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2017-12-31

富士通に連覇もたらした鉄壁のOL陣

12月18日、東京ドームで行われた、アメリカンフットボールの社会人王者を決める「ジャパンXボウル」は、富士通フロンティアーズがIBMビッグブルーを63-23という大差で破り2年連続3度目の優勝を飾った。富士通は年が明けた1月3日の日本選手権・ライスボウル(東京ドーム)で、大学王者の日大フェニックスと対戦する。

ジャパンXボウル【富士通vsIBM】IBMのDLブルックス相手に一歩も引かない富士通OL小林

ジャパンXボウル【富士通vsIBM】第2クオーター5分、WR中村クラークへTDパスを投げる富士通QBキャメロン。奥はOL小林

◇LT小林、最強ブルックス相手に、一歩も引かず

富士通のオフェンスが全開となった第1クオーター、筆者は写真を撮影していてあることに気が付いた。QBコービー・キャメロンを追うフレーミングで、IBMの誇る2枚看板、DLジェームズ・ブルックスとチャールズ・トゥアウの姿がまったくファインダーに入って来ないのだ。そこで富士通のオフェンスで、あえてボールキャリアーを追うのをやめ、LT(レフトタックル)の小林祐太郎にフォーカスした。

キャメロンのブラインドサイドを守る小林は、対面のブルックス相手に完璧なブロックを見せていた。195センチ123キロのブルックスは、4年連続オールXリーグ選出、リーグ最強のパスラッシャーと言って良い。彼と1対1で真っ向勝負して、負けず、抜かせない小林のブロッキングに鬼気迫るものを感じた。別のプレーでは、反対サイドの勝山晃も、195センチ140キロのトゥアウの圧力に一歩も譲ることなく押し返していた。

IBMディフェンスの根幹は、ブルックス、トゥアウという規格外のパワーを持つ2人が繰り出すパスラッシュだ。QBに圧力をかけ、投げ急がせ、リズムを崩す。あるいはサックしてロスさせる。ファンブルさせる。それがディフェンスの好循環を生む。しかしこの2人がここまで無力化されてしまうのは、IBMの山田晋三ヘッドコーチとしても想定外だったのではないか。

富士通に試合の流れを大きく傾けたパスを1本選ぶとすれば、第2クオーター5分。キャメロンからWR中村輝晃クラークに通った74ヤードのTDパスだろう。このプレー、IBMサイドラインの横で撮影していた私は、キャメロンを狙っていた。ショットガンでボールがスナップされて、キャメロンはポケットの中で軽くステップを踏みながらレシーバーを探した。その間ほぼノープレッシャーで、IBMのディフェンダーは一切ファインダーの中に現れなかった。時間にして5秒はあったのではないか。その時間がとても長く感じられた。

レシーバーを見つけたキャメロンが大きなモーションからパスを投げた瞬間、筆者はビッグプレーになることを確信した。

後にテレビ映像で確認すると、IBMのブルックスがインサイドからラッシュしていたが、富士通OL陣がダブルチームでブロックしていた。そして撮影した写真には、OLの切り札小林が、フリーの状態でブロッカーとして待機している姿もあった。仮にIBMディフェンスがもう一枚ラッシュを入れたとしても、富士通は小林がプロテクションして、キャメロンがこのプレーを決められたという証左だった。

筆者の位置からは、レシーバーは見えなかった。結果的にはMVPを決めたこのTDの中村クラークのプレーは撮れなかったが、それはそれで納得していた。数秒間の完璧なパスプロテクションに、富士通の力の源を見たからだ。

とは言え、富士通OL陣も万全の状態でゲームができていたわけではない。試合の途中では、レフトガード(LG)の望月俊が負傷で退場し戻れなかった。望月はOLとしては小柄だが、豊富な知識と高い技術を持ち日本代表やオールXリーグにも選ばれているユニットの要だ。しかしその望月の穴を、斎田哲也やルーキーの蔵野裕貴がしっかり埋めた。パスプロテクションでもランブロックでも望月の不在が大きなマイナスとならなかった。

キャメロンの被サックはゼロ。ヒットらしいヒットは、第2クオーターにブリッツしたLBコグラン・ケビンによるファンブルロストだけだった。

◇「彼らを誇りに思う」コーチ・ライトナー

富士通のOLには、米国人選手がいない。国際大会を除いて、日本でしかプレー経験のない彼らを鍛えるのはケビン・ライトナーOLコーチだ。この試合では、白の半袖Tシャツ、黒の短パンで、サイドラインを精力的に動き回っていた巨漢と言えば、見ていたファンも思い当たると思う。

ライトナーコーチは、米NCAAではオハイオ大学やバンダービルト大学でOLコーチを歴任した。特にバンダービルト大は、米カレッジフットボールで強豪大学が名を連ねるSEC(サウスイースタンカンファレンス)に所属する。NFLでドラフト指名される強力なパスラッシャーを相手にパスプロテクションを構築してきた。そのノウハウが役に立ったともいえる。

ライトナーコーチは「グレートなゲームプラン、そしてそれを完遂した。誇りに思う」と太い声で話した。そして「コバヤシ、カツヤマの2人は、他のチームのアメリカ人選手よりも優れている。Xリーグでベストのオフェンシブタックルだ。2人だけではない。コウヘイ(C山下公平)、サジマ(T佐嶋優輔)、クラノらヤングボーイもよくやっている。彼らはリーグでベストの男たちだ。本当に誇りに思う」と語った。'We're proud of those guys'を何度も連発した。


藤田智HCはライトナーを「まさにThe・オフェンスラインコーチという存在」と表現する。「親分肌で、それでいて細かい部分まできっちり詰めて指導する。実戦的で具体的で、頼りになる」という。

富士通の63得点は、東京スーパーボウル時代の1995年に松下電工の最多得点記録54(対リクルート戦)を22年ぶりに更新。得失点差40も、1991年オンワードの39(対サンスター戦)を26年ぶりに更新した。富士通の記録づくめの大勝となったこの試合のMVPは、これも大会の個人パスレシーブ獲得距離の最多記録を更新(203ヤード)した、WR中村クラークだった。QBキャメロンもパスで306ヤード4TD、ランで81ヤード2TDと文句のつけようのないパフォーマンスだ。

しかしパスとランのトータルで506ヤードを奪った富士通の猛攻を支えたのは、小林、勝山の両OTが率いる、国内最強のOL陣だ。そして彼らに本場の技を教え、導き、鍛えぬいたのがライトナーコーチだった。

試合後、OLユニットはコーチ・ライトナーを中心に笑顔で記念撮影に応じてくれた。この、ごつくて陽気な男たちこそが真のMVPだと強く感じた。

正月のライスボウル、日大の前に、文字通り大きく高く強い壁となって富士通のOL陣が立ちはだかることになりそうだ。【小座野容斉】

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◇富士通OL・小林祐太郎

・勝利の感想は

今日は仕事ができた。胸を張れると思う。

・ブルックス相手に一歩も引いていなかった。こんな日本人選手がいるのかと思った。

やはり負けられなかった。プライドがあるので。

・負傷によるブランクがあったが。

この試合のために調整してきた。ブルックスを止めることしか考えてなかった。ビデオでしっかり研究して、後はやるだけだった。

・ブルックスだけでなくトゥアウも、ほとんどキャメロンに触っていないのではないか。

そうですね。そこは、自分だけでなくOL陣がユニットとしてしっかり仕事をできたと、今日は言ってもいいのかなと思う。相手はもちろん力が凄く強かったが、こちらがきちんと予測と対応ができていたというのは大きかった。

・望月が負傷で下がったが

練習中からメンバーを変えてやっているので、OL間や他のオフェンスメンバーとのコミュニケーションは問題なかった。

・ライトナーはどんなコーチか?

なにか特別な技術を教わっているわけではない。とにかく基本に忠実。そこだけは本当にしっかりやっているので、ああやって米国人の凄い選手でも止められるのだと思う。

・日本人のコーチと違うところは

しつこさだと思う。本当に1歩目が出ていなかったら、ずっと言われ続ける。そういう厳しさが選手の間にも浸透してきて、選手同士でも指摘しあうようになっている。

・次はいよいよ母校・日大との対決

本当に楽しみ。滅多にないことだし、対戦できて幸せ。社会人のプライドがあるので、やるからには徹底的にやりたい。

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