社会人アメリカンフットボール・Xリーグのオービックシーガルズが、4月25日、今季の新加入選手について発表した。その中には、2人のQBの名があった。新加入の米国人、スカイラー・ハワード。そしてノジマ相模原ライズから移籍した大型パサー荒木裕一朗だ。

◇強豪ウェストバージニア大でエース

4月15日、強風が吹きすさぶ習志野市茜浜のシーガルズグラウンドに、23歳のその男は立っていた。オービックの新QBハワード。NCAAの強豪、ウェストバージニア大マウンティニアーズで2014年後半から、2015,16年とエースQBを務めてきた実力派だ。

ウェストバージニア大の所属するBig12カンファレンスは、テキサス大、オクラホマ大、オクラホマ州立大、テキサス工科大、テキサスクリスチャン大、カンザス州立大など、日本でもなじみの深い強豪大学がひしめき合う、全米でも苛烈なカンファレンスの一つだ。

ハワードはジュニアカレッジから転入すると、2014年シーズン後半からエースQBに昇格し、その年はタッチダウン(TD)パス8本、インターセプト(INT)はゼロという成績で、チームの信頼を勝ち得た。ジュニア(3年生)の2015年には、パス3145ヤード、26TD、14INT、ランで502ヤード6TD、シニア(4年生)の2016年にはパス3328ヤード、26TD10INT、ラン463ヤード10TDという好成績を残した。チームは2015年に8勝5敗、2016年のシーズンは10勝3敗で最終ランキング(AP)は全米18位と躍進した。

ハワード自身は2014年から3年連続でボウルゲームで先発QBとしてプレーしているが、過去に日本に来たQBではこれだけの大舞台を経験した選手はいない。特に2015年シーズンのカクタスボウル(2016年1月2日)では、アリゾナ州立大と対戦し、スリリングなシーソーゲームを展開した上に、43-42でウェストバージニア大が勝利した。このゲームでハワードはパス532ヤード5TD、最後に試合を決める逆転TDパスも成功させた。

さらに昨年のNFLドラフト1巡10位指名パトリック・マホームズ(テキサス工科大、現チーフス)、今年のドラフトで1巡指名濃厚とされるオクラホマ大のベイカー・メイフィールド、オクラホマ州立大のメイソン・ルドルフといった名だたるQBとの対戦経験も持っている。2017年初夏には、NFLシアトル・シーホークスのミニキャンプにも参加した。 大学のネームバリュー、そしてプレーヤーとしての実績を見ても、引退した富士通のコービー・キャメロン(ルイジアナ工科大)、ノジマ相模原を退団したデビン・ガードナー(ミシガン大)に勝るとも劣らないトップクラスのQBと言ってよい。

画像: ウェストバージニア大でエースとして活躍したQBハワード。2016年1月2日のカクタスボウルではアリゾナ州立大と対戦した。 ハワードはボウルゲーム3試合に先発した経験を持つ=Photo by Christian Petersen/Getty Images

ウェストバージニア大でエースとして活躍したQBハワード。2016年1月2日のカクタスボウルではアリゾナ州立大と対戦した。 ハワードはボウルゲーム3試合に先発した経験を持つ=Photo by Christian Petersen/Getty Images

画像: 2016年1月2日のカクタスボウルで、アリゾナ州立大と対戦し、ウェストバージニア大逆転勝利の立役者となったQBハワード=Photo by Christian Petersen/Getty Images

2016年1月2日のカクタスボウルで、アリゾナ州立大と対戦し、ウェストバージニア大逆転勝利の立役者となったQBハワード=Photo by Christian Petersen/Getty Images

◇QBをプレーするため転校

とはいえ、ハワードの選手生活は決して順風満帆ではなかった。最大の理由は身長だった。5フィート11インチ(180センチ)は、アメリカ人のQBとしては明らかに小さかった。日本人が考える以上に、アメリカ人はQBの身長に拘泥する。

ハワードは1994年11月にテキサス州フォートワースで生まれた。 「テキサスの高校フットボール界わいではかなり有名なデュアルスレッドQBだった」(大橋誠ゼネラルマネジャー)というハワードだが、フットボールでは奨学金は得られず、NCAA1部校のスティーブン・オースチン大学に進学し、ウォークオン(一般入部)でフットボールチームに入った。しかしそこでは実地テストもないままにRBコンバートの決定が下された。QBをプレーしたかったハワードは、納得がいかず、カリフォルニア州のジュニアカレッジ、リバーサイドシティカレッジに転校する。そこで出会ったのが、現在オービックのオフェンスコーディネーター、ダニエル・リンズヘッドコーチ(HC)だった。

リンズHCはハワードの非凡な才能を見抜き、直ぐにQBとして起用した。パスで3000ヤード33TDを記録したハワードのもとには有力大学のスカウトが集まり、ハワードはその中からウエストバージニア大を選択した。テキサス生まれのハワードにとって、ウェストバージニアは異郷だったが、所属カンファレンスはテキサスの名門大が数多く名を連ねる。事実上の地元への凱旋だった。

ウェストバージニア大のダナ・ホルゴーセンHCはスプレッドオフェンスの名手で、ヒューストン大ではケース・キーナム、オクラホマ州立大ではブランドン・ウィーデン、そしてウェストバージニア大ではジーノ・スミスといった、NFLに進んだQBを育成してきた。コーチ・ホルゴーセンは、ハワードのQBとしての戦術的な特性だけでなく、負けず嫌い、オーバーアチーバー(頑張り屋)、リーダーシップという、技術や身体能力以外の資質も見抜いていた。名伯楽の眼は確かだった。そしてハワードの下、2シーズンに渡るチームの成功として結実したのだった。

画像: 練習の合間に菅原の説明を聞くオービックの新QBハワード=撮影:Yosei Kozano

練習の合間に菅原の説明を聞くオービックの新QBハワード=撮影:Yosei Kozano

◇シーガルズ加入の決め手となった一語

オービックが過去獲得してきた米国人QBは、UCLAの控えだったジェリー・ニューハイゼル、ハワイ大のイカイカ・ウージーともに、米国での実績は、それほど目立つものではない。優れた成績を残してきたハワードの加入は、QB選択の路線変換にも感じる。その質問を古庄直樹HCにぶつけた。古庄HCは「決して方針を変えたとか、そういうことではない」と話す。採用の決め手は、実績ではなく他にあった。

古庄HCは過去に何人もの米国人QBを面接してきた。「あなたはどんなQBなのか」と質問すると「リード能力に優れたパサーだ」などと、スキルセット(身体的・技術的な能力)の説明をする選手が大半だという。しかしハワードは、同じ質問に対して、一言だけ「パッション(情熱)」と答えたのだそうだ。答えを聞いた瞬間、古庄HCは面接に同席していた濱部昇コーチに「(我々の求めていた人材が)来ましたね、ついに」と話しかけたそうだ。

リンズOCの教え子ということで、昨年のQB選びの段階でも候補の一人として名前は上がっていた。ただ、NFLドラフトにかかる可能性もあったため、本人のチャレンジしたい気持ちに配慮して、声はかけなかった。

ハワードは、1月のトライアウトが初来日で、その後2月の練習開始からチームに合流した。日本のフットボールについてはジュニアカレッジ時代にリンズコーチから聞いていたという。昨年夏にシーホークスへの入団がならなかった後、CFLのチームにも短期間練習生と参加していたが、本契約に至らず、テキサスの自宅に戻っていた。昨年の社会人準決勝でオービックが富士通に敗退した後、リンズOCが直接本人に電話をかけてきて、日本でのプレーをオファーしたという。

◇お手本はラッセル・ウィルソン

ハワードに、日本でのプレーを選んだ理由を尋ねた。「NFLでのプレーは難しい。かといってカナディアンフットボールは、ルールが違いすぎる。人数が違ったり、マルチプルモーションがあったり、自分にとっては本当のフットボールではなかった」という。お手本にしているQBはシーホークスのラッセル・ウィルソン。そして日本での目標は当然「ジャパンXボウルに勝ち、そしてライスボウルに勝つこと」。日本のファンへのメッセージとして「ここでフットボールができることに、本当にエキサイトしている。もうすぐ日本で最初のゲームだが、全力を尽くすのでぜひ見に来てほしい」と語った。

練習を見る限り、とにかく動きが滑らかなQBだ。左右にロールした後、そのまま走るかと思えばラインオブスクリーメージギリギリのところでパスが飛び出す。モーションはクイックで肩は強くボールの回転もいい。ランプレーでも走り出しが静かだが加速が素晴らしい。モバイルQBと言えば、ガードナーやパナソニックのベンジャミン・アンダーソンを想起する人も多いだろうが、ハワードはタイプが違う。本人のコメント通り、確かにラッセル・ウィルソンに似た部分がある。

練習の合間には、リンズOCや菅原俊とコミニュケーションを取って、レシーバーのコース取りを確認する姿も見られた。オービックのレシーバー陣は、まだハワードのタイミングの速いスピードボールにアジャストできてない印象があった。しかし、オービックは、今回ボイジー州立大出身の長身レシービングTEホールデン・ハフも合わせて入団させている。198センチでリーチが長いハフはハワードの良いターゲットになるだろう。そして、ハワードが日本のレシーバーに合わせるのではなく、レシーバーがパスについていけるようになった時、日本のフットボールはまた一つ進化することになるかもしれない。

画像: (右から)新加入のQBハワード、TEハフ、リンズOC=撮影:Yosei Kozano

(右から)新加入のQBハワード、TEハフ、リンズOC=撮影:Yosei Kozano

◇引き締まった荒木の体

ハワードの話ばかりとなったが、荒木についても書いておきたい。昨シーズン終了後、古庄HCのもとに、荒木本人から直接電話がかかって来た。「自分のフットボール人生の最後のチームとしてシーガルズに加わりたい」と荒木は訴えたそうだ。古庄HCにとって荒木は立命館大の後輩だ。ちょうどIBMビッグブルーにQBケビン・クラフトが加入した2012年に、母校で荒木を見た時は「クラフトの次にいいボールを投げている」と感じたほどの好素材、その頼みを聞き入れる気になった。

Xリーグでは、現在所属するチームの同意がなければ移籍はあり得ない。荒木の希望を聞いた古庄HCは、ノジマ相模原の須永恭通HCに連絡を取り、移籍を承諾してくれるか、確認した。シーガルズは、春の練習初日から厳しいメニューを選手に課すために、フルに動ける体を作っていないと参加できない。古庄HCは、初日の荒木の体つきと動きを見て「それなりの覚悟を持って臨んでいる」と感じたそうだ。

ほぼ半年ぶりに見た荒木の体は引き締まっていて、当初、別の大型QBが加入したのかとさえ感じられた。しかし、きれいなオーバーハンドの投球フォームは間違いなく荒木のもので、ハワードと比べても遜色のない、きれいなスパイラルのかかったロングボールを投げていた。濱部コーチは「光るものがある」と荒木の素材を認めつつ、「ボールを長く持ち過ぎるのが最大の問題点、とにかく球離れを早くする必要がある」と見ている。

オービックの春の初戦は5月3日の明治安田ペンタオーシャンパイレーツ戦(富士通スタジアム川崎)。ファンならずとも見逃せない一戦となりそうだ。【小座野容斉】

画像: ノジマ相模原から移籍したQB荒木=撮影:Yosei Kozano

ノジマ相模原から移籍したQB荒木=撮影:Yosei Kozano

画像: オービックの新しい米国人QBスカイラー・ハワードと、後方で見守るダニエル・リンズOC=撮影:Yosei Kozano

オービックの新しい米国人QBスカイラー・ハワードと、後方で見守るダニエル・リンズOC=撮影:Yosei Kozano

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