アメリカンフットボールではマルチプレーヤーとして、関西大倉高校、早稲田大学ビッグベアーズ、オービックシーガルズで活躍した、田谷野亮さん。今は俳優として、舞台に情熱を燃やす田谷野さんは、10月15日から始まる「怪盗☆ドラゴンカンパニーVol.1『イサヤ島の王女と神の右腕』」(CBGK シブゲキ!!)に全力で取り組んでいる。
ヒロインの内木志さん(元NMB48)に同席してもらったインタビューの後編では、早大やオービックでの経験が、今のたやのりょう一座を作り上げていることが浮かびあがった。【聞き手・小座野容斉】
【このインタビューの前編】コロナに壊された「ゲームプラン」 切り替えて壮大な活劇に挑む=元アメフト選手、役者・田谷野亮
内木さん「今までは稽古で泣いていましたが、今回は泣いていません」
◇(内木さんに説明)高校野球と同じで、大学アメリカンフットボールの選手にとっても、「甲子園」というのはあこがれの場所であり、特別な舞台なのです。「甲子園ボウル」という学生チャンピオンを決める試合があって、その場に立てるのは2チームだけ。高校野球は、春の選抜大会が32チーム、夏の全国選手権が49チーム出られますが。田谷野さんは早稲田大学の時、あと一歩でいつも甲子園を逃していました。
◆内木:そうなんですね。
◆田谷野:本当に甲子園、行きたかったです。
◇あと少しだった。
◆田谷野:毎年、あと一歩のところまで行って終わりました。いつも関東2位でした。僕は大怪我をして、最終学年は試合に出ていない。そういう経験も、今生きています。一番いい時に、出られなかったということが。 僕がいたころの早稲田はオフェンスリーダーに凄く権限があった。自分がやりたいオフェンスをコーチにプレゼンテーションして、コーチのOKが出れば試合でそれをやることができる。学生にとっては、すごく面白い。今いるこのメンバー、当時の早稲田のQBは芳賀(太郎)でしたが、太郎を使ってどういうオフェンスをするか、常に自分で考えて組み立てる。そういう体験をできたことが凄く大きい。 今いるメンバーで何ができるんだ。自分がワクワクするものを体現するには、メンバーをどう使えばいいのか。どう組み立てれば上手く行くのか。今回の劇場は、シブゲキという、渋谷の真ん中です。あの派手な街に来てくれる人たちの気持ちをどう考えるのか。そこをすり合わせていく作業は、早稲田時代に、コーチにプレゼンしてすり合わせて作り上げて経験と似ています。 ◇面白い、ワクワク。それ以外の部分ではどんなところがありますか。いつも田谷野さんのお芝居を見てくれるファンに対してのアピールは
◆田谷野:「飛龍伝」の上演がなくなった時に、前売りチケットを買ってくれた、そういうファンの方たちに払い戻しの案内をしました。すると「要らない」「払い戻さなくていい」と言う方がたくさんいました。「また一座の芝居を見に行きたいから、このお金、払い戻しは要らないから、次に使ってください」と言ってくださる方が凄く多くて。そういう方たちに僕らが「思い切り元気に帰ってきましたよ」というのをお見せしたい。 僕たちの一座を見に来てくださるお客さんは、ちょっと特殊です。変わっていると言い方をしたら失礼なのですが。僕は一座の人間に言います。「一人でもサボったら、プレーは出ない。全員が自分の仕事をちゃんとやろう」。すごくそれを言います。「倍々ゲームにして、その空気を持っていくんだ」と。 お客さんも、その空気を楽しんでくださるようになっています。ときおり、常連のお客さんが、客席で他のお客さんを誘導していたりするのです。「こちらの席です」「こちらが物販です」と。一座のTシャツを買ってきて自分も参加している気分になる。そういうファミリーができてきているのです。 ◆内木:凄いですね。 ◆田谷野:オービックシーガルズと同じです。オービックのファンは「観戦」ではなく「参戦」といいますよね。まったく同じです。僕はよく一座のツイッターでも「参戦」という言葉を使って発信します。オービックがやろうとしていたことを僕は常に意識しています。僕の舞台は参戦型です。一座もファンも一緒になって参戦する。そこを目指してやっていきたい。 ◇内木さんは、そういう一座の中でここまで稽古をしてきて、今までの他の舞台の時と比べてどうですか
◆内木:今までは、稽古場でよく泣いていました。今回は全然泣いていないです。 ◇それはなぜですか。
◆内木:今までは、舞台に全然慣れていなかったのと、主役の時はそのプレッシャーというか不安もありました。自分のことで精いっぱいでした。他の出演者の方とも、なかなかお話ししたりできなかったんです。今回は、皆さん、楽しくワイワイできています。和気あいあいと楽しい稽古場だなと思います。同年代の女の子も多いですし。稽古は「楽しい」という内木さんだが、まなざしは真剣そのものだ=撮影:小座野容斉 ◇楽しい内容のお芝居だから、稽古も楽しいわけではないですよね。
◆田谷野:うちの一座は、稽古は相当やっていると思います。あまり他の劇団のことは詳しくわからないですが、2週間くらい稽古して、何回か通しでやって、後はお客さんの前で見せてしまうとか。うちの一座はいつも1カ月半くらい期間を取って、ほぼ毎日稽古をして、きっちりと作り上げていく。今日このインタビューの時間も、稽古時間外ですが、取材がなければ、みなここへ出てきて自主練しています。 稽古場が「楽しい」というのは常に心がけています。芝居の内容は関係なく。これはもう、完全に大橋さん(オービック・大橋誠ヘッドコーチ)の影響ですね。オービックの練習は、めちゃめちゃ楽しいんですよ。超フランクで。ビックリするぐらい雰囲気が緩く見える。けれど、選手の能力や自覚で、練習量は半端ないし、きつい。チームとしての速度は速い。あのオービックの練習をかなり意識して真似ています。 オービック時代、めちゃめちゃ楽しくやっていたのに、次の日に練習へ行ったら、前の日までいた選手がカットされていないとか、普通にありました。「あいつは今日いないけど、どうしたの?」「ああ、カットされたよ」。 そういう緊張感があった。その緊張感はこの稽古場にもあります。過去何度も配役が変わったりとか、楽しく稽古していても、演出家が「明日から役を変われ」ということがある。そういうシビアな部分を、シビアにやるのではなく、「楽しくやるよ。だから全員ちゃんとやってね」ということです。 僕はオービックの時に、そうとうヤンチャなことをしましたが、大橋さんに怒られたことが無い。大橋さんはいつも笑っている。実は細かいルールもない。かなりフリーです。それでもあれだけやる。そういう個々をチームとしての文化が作り上げていた。僕は「座組」(一座の運営・まとめ方)で、そう言う部分を意識して取り入れています。 ◇(内木さんに)機会があれば、一度アメフトを、オービックシーガルズの試合を見に来てください。このお芝居が終わった後で、10月24日からXリーグの試合が始まります。川崎でやっていますので、ぜひ見に来てください。ここまで田谷野さんが話していたことが実感できると思います。
◆田谷野:一緒に行こうか。 ◆内木:はい、ぜひ見てみたいです。2011年1月3日のライスボウルに臨むオービックシーガルズ時代の田谷野さん(#19)。右端の大橋HCは早大の、#2の古庄主将(現アシスタントHC)は関西大倉高の先輩。田谷野さんの「座組」はシーガルズのやり方が原点にある=撮影:小座野容斉 ◇田谷野さんといえば、2007年11月の関東学生リーグ、早大・法大戦。延長タイブレーク5回という熱戦の中で、パス(1本)とラン(1本)とパスキャッチ(2本)で4本のタッチダウン(TD)を決めました。その時、相手の法大で、5回のオフェンスすべてでパスTDを決めたのがQB菅原俊でした。
◆田谷野:あれはもう。また(法政は)タッチダウンかと。最後は、こちらが力尽きて、4thダウンギャンブル失敗で負けました。 ◇その後チームメートにもなった菅原さんは、去年で引退しました。
◆田谷野:菅原さんには、シーズンオフになるとLINEで近況を聞いたりしていました。「来季はどうするんですか」「うん、今、気持ちを作っているよ」そういうやり取りをしていました。やはり現役を続けるのはしんどいんだなと。この年になって1年続けるというのは。だから「本当にお疲れ様でした」と思います。延長タイブレークが5回に及んだ、2007年の早大・法大戦。早大の田谷野さんはパス、パスキャッチ、ランで4TD。後にチームメートになる法大・菅原さんはパスで5TDを決めた=KCFA公式サイトからアメフトを盛り上げたい、恩返しをしたい ◇田谷野さんと同年代の選手が、Xリーグでも現役を引退するようになってきています。
◆田谷野:菅原さんは、1学年上ですが、海島(裕希・富士通コーチ)が高校で同期なんです。彼が(2018年シーズンが終わって)引退するときに「辞めるわー」とメッセージをくれました。あの年になって、あのパフォーマンスやるというのは本当に凄いことだったなと思います。 ◇早大で田谷野さんの同期の選手は、Xリーグではもうほぼ引退していますね。
◆田谷野:もういないですね。法政は、クリ(栗原嵩・みらいふ福岡SUNS)や徳田(浩至・みらいふ福岡SUNS)が1学年下です。彼らも頑張っていますが、僕もアメフトにもっと関わりたいです。 僕は、アメフトを盛り上げに、帰りたいと思っています。徳田がそういう思いで帰った(現役復帰した)じゃないですか。「すげー頑張れ」と思っているのですが。僕も、アメフトに恩返しというか。集客を増やしたりそういうことに貢献したいなと思っているのです。 そのためにもまず自分の価値を高めなければいけない。芸能の世界できちんと成功して、その時に母校・早稲田のコーチを、ぜひやってみたいです。甲子園へ行きたいなと思います。 ◇コーチは、技術や戦術を教えるだけではないので、こうやって一座を束ねて、バックボーンの違う若い人たちを一つの目標に向かわせるというのはいい経験になりますね。
◆田谷野:今季から明治学院大学でレシーバーのコーチをやっています。舞台がない時に行くのでフルタイムではなく、週1回とかですが。この座組をやっていると、学生選手と接するときに。すごく役に立ちますよ。座組には、大学生よりも若い子もいます。1カ月以上一緒にいると、いろいろな愚痴も出てきますし、そういうのを聞いていると、いい経験になります。だから、コーチとしてはメンタル面のについて言うことが多いです。 僕はノリさん(木下典明・オービック)と今でもいろいろなやり取りをしているんです。オービック時代は1年だけ一緒にプレーしました。チェスナットリーグ(池田ワイルドボアーズ)の先輩・後輩で、重なっていないかもしれませんが、一方的にノリさんを僕が知っていた感じです。高校の同級生もたくさん立命に行ってるんで、ノリさんとはなんだかんだでずっとつながりがあります。 緊急事態宣言中も、ZOOM飲みなどしていました。僕はノリさんにレシーバーの技術を教わります。ノリさんは、アメフト普及活動にも凄く力を入れているので。僕に「お客さんを集めるためにはどういうことが必要なのか」とか質問してきたりします。ノリさんは「アメフトを盛り上げたい」といつも言っています。今も現役を続けている。その根底には、アメフトを盛り上げるために体を張っている。僕も同じようにアメフトを盛り上げるために、お役に立ちたい、そう思っています。 ◇(内木さんに)ここまで、アメフトの話ばかりになってしまったのですが、改めて、今回の舞台について、今までのアイドル時代のファンの方へも含めて、メッセージをお願いします。
◆内木:今回はインターネットの配信もあるのですが。やはり直接、見に来て欲しいなと思います。よろしくお願いいたします。田谷野さんが「天性、人を癒すものを持っている。」と評する内木さん。今のコロナ禍を考えてキャスティングしたという=撮影:小座野容斉
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「たやのりょう一座」の第6回公演「怪盗☆ドラゴンカンパニーVol.1『イサヤ島の王女と神の右腕』」は、10月15~18日に東京・渋谷の「CBGK シブゲキ!!」で。期間中に計7回の公演を予定している。劇場に行くことができない人のために、インターネットでの配信も行う。チケットなどの詳細は一座のウェブサイトで。
たやのりょう一座https://www.tayanoryo1za.com/
たやのりょう一座提供