雨で濡れたシューズがパフォーマンスに影響した


 2017年9月、ベルリンの世界屈指の高速マラソンコースを走ったエリウド・キプチョゲは、大雨と湿度99%という環境に負けることなく、42.195kmを誰よりも早く走り抜けた。快挙ではあったが、彼が目指していたものではなかった。世界記録には届かなかったのだ。

 ナイキのデザイナーは、荒天によるパフォーマンスへの影響をキプチョゲに聞いた。そして、シューズ(ナイキのマラソン2時間切り、Breaking2の挑戦で彼が着用したことで有名になったナイキ ズーム ヴェイパーフライ エリート)が水を吸うという問題が起きたことがわかった。水分が蒸発しないためにシューズが重くなっていた。デザイナーにもキプチョゲにとっても、この先のレースで起こってほしくないことだった。

 ナイキ ヴェイパーフライ エリートとナイキ ヴェイパーフライ4%は2017年のマラソンレースの表彰台を席巻した。そして、キプチョゲはこのシューズを「完璧、本当に完璧」と称している。デザイナーたちはソール部分はそのまま維持しながら、新しいアッパーを開発して、問題を解決することにした。そこで、3Dプリントを活用したアッパーの採用を考えた。ちょうど実験を行っていた3Dプリントは機能的であることはわかっていた。

 キプチョゲのニーズに的を絞った問題解決への取り組みは、2018年の初めから本格的にスタートした。まず、デザイナー達はいくつかの試作品を矢継ぎ早に作った。何千ものアッパーデザインの可能性を検討し、いくつかの試作品を「プリント」した。そして、2月末、ナイキ フライプリントと名付けられた新たなアッパーをキプチョゲに見せた。その結果、“D”バージョンを試用することにした。“D”バージョンで初めて走ったキプチョゲの反応は以下のようなものだった。

3Dのトップ部分:とてもいいけど、編目をもっと詰めるべき
履き口:すごくよく調整は不要
つま先:前足部を保護するために硬い素材を追加するべき
ソール:ソールは変更不要。柔らかいトラクションがとてもいい。衝撃も完璧に吸収してくれる
踵部下部:ソールの裏側も、とてもいい 

 そしてこうコメントしている。
「もし改良が時間通りに行われるのであれば、4月に使いたい。いつ改良版ができるのか教えて欲しい」

画像1: 雨で濡れたシューズがパフォーマンスに影響した

 デザイナー達は数時間のうちに修正を行った。次の段階のサンプルである“E”バージョンがケニアに届いたのはわずか9日後だった。そのほとんどの時間は輸送のために使われた。キプチョゲはテストを続け、間もなく次の“F”バージョンに納得した。これならロンドンで走ることができると。

 トレーニングや試し履きの細かい記録を残しているキプチョゲは、デザイナー達にシューズの中を空気が通り抜ける感覚が好きだ。雨の日も晴れの日もこのシューズで走りたいと伝えている。

 新しいアッパーは、キプチョゲがモンツァとベルリンで着用したものよりも11g軽い。ニット加工や織物加工されているアッパー素材は、交差している繊維同士に摩擦が起こるため、引っ張り強度が高まると同時に、足を適切な位置で安定させることができる。

 ロンドンでキプチョゲが着用するシューズのアッパーは、異なる色が層を成している。色の遷移はキプチョゲのスピードやケニアの練習環境(クレーのトラック、緑の草木と、カブト虫の外殻のような虹色)を表現している。デザイナー達がこのカラーから生まれるユニークな見た目を言葉にすることができなかったため、このシューズのカラーには名前がない。

画像2: 雨で濡れたシューズがパフォーマンスに影響した

データから素材と構造をつくるナイキ フライプリント

 この革新的なアッパーに採用されているナイキ フライプリントとはどういうのもなのだろうか。ナイキ初の3Dプリントを活用した競技用フットウエアのテキスタイルアッパーは、ナイキが長い間取り組んできたものである。

 ナイキ フライプリント技術は、固体堆積モデリング(SDM)と呼ぶ、コイル状になっているTPU(サーモプラスチック)の繊条組織を解き、それを溶かして層に重ねるというプロセスによって作られる。

画像1: データから素材と構造をつくるナイキ フライプリント

 ナイキは一般的な手法を採用しない。実際、フライプリントは、デザイナーがアスリートデータを異なる繊維の形に変換することを可能にした。ナイキ フライプリント(繊維、またはその技術)は、ナイキのデジタルで作り上げる繊維開発を一歩先に進めた。ナイキハイパーフューズ、フライワイヤーやフライニットで行ってきた機械にナイキ独自の修正を施すというレガシーを受け継いでいる。そして、これまで想像できなかった機能を生み出すソリューションを実現している。

 フライプリントのプロセスは、まずアスリートのデータを記録して、フライプリントの素材を作るところから始まる。データは、コンピューターのデザインツールで解析され、素材の理想的な構成を確定する。その情報を元に最終の素材が作られる。

画像2: データから素材と構造をつくるナイキ フライプリント

 フライプリントは、アスリートや求められる機能に合わせて全く異なるプリントを作れるという汎用性がある。また、デザインプロセス全体のペースの速さが増した。機能をプリントすることで、これまでにない速さと精密さでモノ作りが可能になった。試作品を作るスピードもこれまでのどんな生産方法よりも16 倍以上速くなった。

 従来の平面的な素材に比べると、3D素材には興味深い長所がある。フライプリントが素材を融合させて作るという性質から、縦糸と横糸の交差以上に、ダイナミックな素材の連動を実現できる。例えば、通常の編み物や織物の素材では、絡み合った糸(縦糸と横糸)の間に摩擦抵抗が生まれる。これに対して、3Dプリントした素材は、素材の交点が融合しているため、より正確に足を支えられるようになる。さらに従来の素材よりも軽く、通気性も高くすることが可能になった。

 デザインの速さに関して、従来の繊維に比べてフライプリント技術がもたらす利点が2つある。繊維の配置を一つ一つ調整することができるが、その変更が全体の構造に響くことはない。また、早く制作ができるため、商品テストや修正の時間も大幅に削減できる。つまりフライプリントは、正確なデザインを可能にし、短時間で大きな利点をアスリートに提供することができる。

 また、フライニットなど別の素材と無理なく併用できるため、フィットと構造の最適なバランスを実現することが可能となる。フライニットの糸は、糊や縫い目を加えることなくフライプリントの素材と熱圧着することができるのだ。

ロンドンマラソンで初めてフライプリントを見られる

 ナイキ フライプリント技術は、世界最速の長距離ランナーの自己最速の走りを支えるために作られた。この技術が最初に用いられるのは、ナイキ ズーム ヴェイパーフライ エリート フライプリントというシューズになる。Breaking2で1時間台まであと26秒に迫ったエリウド・キプチョゲのためのシューズだ。

 昨年のベルリンマラソンでのフィードバックをきっかけに、迅速な試作品開発が続けられた。新しいアッパーはナイキ ズーム ヴェイパーフライ エリートをさらに改良し、キプチョゲが最初に着用したものよりも11g 軽量化された。

 キプチョゲはナイキ ズーム ヴェイパーフライ エリート フライプリントを着用して、4月22日のロンドンに挑む。同じ週末ロンドンで、限定生産のこのシューズが、ナイキアプリを通じて販売される(日本での発売はない)。

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