティブに活
動できるかと思ったら、KOを焦ってダウンを食ってしまう(昨年10月にカラム・ジョンソ戦)。それもアピールしたいがための無茶振りの結果。結果は逆転KO勝ちでも、契約でもつれたことが、ボクサーのキャリアを蝕んでいく、ひとつのパターンかとも思えたもの。
そんなベテルビエフのIBF王座2度目防衛戦も試される戦いになる。カラジックは若いし、唯一の負けはマーカス・ブラウン(アメリカ)とのきわどすぎる判定によるもの。不敗の新星ブラウンとダウン応酬の末の1ー2判定は、バルカン出身のボクサーには不運なものだったと多くが伝える。
身長188センチのカラジックのリーチに、またしても慌てるようならベテルビエフも危ない。ただ、最終的には圧倒的な拳の存在感が勝負を決するように思う。
◆佐川遼がフィリピンで12回戦
フェザー級の若手、佐川遼(三迫/25歳/6勝4KO1敗)が4日、フィリピンのマニラ首都圏パラニャーケシティでリングに登る。この日は普段より一階級上げ、アル・トヨゴン(フィリピン/21歳/10勝6KO2敗1分)の持つWBCアジア・スーパーフェザー級のシルバー王座に挑む12回戦だ。
プロ2戦目で苦杯を喫しながら、世界挑戦を終えたばかりの松本亮(大橋)をTKOに破って脚光を浴びた。そんな佐川が国外で大事なキャリア作りの試合になる。トヨゴンは前戦で石井龍成(伴流)を破っており、これに勝って、いよいよ弾みをつけたい。
◆ドイツの新星バローが老雄と
ドイツ・ボクシング復活をかけて現場にカムバックしたドイツの伝説的なプロモーター、ウィルフリード・ザウアラントが4日、フランクフルトのフラポート・アレーナの興行で、手駒に新たな試練を与える。
プロ6戦目のアバス・バロー(ドイツ/24歳/5戦5勝2KO)にかつてのトップ選手をぶつけるのだ。アリ・フネカ(南アフリカ/41歳/40勝32KO10敗3分)だ。もちろんピークは過ぎているし、つい1年ほど前までは5連敗にあえいでいた。それでも、ジェフ・ホーン(オーストラリア)をダウンさせるなど、185センチの長身から繰り出すパンチはツボに決まったら怖い。
バローは2017年のヨーロッパ選手権優勝。世界選手権銅メダリスト。多くのトッププロ、関係者から絶賛される存在。前戦でタフな元IBFチャンピオン、カルロス・モリナ(メキシコ)を判定で破ったばかり。その勢いを新たな難敵相手にも持続できるか。
同じく10回戦にはこれもアマチュア出身のライトヘビー級、レオン・バン(ドイツ/28歳/13戦13勝7KO)が出場。そのほかにもライトフライ級の女子スター、サラ・ボーマン(ドイツ/29歳/10戦10勝7KO)、今年からドイツを本拠にしているスーパーライト級の世界ランカー、アンソニー・イート(スウェーデン/27歳/22勝7KO1敗1分)、さらに女子のフェザー級センセーション、**ソフィー・アリッシュ::(ドイツ/17歳/2戦2勝1KO)とザウアーラント期待の選手がイベントを埋めている。
文◎宮崎正博
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