野球人口の減少が叫ばれる一方で、依然として高い野球熱。熱心に競技に取り組む野球少年たちが注意を払わなければならないのが、将来にわたって競技に、ひいては日常生活に支障をもたらす可能性がある野球障害だ。特に小中学生年代では引き起こした障害が取り返しのつかない重症に結びつきかねない。安心・安全はすべての野球少年たちの活動に第一に担保されるべき重要事項である。

小中学生時に起因する
野球障害の可能性

 第90回記念選抜高校野球大会は、大阪桐蔭の2年連続3度目の優勝で幕を閉じた。投手の投球数抑制を一つの目的に今大会から採用されたタイブレークが実施されることはなかったが、ベスト8に入ったチームで1人の投手しか登板しなかったのは1チームのみ。複数投手による継投をパターンとして勝ち上がるチームが目を引いた。

 春夏の甲子園大会を主催する日本高校野球連盟の要請により、アスリートケアが行う大会前投手検診(肩肘関節機能検査及び関節可動域測定)は1993年の開始から四半世紀に及ぶ取り組みとなり、今大会に登録された116人の投手に投球禁止となる大会規定に触れる投手はゼロだったものの、投手の肩・ヒジの障害予防について、周知徹底されているとは言い難い。高校の指導者がいくら注意を払っていても、故障の原因が小中学生時の野球活動に起因することもあるからだ。

「小中学生時代に起こった障害を放置したままプレーを続けたことで、高校生年代になって痛みを伴う状況まで症状が進行し、手術に至るケースがあります。特に小学校高学年から中学生に多く見られる『離断性骨軟骨炎(OCD)』は痛みの自覚症状がない、もしくは少ないため、エコー検査で定期的にチェックすることが重要です」

 障害が過去に認知しなかったものに起因する可能性を指摘するのは兵庫県神戸市中央区「あんしん病院」の肩・ヒジ専門医である山上直樹医師。同医院ではここ数年、小中学生の野球少年を対象にした「野球肘検診」を年に4回、実施している。

「過度なストレスの集中によって、ヒジの外側の骨軟骨が剥がれるOCDは、そのまま進行すれば手術に至るケースもあり、競技に支障をきたすのはもちろん、ヒジが曲がらず伸びない状態になり、歯磨きができない、箸やフォークなどを口に運べない、ボタンが掛けづらいなど、日常生活にまで影響を及ぼす可能性があります。しかも、発症した段階では痛みがないため、子どもが理解できない部分が多分にあります。保護者、指導者が十分に配慮すべきものです」

画像: OCDでヒジの外側に入った亀裂。症状が進行すると軟骨が剥がれ欠損することも

OCDでヒジの外側に入った亀裂。症状が進行すると軟骨が剥がれ欠損することも

自覚症状がないから怖い
離断性骨軟骨炎

 肩やヒジなどのヒトの関節に存在する軟骨は、関節の動きを円滑にする働きを担っている。ヒジの離断性骨軟骨炎(OCD)は、投球などによってくり返されるストレスや外傷により、ヒジの外側の骨軟骨に傷が入ったり、剥がれる状態を指す。プロ野球投手などが「ネズミ」と呼ばれる骨棘を取り除くための手術を行うケースが見られるが、その「ネズミ」もOCDの名残の場合もある。そのOCDが小学生高学年から中学生年代にかけて発症するのは、その年代の子どもの骨が発育段階にあり、関節軟骨も脆弱でストレス耐性が乏しく、損傷しやすいから。骨が成熟する高校生以上の年代になると肘内側側副靭帯損傷など、障害リスクは靭帯組織により強く移行する。

 OCDの主な原因には単なる投げ過ぎだけでなく、投げる際のストレスを増幅する柔軟性の欠落やフォームの問題が深く関わっている。可動域が十分に確保できていない状態や理に適っていないフォームで投げることで、1球ごとに体にかかる負担が増すためだ。つまり、障害予防を取り上げる際にクローズアップされることが多い「球数制限」だけでなく、体の状態や動作の適切性への配慮が欠かせない。そのほか、遺伝的要素や局所の血流障害を引き起こす受動喫煙も発症要因になると考えられている。

 野球肘検診が必要とされるのはOCDの初期段階では痛みの自覚症状がないことが多く、プレーに支障をきたさないため。当然、知識がなければ医療機関を受診することもない。OCDは早期発見することで自然治癒が見込める障害。しかし、発見が遅れれば手術適応となるまで症状が進行するケースもある。また、治癒しないままプレーを続けることで、骨が成熟したのちに違う障害リスクとして露見する可能性も。そうなることを防ぐためにも「理想は半年に1度、少なくとも年に1回は検診を受けてほしい」と山上医師。エコー検査を用いるのはレントゲンでは写らない小さな異常を発見するため。無症状の時期に早期発見し、進行を予防して治癒へ導くのが野球肘検診の目的の一つだ。

子どもの将来に対する
保護者、指導者の責任

 離断性骨軟骨炎(OCD)の主原因である投げ過ぎの観点では臨床スポーツ医学会が「青少年の野球障害に対する提言」にて、1日および1週間の全力投球数の上限を基準づけている。それによると小学生では「50球/日、200球/週」、中学生では「70球/日、350球/週」が限度。また、「1日2試合の登板は禁止すべき」としている。しかし、1日50球や70球では7イニング制の小中学生の試合でも1人の投手で成立させることは難しい。競技人口が減少傾向にある現状では余計に、投げることの負担が偏りがちな投手や捕手には慎重を期す必要がある。

 年間800人程度が受診する同医院の野球肘検診で、OCDが疑われるのは2%程度の割合だという。

「野球人生を左右しかねないOCDを見つけるのがこの検診の主な目的です。それ以外にもヒジの内側や肩、腰、ヒザなどに痛みをこらえながらプレーしている子どもたちを抽出して、どんなトレーニングやストレッチをすれば野球活動を続けながら治癒するかを知ってもらう機会として利用してもらっています。また、保護者にOCDを知ってもらうことで、子どもたちの体のことに敏感になってほしいとも思っています。『ヒジが張っている』と言ってきた子どもに対して『休んでおけ』ではなく、『病院で診てもらおうか』という流れができれば、子どもの健康なスポーツ環境を守ることになるのではないでしょうか」(山上医師)

 多くの場合、病院を受診すると野球活動の停止を勧められるが、それだけの処置でよくあるのが、痛みが引き野球復帰するとすぐにまた痛みを覚え、それをくり返すケース。休むだけでは、障害に至る問題点を根本的に取り除くことにはならない。再発を防ぐには痛みの原因へのアプローチが必要で、例えば柔軟性の欠落やフォーム不良などの問題点を改善できれば野球への復帰期間の短縮、再発防止、あるいは競技を継続しながら治癒を目指すことが可能になる。病院側も競技停止を強いる指導では野球をやりたいと希望する選手が受診を避けるだけ。極力、「休め」と言われなければ受診ハードルが下がり、保護者、指導者が受診を勧める環境づくりが進むと考えられる。

 同医院が野球肘検診を始めた当初、参加選手は10人前後の規模だった。それが現在は1回につき、20倍ほどの選手を集めるまでに規模が膨らんだ。こうした検診は、現在では日本各地で行われている。「これからも少しずつ認知されていって、いつかは『野球肘検診を受けるのが当然だよね』という流れができるといいですね」(同)。発育段階にある小中学生年代の野球少年の体を守るのは、親の、それを預かる指導者の責任だ。

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