6月4日、富士通スタジアム川崎であったXリーグの春季東日本社会人選手権「パールボウルトーナメント」準決勝で、IBMビッグブルーが、ノジマ相模原ライズを破って決勝に進出した。IBMはノジマ相模原にオフェンスのすべてのスタッツで上回られながら逃げ切った。
昨シーズンのライスボウル王者、富士通を撃破し準決勝に進出してきたノジマ相模原。来日2年目のQBガードナー率いるオフェンス対XリーグベストDEのジェームズ・ブルックスを中心とするIBMディフェンスの戦いに注目が集まった。全米を沸かせたスターQBを焦点に繰り広げられた手に汗握る勝負は、5ヤード、2ヤード、1ヤードという、3度に渡るゴール前ディフェンスを無失点で耐え抜いたIBMディフェンスに凱歌が上がった。
ノジマ相模原の最初のドライブからガードナーのパスが炸裂した。IBMのケビン・クラフトや、富士通のコービー・キャメロンよりも球速が速いであろう弾丸のようなパスが、リードボールとなってノジマ相模原のWR佐藤励、八木雄平にヒットする。あっという間にレッドゾーンまで攻め込んだノジマ相模原オフェンスだったが、ここでIBMディフェンスが最初の見せ場を作った。ファーストダウンではブルックスがガードナーをタックル。セカンドダウンでは右に走ったガードナーをIBMディフェンスが3人がかりで食い止めた。
サードダウンで残り1ヤード、ゴールまで5ヤード。ノジマ相模原はレシーバーの位置に入ったRB東松瑛介へのジェットモーションスイープをコールしたが、察知したIBMのDL森田修平が入り込んでタックルを決め、5ヤードのロスを奪う。ノジマ相模原はこの後、27ヤードのフィールドゴール(FG)を決められず、無得点に終わる。
ノジマ相模原の2度目のドライブ。IBMはブルックスを、ガードナーから見て右側のDEにセットさせた。強力なエッジラッシャーは、QBの利き腕の反対側(ブラインドサイド)にセットされることが多い。見えない背後からのヒットがQBに恐怖心を起こさせるからだ。
しかし、山田晋三ヘッドコーチ(HC)は、あえてブルックスがラッシュする姿がガードナーの視界に入るような布陣を敷いた。焦りを誘う「ブルックス見える化」の狙いは当たった。反則罰退も加わってサードダウンロングの場面、ブルックスの強烈なプレッシャーがガードナーを襲った。危うくボールを叩かれそうなタイミングで投げたパスの先には、IBMのLBコグラン・ケビンが待っていた。インターセプトしたコグランはゴール前1ヤードまでリターン。IBMはこのチャンスを逃さず、先制TDを決めた。
ガードナーも負けてはいなかった。第2クオーター、再びノジマ相模原がレッドソーンまで攻め込んでサードダウン10ヤードとなった。レシーバーが見つからないガードナーは瞬時にスクランブルを判断した。アウトサイドからパスラッシュはかかっていたが、逆にガードナーには走るレーンが見えていた。
インサイドから斜めに走ったガードナーは、タックルに来たIBMのDB保宗大介をスティフアーム一発で突き放し、エンドゾーン右隅にTDを決めた。ラッシュが見えているからこそのプレー、そして日本人DB一人ではタックルできない異次元のランだった。
IBMが21-12でノジマ相模原をリードした第2クオーターの最終盤、ガードナーが再び見せ場を作った。IBM陣に攻め込んだもののゴールまで37ヤード、残り16秒でフォースダウン10ヤード。FGには厳しい距離だ。しかし、インターセプトやファンブルロストなどターンオーバーされても、リターンさえ許さなければ、IBMはほぼ間違いなくニーダウンする状況だ。
ギャンブルに出たノジマ相模原、ガードナーはポケットの中央からダウンフィールドに走り出た。巧みなカットでIBMのLBコグランのタックルをかわすと、一気にエンドゾーン右隅を目指した。タッチダウンか。しかしIBMは、前方からDB宮川周平、後方からDL森田、側方から米ベイカー大学出身のDB神津大地と、3人がかりでガードナーをサイドラインの外に押し出した。ガードナーはボールを持った左手を懸命にエンドゾーンまで伸ばしたが、一瞬早く右手をサイドラインの外に付いていた。タッチダウンと紙一重のプレーだった。
ゴールまで2ヤードだが残り3秒では1プレーしかできない。9点のビハインドを考えればFGを蹴って、ワンポゼッション差にするのが常道だ。しかし、ノジマ相模原はプレーを選択する。ガードナーはキーププレーで右に走るが、予想していたIBMのディフェンスがしっかり残り1ヤードで止めた。「紙一重」で阻止された直前のプレーがこの選択に影響したように感じた。仮にガードナーがゴールまで5ヤードを残してサイドラインを割っていたら、ノジマ相模原はFGを狙ったのではないか。
最後の攻防は第4クオーターだ。19-27でリードされたノジマ相模原だが、第4クオーター9分にIBMのFGトライをチップして失敗させ、反撃に出る。ジャンプしてパスを叩きに来たブルックスをかわしたガードナーが左コーナールートを走るWR出島崇秀にロングパスをヒットした。出島は左サイドライン際を快足で駆け上がる。もう少しでTDという地点でIBMのDB佐野剛がタックルして食い止めた。56ヤードのビッグゲインで、ゴールまで7ヤードのオフェンスとなった。
ファーストダウンで、右に走ったガードナーは、群がるIBMディフェンス陣にタックルされながらボールを持った右腕を伸ばしてゴールライン上にグラウンディングした。TDのように見えたが、判定は1ヤード前でのダウン。セカンドダウンはガードナー、サードダウンはRB宮幸崇のランが止められた。フォースダウン、ガードナーの投げたボールはオーバースローとなり、パス失敗に終わった。IBMが勝利に大きく近づいた瞬間だった。
▽ ▽ ▽
ノジマ相模原のオフェンスははラン143ヤード、パス279ヤード、トータル422ヤード、ファーストダウン23、タイムオブポゼッションは26分52秒。IBMのオフェンスはラン115ヤード、パス187ヤード、トータル302ヤード、ファーストダウン13、タイムオブポゼッションは21分8秒。IBMはオフェンスのすべてのスタッツで上回られながら勝った。
試合後、山田HCは「勝ち切ることができた。相手がミスをしたから勝てたのではなく、我々が良いプレーをした」と選手たちを称賛した。「ガードナーは本当に凄い選手。『名門ミシガン大でエースを張って、(NFL)ペイトリオッツのミニキャンプにも行ったくらいの選手だから、必ずやられる。そういう時にパニックになるな』と選手たちには言い聞かせてきた」という。前後半の追い上げられたシーンで浮き足立ったり、動揺したりするところがなかったのはチームの成長の証だろう。
IBMがパールボウル決勝で対戦するのは、オービックシーガルズだ。IBMは2年連続2回目、オービックは3年ぶり10回目(リクルート時代を含む)の決勝だが、秋シーズン開幕戦でも同じ対戦が決定している。つまり両チームは2試合連続で戦うことになったのだ。年々成長するIBMにとっては、悲願の日本一のためにも、過去勝ったことがないオービック越えを果たしたい。
【写真/文:小座野容斉】
■山田晋三ヘッドコーチ
「前半のどちらかのゴール前ディフェンスでFGを決められていたら、勝負は分からなかった。ガードナーは手足が長く、腰の位置が遠い。日本人とはタックルの間合いが違う。だからディフェンスの選手には、飛び込まずに、とにかく接近し続けるようにと言ってきた。ジェームスが目立っていたが、他の選手も外を守ったり内を守ったりして、よく寄り続けることができた」。
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