社会人アメリカンフットボール・Xリーグは10月から第4節に突入した。第4節からは他地区の同レベルとの対戦が3試合続き、東西間の遠征も生じる。今季から導入されたリーグ戦の新方式の目玉と言ってよい。10月1日、エキスポフラッシュフィールド(大阪・吹田市)で、パナソニックインパルスと富士通フロンティアーズが激突した。昨年の日本社会人選手権・ジャパンXボウルの再戦だ。今季もここまで3戦全勝の両雄の対戦は、サイドラインと選手が、知能と体力の限りを尽くした、ハードなせめぎ合いとなった。
パナソニックは第1クオーター最初のドライブ、WR頓花達也がモーションスイープから45ヤードのビッグゲインを見せ、いきなりゴール前2ヤードまで攻め込んだ。しかしこの場面、富士通DB陣の堅守でタッチダウン(TD)を奪えず、パナソニックはフィールドゴール(FG)に終わる。次のキックオフリターン、富士通は中村輝晃クラークが98ヤードのリターンTDで逆転する(ポイントアフタータッチダウンは失敗)
しかし富士通の前半の見せ場はこれだけだった。富士通オフェンスは、パナソニックDLの強いプレッシャーと、多彩なブリッツで、QBコービー・キャメロンが投げ急がされ、前半は3回のドライブでわずか53ヤードに終わった。一方のパナソニックは、QB高田鉄男のパス、RBベンジャミン・デュプリーのランが好調で、第2クオーターにはTDを奪って再び逆転する。パナソニックは前半4回のオフェンスで186ヤードと、富士通の3倍以上を獲得、タイムオブポゼッションでも4分以上、上回った。しかし得点は10-6と4点のリードにとどまった。
試合を通じて強さを見せ付けたパナソニックディフェンスだが、おそらくサイドラインにとっても選手にとっても会心のプレーが、第3クオーター5分32秒に、富士通のQBキャメロンから奪ったインターセプトだろう。
パナソニックが、FGで3点を追加し13-6とした後、富士通のオフェンスのセカンドダウン、パナソニックはDL3枚に加え、3人のLBをフロントに上げてブリッツを入れる構えを見せる。キャメロンは自動的にブリッツが入って来たアンダーニースにパスを投げ込んだ。しかしブリッツはディスガイズで、真正面から入ると見せかけながら後ろに下がって守っていたLB高山直也の胸にボールは収まった。インターセプトだ。
高山は、一度ラッシュして、OLに当たってからカバーに下がるという、細やかな動きを見せたため、キャメロンにはディスガイズに見えなかったのではないだろうか。3人のDLだけでも強いプレッシャーなのに、さらに3枚のブリッツを入れ、しかもそう見せかけておいて、アンダーニースを守る。Xリーグ最高のパスの名手を手玉に取った、パナソニックディフェンスのファインプレーだった。
インターセプトした地点は富士通陣32ヤードだ。ここでTDを奪えば14点差、パナソニックが圧倒的に有利となる。FGでも2ポゼッションゲームとなる。
しかし、パナソニックは3回の攻撃でボールを進ませられなかっただけでなく、逆に1ヤード退いた上に、K佐伯栄太の52ヤードFGは距離があり過ぎ失敗してしまう。パナソニックにとっては、勝負の流れをつかみ損ねた分岐点だった。
相手ディフェンスの注文にはまってミスをしたキャメロンだが、チームはダメージを受けないまま、再び攻撃のチャンスが回ってきた。富士通はWR岩松慶将へのパスやRBジーノ・ゴードンのランで、敵陣まで攻め込んだ。ここまでパス獲得ヤードはわずか57ヤードにとどまっていたキャメロンだが、プレスナップリードの冴えは失われていなかった。
右の外にいた中村クラークのマンツーマンカバーが、辻篤志でも今西亮平でもエモリー・ポーリーでもないことを察知していた。サードダウンショートにも関わらず、キャメロンは躊躇なく中村クラークへロングパスを投じた。中村クラークについていたルーキーDB秋山雅洋は、今年6月には大学世界選手権の日本代表にも選ばれた逸材だがこの場面は荷が重かった。エンドゾーン内でパスインターフェアとなり、15ヤードを進んでパナソニックゴール前まで攻め込んだ。
この試合で富士通オフェンスが迎えた最初のTDチャンスだ。7点差で焦る展開ではなかったが、こうなればFGではなくTDが欲しい。
パスがなかなか決まらない中で、キャメロンは、RBジーノ・ゴードンにハンドオフフェイクしながら、自分がボールを持って走るプレーを繰り返していた。パサーのキャメロンが走っても、さほど脅威ではない。そこまではパナソニックディフェンスの計算内だったが、キャメロンには別の狙いがあった。
ファーストダウンでゴードンのラン。セカンドダウンではキャメロン自らがボールを持って左に走った。左側にはWR秋山武史がいたが、インサイドに切れ込む動きを見せた。エンドソーンの真ん中はディフェンダーがたくさんいる。秋山のマンツーマンカバーだったDBポーリーは、秋山を捨ててキャメロンのランサポートに走った。その瞬間キャメロンがクイックでショートパスを投げた。秋山は、切れ込んだと見せて外へ戻って来たのだ。騙されたと気づいたポーリーが必死の形相で後ろに下がったが遅かった。
エンドゾーン左奥の隅、英語でいうところの「コフィンコーナー(棺桶の隅)」に走り込んだ秋山に絶妙のTDパスが決まった。ポーリーの反応の良さを、見事に逆手に取った。とは言え、ポーリ―を責めることはできない。ポーリーが秋山のカバーに回っていればキャメロンが自ら突っ込んでいただろう。ここまで続けてきた自らのランは、このプレーのため「エサまき」だったのだ。
強力なディフェンスのプレッシャーに苦しみながら、転んでもただでは起きないキャメロンのしたたかさを見せつけたドライブとなった。
13-13で迎えた、第4クオーター。試合を決めたのは富士通LBトラショーン・ニクソンの二つのハードヒットだった。
パナソニックはQB高田からWR頓花へのポストパターンパスで35ヤードをゲイン、一気に敵陣に攻め込む。その後、反則で下がってセカンドダウン15ヤード。QB高田からRBデュプリーへショートパスが通った瞬間、ミドルにセットしていたニクソンが入り込んでヒットした。その瞬間「カツーン」という音が30ヤード以上前方にいた私の耳にも聞こえたほどの当たりだった。3ヤードのロスとなっただけでなく、エースRBデュプリーは、サイドラインに下がらざるを得なかった。
次のプレー。ニクソンはOLBの位置から回り込んでQB高田に襲い掛かった。長いパスを狙っていた高田はかわす暇もなくボールをファンブル、拾い上げたニクソンがリターンしてTDを決めた。まさに値千金のビッグプレーとなった。
プレーとしては、ファンブルさせ、リターンTDに結び付けたQBサックなのだろうが、私にはデュプリーを倒したハードヒットが、流れというよりは、フィールド内の空気を入れ換えたように感じた。「タラレバ」だが、サードダウン18ヤードを考えると、ここは無理に攻めなくてもよかった場面で、あるいはタイムアウトを取るという方法もあったかもしれない。このドライブの冒頭で決まった高田から頓花へのパスが鮮やかだったがゆえに、この場面の判断に影響したのかもしれない。
そして複雑な感情もよぎった。昨年7月の世界選手権決勝の日本対米国戦で、よく似たプレーを目の当たりにしたからだった。あの時のQBも高田だった。勝負所では無類の強さを見せる日本人No.1QBの高田をオーバーパワーしてへし折ってしまう米国人プレーヤーに、「これは、アメリカのスポーツだ」と再び見せつけられた思いだった。
【写真・文/小座野容斉】
「いやー。しんどいです。どんな試合になるかもわからなかったし、あれこれ考えずに、今できることに集中しよう。選手にはそう言ってきました」
「パナソニックはもの凄く強いチームなので、我々が思ったようには試合をさせてもらえないとは思っていた。ただ試合中、やられても選手の気持ちが切れていなかった。いい集中力を持ってやってくれた。それに尽きる」
「ディフェンスが、頑張った。試合を通じていいプレーをしていたし、最後は得点まで取ってくれた」
「今年はこういうしんどい試合ばかりなので、選手たちには、気持ちを切らさずにやるというのが身についてきたのかな」
「オフェンスは、去年(のジャパンXボウル)は大きなプレーが多くて、それが決まらなくて苦戦した。今日は、確実に取れるプレーを決めていこうという考えだった」
「(パナソニックのQB高田は)去年で辞めといてくれたらよかったのに(笑い)。やはり、日本の宝の一人。対戦するのは嫌だが、彼のプレーを見るのはコーチとしては楽しみ。『日本人でも、こんなにいいQBがおるんや』と思う」
「今日は、オフェンスが常に、ファーストダウンファーストダウンと狙いすぎた。オフェンスとはそういうものだろうけれど。ただ、FGでいい場面、パントでもいい場面がある。攻めるべきところ、無理しなくていいところを、私がもっとコントロールしなければならなかった。今日の反省ですし、私の責任です」
「前半から、取るべきところで点が取れなかった。それも敗因の一つ。前半最初のドライブでゴール前2ヤードまで行きながら(FGの)3点で終わった。後半もインターセプトして敵陣でオフェンスを始めたのに無得点だった」
「(キャメロンから奪ったインターセプトは)まあディフェンスはいろいろ用意していますから。けれどもあそこを起点に試合をコントロールできたのにできなかった」
「去年以上に厳しい練習に取り組んできたので、去年のチームから比べても、全体の力はすごくアップしている。攻守のライン戦でも負けていなかったし、選手の実力では、今日は劣っていなかった。しかし、強いチームというよりは、勝つべくして勝つチームを作らなければいけない。そういう意味では今日の戦いは、私が凄く悪かった」
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