今夏のロシア・ワールドカップにおいて、ワールドカップ史上3カ国目となる大会連覇を目指すドイツ代表。「縦に速いサッカー」を伝統的に持ち味とするドイツでは、「縦への速さ」を『パッキング』によって評価している。果たして、どのような指標なのだろうか? 『東京23FC』の土屋慶太・監督に聞いた。

出典:『サッカークリニック』5月号

――近年、ドイツでは『パッキング(Packing)』という分析データが用いられるようになっていると聞きました。どのようなものか教えてください。

土屋 ドイツ語の『パッケン(packen)』は英語の『パック(pack)』に近いものなのですが、「やり込める」という意味でもあります。サッカーでは「相手を攻略する」、「相手を突破する」という意味で使われます。「相手のゴールに近づく」というイメージの言葉です。
 そして、パッキングというデータはドリブルやパス、そしてボール奪取によって攻略した相手選手の人数をカウントして集計するものです。また、オフ・ザ・ボールの動きによって相手を攻略してボールを受けた選手も同じような方法でパッキング数が表わされます。「常に裏を狙う」を大切にしているドイツらしい数値です。
 ドイツには「ポゼッションしているだけでは意味がない」という意見がありましたが、その理由を具体的にする方法がありませんでした。また、「前に速く」、「縦に速く」というコーチングは指導現場でも使われますが、「どうすればいいのか?」が選手に伝わりにくい面があったのです。そうした状況を改善するためにパッキングというデータが使われるようになったのです。
例えば、ドリブルで1人の相手を抜いたら加点、パスで相手を越えても加点されます(パスを出しただけでなく、受け手がボールを保持しなければならない)。パッキングの特徴とも言えるのが、フィールドを分割して人数(ポイント)を計算する点です。目の前の1人の選手をドリブルで抜いたとしても、横の同一ライン上にいる選手も「越えた」として数えます(下の写真)。また、データの性格上、後方の選手が高いポイントを得るのも1つの特徴と言えるでしょう。
 また、『インペクト(Impect)』という数値もあります。これはゴールキーパーも含めた相手ゴールに近い6選手を攻略した人数を加算していくものです。ゴールにつながる効果的なアクションをした選手の点数が高くなります。

画像1: 赤いラインと赤いラインの間にいる選手が「越えられた」としてカウントされる

赤いラインと赤いラインの間にいる選手が「越えられた」としてカウントされる

画像2: 赤いラインと赤いラインの間にいる選手が「越えられた」としてカウントされる

赤いラインと赤いラインの間にいる選手が「越えられた」としてカウントされる

――パッキングの数値からどのようなことが読み取れますか?

土屋 ポゼッション率やシュート数よりも「効率の良い攻撃ができているか」を読み取れると思います。2014年のブラジル・ワールドカップでドイツがブラジルを7-1で破った試合などのデータを見るとこの数値の価値が分かります(表①)。ポゼッション率の高低は勝敗と結びつかないケースも多々ありますが、分析によるとパッキングの高低は勝敗との関連が深いとされています。

画像: ――パッキングの数値からどのようなことが読み取れますか?

――ボールを大事にすることと素早く前進することの両立はなかなか難しいと思います。

土屋 両立と言うよりも、サッカーでは素早く前進すべき状況があり、その状況を逃すべきではありません。それは原理原則ですし、「裏に使えるスペースがあれば使う」というのは当然です。また、パッキング・ポイントを無理に狙おうということではありませんし、選手の判断と選択を大切にすべきです。指導者が結果だけでなく過程と意図も見極めなければいけません。

 ドイツでは、育成年代からパッキングという数値を用いて「前進(ボールを前に運ぶこと)の重要性」や「縦に速い攻撃の有効性」を選手に伝えている。一方、サッカーのトレンドはポゼッション・サッカーから縦に速いサッカーへと徐々に変化している。ドイツ代表はロシア・ワールドカップでもその優位性を示し、5度目の優勝を果たせるのか? パッキングに注目して観戦するのも面白いかもしれない。

土屋慶太(つちや・けいた)/高校サッカー界の名門、静岡県の清水東高校出身。大学卒業後、ドイツやチェコのクラブに所属し、プロとしてもプレーした。現役引退後は指導者となり、ドイツ・サッカー協会公認のA級(UEFA A級)ライセンスを取得。今シーズンより東京23FCの監督を務める。一方で、『修徳FCジュニア』など、いろいろなカテゴリーで指導

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