Xリーグ・レギュラーシーズン「強豪対決X(じゅう)番勝負」の「その6」は、10月9日、アミノバイタルフィールドのノジマ相模原ライズ対LIXILディアーズの一戦を振り返る。LIXILのQB加藤翔平、ノジマ相模原のDC加藤慶という「二人の加藤」対決が、クライマックスでのハプニングをもたらした。
舞台劇の終盤クライマックスシーンで、主演俳優が急に姿を消すことになった。そうとでも表現するしかない、唐突なハプニングだった。セカンドダウンのプレー中にLIXILのQB加藤翔平のヘルメットが脱げたのだ。ルール上、加藤は次のダウンは参加できないことになった。
状況を説明したい。35-38と、3点差を追って第4クオーター残り4分13秒から始まった、LIXILディアーズのオフェンスシリーズだった。LIXILQB加藤はフォースダウン4ヤードのギャンブルで、アクロスルートを走ったWR杉田有毅にパスを決めて28ヤードのゲインを奪った。次のプレーではノーハドルで、ポストに走り込んだWR石毛聡士に25ヤードのパスを成功させた。敵陣24ヤードでファーストダウン、残り時間は2分46秒。LIXILのタイムアウトは3回残っていた。同点フィールドゴール(FG)の圏内というだけでなく、LIXILの逆転TDが十分に可能なボールポジションだった。
ファーストダウンはRB白神有貴のランでノーゲイン。残り2分30秒から始まった次のプレーで、加藤はドロップバックした地点でノジマ相模原のLB増山純季とDL池田貴士に挟み込まれるようにサックされ、ヘルメットが脱げたのだった。
控えの高橋遼平がQBに入ったが、ボールの位置は32ヤードまで下がり、サードダウン18ヤード。日大時代にエースとして修羅場をくぐって来た高橋とはいえ、この場面は荷が重すぎた。ノジマ相模原のDL伊倉良太にプレッシャーをかけられてサイドラインにパスを投げ出した。3点のビハインドでフォースダウン18ヤードでは、FGを狙うほかはない。しかし49ヤードのトライはボールがバーに届かず、LIXILはキャッチアップに失敗した。
筆者は、QBサックの場面、ちょうと増山がインサイドからブリッツするのとほぼ同じ角度から撮影していたため、増山が誰にもブロックされず入っていくのが見えていた。あとで映像で確認すると、エッジラッシャーの位置に、DLのマリオ・オジョムリアが位置しその外後方にいた増山がスタンツで少し遅れ気味に中からブリッツしたのだった。
試合後、ノジマ相模原の加藤慶・ディフェンスコーディネーター(DC)に、この場面の話を聞いた。「オジョのところに、ブロックが集まるのは見えていたので、(ブリッツをするなら)その内側からか外側からかなと考えていた。内側が美味しいということがだんだんにわかってきていた」という。ゲームを左右する大事な場面でそれが決まり「本当によかった」と顔をほころばせた。
加藤DCによれば「QBにプレッシャーをかけることはできていたし、それは分かっていた」という。実際、最後の場面を含め、ノジマ相模原は加藤に4回のQBサックを事実上決めていた。ただLIXILのレシーバー陣に対するセカンダリーのカバレッジがなかなかうまく行かずに、なにがフィットするのか探りながらの試合となっていた。
キーとなったのは、やはりDLオジョムリアだ。193センチ、115キロで本場仕込みのパワーとスピードを誇るプレーヤーだが、エッジラッシャーとしてDEにセットしているよりは、浅いILBなど、様々なポジショニングを取っていることが多い。加藤DCは「オジョは、基本的には3ポイントスタートではなく、(立った状態でスタートする)2ポイントの方がやりやすいようだ。パスカバーもうまいので、いろいろなポジションをさせている」という。
この試合のスタッツを見ると、ノジマ相模原の反則回数が12回と多いのが目につく。しかし、それはQB加藤とLIXILオフェンスが、ノジマ相模原ディフェンスを罠にはめていた面もある。サイレントカウントで、スタートのタイミングを微妙に変化させ、オフサイドを誘ったのだ。ノジマ相模原ディフェンスは前半5回もオフサイドを取られていた。
オフサイドはオフェンスが5ヤード以上ゲインできれば、反則をデクラインして、そちらを選ぶこともできる。インターセプトなどターンオーバーが起きれば、それは無効になる。いわゆるフリープレーだ。パサーの加藤にとってはこんな良い条件はない。
さらにオフサイドを気にして、スタートが遅くなれば激しいヒットを受ける可能性も少なくなる。反応が早くハードヒットで知られるノジマ相模原への対策としては十分に有効だった。加藤DCも「序盤の反則の積み重ねで、リズムを崩していた。皆がフラストレーションをためていた」という。ただ、審判からディフェンスプレーヤーの頭が少し入ったりしていたという指摘を聞いて、ハーフタイムでアジャストした。後半、ノジマ相模原ディフェンスのオフサイドはゼロとなった。
QBとDCの2人の加藤が見せた高度なインサイドワークの応酬が、結末の意外な展開に結びついたゲームだった。一点だけ気にかかるのは、加藤の退場した場面だ。LIXILのタイムアウトは3回残っていた。日本アメリカンフットボール協会の「2017-18年版公式規則」によれば
「ダウン中にプレーヤーのヘルメットが脱げたとき、相手側の反則の結果による場合を除き、当該プレーヤーは、1ダウンは試合から離れなければならなくなった。ただし、当該チームのチームタイムアウトが認められれば,そのプレーヤーは試合から離れなくてもよい。」と書いてある。
あの場面に、この解釈が適用されるのか、筆者は、この試合の後、さまざまな関係者に話を聞いたが、結論は出ていない。確信をもって答えられる方がいるなら、ご教示を乞いたい。
フットボールに限らずスポーツで「タラレバ」は禁物という。しかし、今回と同様な場面がいつでも生じる可能性がある。それがゲームを左右することになるかもしれない。【小座野容斉】
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