ボクシング=暴力、というイメージは、いまだわが日本では根強く残っている。“平成のKOキング”坂本博之さん(SRSジム会長)の『こころの青空基金』をはじめ、全国各地で「ボクシングを通じた人間形成」活動は行われているが、ほんの些細なことでも“事件性”のあることばかりが、とかく大きくクローズアップされてしまうのだ。
 アメリカをはじめ海外では、スポーツ、とくにボクシングは「青少年育成」、「更生プログラム」として広く認知され、ひとつの“文化”として成り立っている。日本は、まだまだ立ち遅れていると痛感させられる。
 WBA世界ライトヘビー級チャンピオン、ドミトリー・ビボル(ロシア)の行動から、あらためて考えたい。
 

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文&写真/宮田有理子 Text&Photos by Yuriko Miyata

 2月20日、カリフォルニア州ロサンゼルス郊外のレジェンツ・ジムでWBA世界ライトヘビー級チャンピオン、ドミトリー・ビボル(ロシア)の公開練習が行われた。同級1位のサリバン・バレラ(キューバ)を迎えての待望の“ニューヨーク・デビュー”まで、2週間を切った。

 さまざまなプレッシャーがかかる戦いである。
 経験豊かなキューバ人は、ビボル自身が認める「過去最強の対戦相手」。会場となる殿堂マディソン・スクエア・ガーデンは、師ゲンナディ・マシヤノフに「夢の地」と聞かされてきた場所だ。名のある相手を圧倒して、この地の目の肥えたファンをうならせたい。メインを務める同じロシア出身のビッグネーム、セルゲイ・コバレフのお株を奪ってもみせたい。「今まで以上に興奮している」のは、27歳のライジングスター自身の中にある、野心ゆえだろう。

 そんな大事な一戦を目前に控えながら、ビボルはいたって穏やかだった。
 スパーリングを重ねてきた居心地のいいジムで、集まった記者たちと挨拶をかわしながらストレッチをし、ロープとウォーターボトルを持ってリングに向かう。
 ジムの窓の外に、大勢の人の気配が感じられたのは、ちょうどそのころだった。たくさんの子供、若者たちが大きな窓に張り付いて、リングを見つめている。大人たちに促され、ゆっくりと中へ入ると、そろりそろりとリングを囲んだ。
 彼らは、このレジェンツジムが運営する福祉施設の利用者で、心身に障害を持つ子や、一見普通でも何らかの問題を抱え、保護を必要とする若者たちだという

「子供たちを公開練習に招待してくれないかと相談を受けた時、自分の子供時代を思い出しました」
 ひとしきり動きを披露し、メディアの質問に対応した後、ビボルは話し始めた。

 同ジムではFaithFightersといって、ボクサーとの交流やボクシングレッスンなどを通じて青少年の心身を育成するプログラムを行っている。本物のチャンピオンを間近に見て、ふれあい、ボクシングや他のスポーツを始めるきっかけをつくる。ビボルはそのように説明を受け、二つ返事で引き受けた。練習に招待するだけでなく、新品のグローブをプレゼントし、彼らの手にバンデージを巻き、手のひらでパンチも受け止めた。さらに、今回のファイトマネーの一部を同施設に寄付することを、ビボルは決めているという。

 厳しい現実を生きる若者を明るい未来に導く活動は、日本でも海外でも様々な形で行われている。ボランティア活動が常識であり、ステイタスでもあるアメリカでは、ボクサーの慈善イベントは数々報道される。しかし、ボクサーが肉体的にも精神的にも追い込まれる試合直前の時期に、30分も40分も割けるのは、ビボルのうつわの大きさ。彼の思いを受け入れ、全力でサポートするチーム・ビボルの人々も素晴らしい。

「私の子供のころの思い出は、何もかもボクシングとともにあります。今の私があるのは、ボクシングのおかげ、と言っていいのです。6歳の時にボクシングジムに私を連れていき、私をこのスポーツと出合わせてくれた父にとても感謝しています。今日、私が彼らにそういう“機会”を与えられたとしたら、すばらしい。人生において、どういう時期に誰と出会うか、ということはとても大事です。私は人生において、然るべき時期に、然るべき人に出会うことができました。それはすべてジムで、です。そういう意味で、スポーツの現場は、子供たちが行くべき場所だと思います。ボクシングでも他のスポーツでも、“何かやってみたい”と彼らが思うモチベーションになればうれしいです」

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