男子砲丸投で回転投法の中村太地(チームミズノ)が18m85の日本新をマークした。5月20日のセイコーゴールデングランプリ2018大阪の6投目でのこと。砲丸投を観戦すると、現在2つの投法が行われていることが分かる。後ろ向きに地面をスライドするように動いた後に上体を起こして投げるグライド投法と、サークル内を1回転半ターンして投げる回転投法。歴代記録リスト上位は、世界も日本も両投法が混在する。どちらが記録が出やすいと断言できないが、現在、世界的には回転投法の選手が圧倒的に多く、日本でも回転投法を行う選手が増えている。

砲丸投の日本記録を樹立した中村太地(写真・中野英聡/陸上競技マガジン)

回転投法最初の日本記録は22年前

 中村が回転投法を始めたのは国士大に入学してすぐだった。岡田雅次監督から「(グライドの)脚を引く動きが下手だから回転投げをやったらどうか」とアドバイスされたことがきっかけだったという。回転投法最初の試合で14m55を投げると、2試合目で15m台に乗せ、4カ月後の日本インカレでは15m98まで記録を伸ばした。
「高校で円盤投をやっていた(インターハイ、国体の2冠)ことも、回転投げにプラスに働いたと思います」
 円盤投の経験が、砲丸投の回転投法につながるケースは散見される。世界記録保持者のランディ・バーンズ(米国)やリオ五輪金メダリストのライアン・クルーザー(米国)らは、円盤投でも61~62m台と日本記録を上回る数字を残してきた。また、回転投法初の日本記録保持者となった野沢具隆(ゼンリン・当時)も、円盤投からの転向組だった。
 野沢の日本記録は1996年10月5日、全日本実業団の6投目だった。当時の陸上競技マガジンには「狙っていました。2週間前に野口君の日本記録を聞いてからずっと燃えていましたから」というコメントが載っている。
 野口安忠(日大2年・当時)が9月23日に、5年ぶりの日本記録となる17m84を投げていた。20歳の野口に対し、野沢は実業団8年目の30歳。10歳年下の若手に刺激されての記録更新だった。
 野沢は円盤投で東海大時代に日本インカレ優勝、実業団4年目には日本選手権にも優勝したが、円盤投では日本記録に届かないと判断。学生時代の恩師のアドバイスもあり、実業団6年目から砲丸投への取り組みに重きを置き始めた(その年の広島アジア大会には2種目で出場)。そして30歳で日本記録保持者となったのである。
 野沢と野口、10歳差の2人の18mへの先陣争いを制したのは野口で、2年後の1998年4月に18m31と一気に大台を突破すると、1カ月後には18m53まで記録を伸ばした。
 その野口が回転投法に転向し、2000年に投げた18m29が回転投法の日本最高記録としてずっと残っていた。それを昨年18m55と、17年ぶりに上回ったのが中村だった。

 そして野口の日本記録は2006年に、日大の後輩の畑瀬聡(グライド投法)が18m56と更新し、それを09年に山田壮太郎(グライド投法)が18m64と破った。さらに15年に畑瀬が18m78と取り返し、ゴールデングランプリ時点での日本記録となっていた。
 畑瀬はずっと「19m」を目標に、35歳の現在まで第一線で戦い続けている選手。昨年も中村が18m55を投げた静岡国際で敗れ、1カ月半後の日本選手権で雪辱した。今回も10歳年下選手からの日本記録奪回に向けて、闘志を燃やしていることだろう。

画像: 円盤投からの転向組の中村。その経験を生かしての日本記録樹立だ(写真・中野英聡/陸上競技マガジン)

円盤投からの転向組の中村。その経験を生かしての日本記録樹立だ(写真・中野英聡/陸上競技マガジン)

中村の回転投法転向後の足跡

 学生時代、インカレは円盤投と両種目で出場していたが、3年時に関東インカレ優勝、4年時に日本インカレ2位と、徐々に砲丸投の成績が上回るようになり、大学卒業後は砲丸投をメイン種目とするようになった。
 回転投法を始めて1年ちょっとは記録がどんどん伸びたが、その後は順調だったわけではない。大学2年時の5月に16m46を投げたが、卒業時の記録は16m93。2年半で50cmしか伸びなかった。
 しかし実業団1年目に17m82まで一気に伸ばすと、3年目の昨年、18m55の回転投法日本最高をマーク。そして今回の日本記録更新へとステップアップしてきた。
「回転投げをやり始めて最初は勢いで記録を伸ばせましたが、そこからが難しかったですね。18m近くを投げるようになって、やっと(回転投法の技術に)慣れてきた感じです」
 22人目の回転投法の日本記録保持者は25歳。1人目の野沢は30歳での日本記録だった。回転投法のチェックポイントは多岐にわたり、完成していくのには時間がかかるのだろう。中村が成熟していくのはこれからだ。 (文/寺田辰朗)

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