近年、「食育」という言葉は浸透してきているものの、栄養についての知識に偏りがあり、「とにかく量を多く摂ればいい」といった勘違いをしているケースも多々見受けられる。技術力の土台となる強くてしなやかな肉体を保つため、そして中高生年代の選手には健全な発育発達を促進するため、「どのような目的で、どのような栄養を、どのように摂ればいいのか」を、あらためて確認したい。
※本記事は、「ベースボール・クリニック2018年11月号」掲載の「野球食レパートリー特別編 栄養のキホン」を一部再編集したものです。
海老久美子(管理栄養士、公認スポーツ栄養士)
球児は、自分の体のことをどれくらい知っているでしょうか。
おそらく「最近、腕に筋肉がついてきたかな」とか「体重がちょっと増えた」とか「ランニングでへばらなくなった」など、見た目や感覚的なことをチェックしているだけのことが多いのではないでしょうか。
それはそれで大切なことです。自分の変化を感じられたわけですから。
しかし、そこからもう一歩進んでみましょう。変化を変化で終わらせず、進化につなげるために、日常的に変化をチェックしていくのです。
選手は、体格も性格も、基礎体力も内臓の強さも一人ひとりでまったく違います。自分だけの体をより知っておくことは、練習量、食事量、休息が自分にとって適切かどうかの判断材料となるでしょう。
チェックするべきことの基本は、日々の体重と体脂肪計測。そして、食事量と練習量。
最低でもこれだけは継続して記しておけば、今の自分にとっては練習量や負荷が大き過ぎるとか、食事に脂肪分が多過ぎるかもしれないといった、今後に生かせる情報を手に入れることができます。
食事を知るというのは、本来、当たり前のことです。
自分の口から自分の体の中に入れているものをよく知らないなんて、普通に考えれば気持ちの悪いことです。目をつぶって、人から手渡されたものを口に入れることができますか?
自分が食べているものを知っておけば、状況や体調によって何を食べればいいかが分かりますし、遠征先のバイキングでも取るものに迷うこともないでしょう。
食事を知るといっても、すべての食べ物の栄養価を覚えようと言っているわけではありません。自分が食べるものを目で見て、食べているものの名前が分かればいいだけです。
それだけでも食事への意識というのは変わるものです。
食べることは一生続くことです。若いうちから食べることや食べ物に興味を持っていれば、将来的にも食事が雑になることは少ないでしょう。
今だけのためではなく、10年後、20年後の自分のために、自分の食事を知ることを習慣づけておきたいものです。
口に入れるものといえば、サプリメントもあります。「栄養補助食品」であるサプリメントは、不足させやすい栄養素や、たまたまその日には足りなくなった栄養素を補うには便利な食品です。
サプリメントを摂っている球児は多いと思いますが、食事と同じで、自分が摂っているサプリメントがどんなもので、何を目的として摂っているのか、きちんと把握しているでしょうか。
「チームみんなが摂っているから」とか「有名な選手が摂っているから」といったような理由で日々摂り続けてはいないでしょうか。
前述したとおり、球児の体は一人ひとり違います。ほかの選手には必要でも、あなたには必要ないものかもしれません。
必要のないサプリメントを摂ることは、お金もムダになりますし、過剰症など思わぬ悪影響をもたらすこともあります。サプリメントを摂るのであれば、摂っている理由をしっかりと説明できるようにしておきましょう。
パフォーマンスアップにつながる、ケガや故障のない体づくりは、難しかったり苦しかったりするものではありません。「バランス良く、そして楽しく食事をすること」を第一に、自分自身の体と向き合ってみてください。
《PROFILE》
海老久美子(えび・くみこ)
立命館大スポーツ健康科学部副学部長。管理栄養士、公認スポーツ栄養士、博士(栄養学)。全日本野球協会医科学部会委員。JOC強化スタッフ。ジュニアからトップまで、各種目のアスリートへの実践的な栄養教育・サポートを実施。著書に『野球食』『野球食Jr.』『野球食のレシピ 』『女子部活食』(小社刊)などがある。
文◎ベースボール・クリニック
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