日大が23‐17で関学大を下し、27年ぶりに大学日本一に輝いた。関学大有利という予想を覆したのは、1年生QB林大希を中心とする若い力と、日大らしいミスのないフットボール、そしてそのチームを作り上げた育成のシステムだった。関西アメリカンフットボール・コーチズアソシエーションの茨木克治会長に、勝敗を分けたポイントを聞いた。
解説/茨木克治(関西アメリカンフットボール・コーチズアソシエーション) 構成/編集部 写真/小川高志
勝敗を分けた大きな理由は、関学大のランが出なかったことです。出なかった理由は、日大のラインバッカー(LB)陣、1番のモーゼス・ワイズマン、9番の楠井涼、そしてセーフティー(S)の3番のブロンソン・ビーティーらが本当にいいタックルをしていました。
関学大は、ランがわずか172ヤード(日大は263ヤード)に抑えられたのは想定外でしょう。あそこまでランが出ないとは思っていなかったはずです。日大のLB陣やディフェンスバック(DB)が動けたのは、ディフェンスライン(DL)が頑張ったからです。日大のLBの存在感は大きかったです。
日大は、関学大のファーストダウンを2ヤード、3ヤードで止めていることが多かった。3-3(守備ラインが3人、LBが3人)で、LBが目立ったということは、やっぱりランディフェンスはしっかりしていたということです。
日大はオフェンスで3人、ディフェンスで3人、1年生がスターターで出ていました。特にクォーターバック(QB)の林大希が、前評判通りの活躍をしました。関東からはいいQBだという情報は流れてきましたが、「ほんまはどうねん?」「騒がれているけど、甲子園に来てしっかりプレーできるのか?」と思っていました。しかし、やっぱりすごかった。
パスは15回の試投で8回成功、126ヤードで1タッチダウン。ランは18回で113ヤード。このような大きな舞台でこれだけのパフォーマンスを見せられるということは、そういう星を持っているか、強い心臓の持ち主といえるでしょう。
特に1クォーターのタッチダウンパスは見事でした。ショベルフェイクからワイドレシーバー(WR)林裕嗣へのパスを1年生のコンビで決めました。これは、彼の持ち味を発揮したプレーでした。ショベルパスのフェイクが効いて、39ヤードのロングパスをきっちりヒットしました。
日大のラン攻撃はコンスタントに出続けていました。その原動力はオフェンスライン(OL)です。クイックネスとアサイメント(任務)の遂行能力が高い。今シーズン、関学大のLB陣が、あれだけ目立たなかった試合は初めて見ました。松本和樹も海崎悠も、ぜんぜんからめませんでした。
逆に、日大のLB陣は思い切りよく動けていました。中から思いきり行ったときにボールキャリアに届いていました。ひっかけるようなタックルでもホイッスルを鳴らせばいいのです。関学大のディフェンスエンド(DE)が縦に割って入るから、ディフェンスタックル(DT)とDEの間にいいホールが開いて、そこにLBが入る。それをブロックする日大のオフェンスガード(OG)が見事でした。
関学大のアサイメント上はLBが入ってタックルするのですが、LBがOGにピックアップされる。タックルのスタッツを見ると、ディフェンスバック(DB)の小椋拓海が8、畑中皓貴が6。DBが止めることになるので、3ヤードまでで止まるところが7ヤード、8ヤードになる。そのため日大はセカンドダウンショートが多かった。オフェンスにとっては楽になります。
日大にはQB林のランがあるから、アウトサイドに来る小椋か、逆サイドのLBのどちらかは林のランを警戒せざるをえません。LBがオフェンスラインにピックアップされたら、10ヤードくらいはゲインします。
一方、日大のLBは、けれんみなくバンバン入っているから、LBの線くらいまでで関学大のランは止められる。チームが逆に見えるくらい日大のディフェンスが見事でした。リーグ中は関学大は、最終戦の立命館大戦以外は、今日の日大のようなディフェンスをしていました。松本も海崎も日大のLB陣のような動きをしていましたが、甲子園ボウルでは2人とも全くといっていいほど目立ちませんでした。
関学大は、ランに固執して2度目の立命館大戦(西日本代表決定戦)では答えを出したのですが、今日はランに固執しすぎて、答えを出せずじまいに終わりました。パスプロテクションはもっていたので、もう少しパスを投げてもいいのではないかと感じました。ディープとアンダーの間に入るパスが決まっているにも関わらず、あまりコールされなかったように思います。
ハンドオフフェイクしたRBに投げるなど、パス攻撃は日大のほうが上手でした。ラッシュは関学大のほうがきつかったのですが、DEのラッシュがきつい分、内側はレーンが空いていました。しんどいときは林君が走ってファーストダウンというシーンが何回かありました。日大のオフェンスコーディネーターが見事でした。
日大はキッキングゲームでも有利に立っていました。最初のトライフォーポイントはブロックされましたが、パントは、相手ゴール前1ヤードに止めるなど、フィールドポジションで関学大にプレッシャーをかけていました。関学大はキックオフで2回アウトオブバウンズになるなど、ここでも細かいミスが出ていました。
反則による罰退は、関学大が30ヤードで、日大が25ヤードで統計上は差がありませんが、関学大のほうが大事なところでの反則が多くありました。交代違反やディレイオブゲームなど、フットボールの理解度が高い関学大らしくない反則で、自らリズムを崩してしまっていました。
ポゼッション(ボール所有時間)は関学大が25分52秒、日大が34分08秒。第1Qの99ヤードドライブなど、オフェンスコーディネーターのプランが素晴らしかったといえます。
試合を面白くした日本大学は立派です。ミスらしいミスがないいい試合で、見ていて気持ちいいゲームでした。日大は、負けても悔いが残らないくらいきっちり仕上げていました。最後の関学大の攻撃でたとえ逆転されたとしても、自分たちのできることはすべてやったと思えるゲームだったでしょう。
これから注目したいのは、日大QB林がどれだけ成長するかです。チャック・ミルズ杯(年間最優秀選手)を1年生がとったのは初めてです。あの強肩は魅力で、従来のポストコーナーとか、日大の伝統的なを決められるQBです。短いパスをフェイクしたRBにきっちりヒットしているのもあるのですが、逆球になったりすることもありました。あのあたりの精度が高まると近年ではまれにみる逸材だと思います。
彼のようなQBがいるとレシーバーも育ちます。日大の伝統のフリールート、走り続けていたらいいところに放ってもらえるというのが出来上がったら、パスは絶対の日大ができあがるはずです。
日大のオフェンスラインは大きくありませんが、プルイン、プルアウトが速くて忠実です。田中芳行コーチが教えていると思うのですが、選手を育成するというシステムができあがっているのでしょう。正直言うと、戦前の予想では、関学のフロントが日大のオフェンスラインをズタズタにするだろうと思っていました。しかし、関学大はディフェンスラインを含めて、LBまでコントロールされていました。関学のフロントとLBはこれだけ思い通りにできなかったのは初めての経験だったと違います。
QBの林もこの半年で大きく成長しています。長谷川昌泳コーチがしっかり育てたのでしょう。ディフェンスは武田真一コーチが教えています。コーチングが選手の成長を促しています。フットボールのチームにとって、育成ができるということは一番強みです。日大が再び黄金時代を築くのではないかと予感させるゲームでした。(談)
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