スペイン・サッカーにおける選手育成の基本的な考え方を2人の指導者による問答を通じて紹介する(5回連載)。質問者は日本人として最年少でスペイン・サッカー協会公認の上級ライセンスを取得した倉本和昌さん、答えるのはアスレチック・ビルバオで育成に長く携わっているランデル・エルナンデス・シマルさん。
 倉本さんの「問い」に「あなたはどのように答えますか?」。
(出典:『ジュニア年代の考えるサッカー・トレーニング 4』)

※上のメイン写真=ロシア・ワールドカップに向けてトレーニングに励むスペイン代表の選手たち。
写真/gettyimages

倉本 日本人選手の中には、練習と試合のパフォーマンスがまったく異なる選手がいます。なぜ、そういう選手が現われるのでしょう?

ランデル 非常に難しい質問です。私は、「サッカーにはその国の文化が影響する」と考えているからです。

倉本 日本文化の中に「試合と練習を分けさせるもの」があると感じますか?

ランデル あるいは、「すべての選手がそうだ」とは言いませんが、日本人選手はグラウンドで自分が主役になることを不得手にしているのかもしれません。

倉本 確かに、自分で責任を持ってプレーすることをどちらかというと避ける傾向にあります。

ランデル グループの中で飛び抜けることやリーダーになることをあまり好まないのではありませんか? もちろん個人差はありますが……。やはり、文化が影響を与えている、それが異なるパフォーマンスを生む理由の1つだと思います。
 サッカー的な視点で言えば、日本の人々は、ボールを中心にサッカーを見すぎていると感じています。しかしサッカーは、ボールがあるところでプレーされているとは限りません。

倉本 それは、オフ・ザ・ボールに関連しますね。しかも、オフ・ザ・ボールと言った場合、日本ではボールに近いエリアでのプレーや選手に関することが想像されやすく、ボールから離れている選手は含まれにくい傾向にあるようです。

ランデル あまり意識されていないことですが、ボールを持っていない選手の動きが不十分だと、ボール保持者が余計なプレッシャーを感じることになるのです。

倉本 ボールを中心に考えるあまり、選手がボールに集まり、フォローやサポートが少なくなるためですか?

ランデル サッカーでは、ボールがある場所やその瞬間に起きていることだけが重要とは限りません。にもかかわらず、日本では、ボールが中心になりすぎている気がします。しかも、ボール保持者がすべての責任を背負っているようにも見えます。
 しかし、ボールがすべてではありません。実際には、周囲の状況やその前のプレーが「今」に大きな影響を与えているのです。当然、ボール保持者に責任はありますが、それ以外の選手にも責任はあるのです。ボールを持っていない選手には、「マークを外す」、「パスコースをつくり出す」、さらに「ディフェンスラインをきちんと統率する」など、すべきことはたくさんあります。

倉本 なるほど。チームにはボール扱いが得意ではない選手もいます。その選手がボールを失った場合、その選手自身が問われるべき部分もありますが、その力量を理解した上で周囲の選手もサポートしなければならない、とも言えそうです。つまり、「お互いにつながっているという意識」が必要なわけです。

ランデル 「ボールを失ったのはボール保持者だけの責任ではない」ということもあるのです。しかし、ボールを中心にして考えすぎると、ボール保持者に多大なプレッシャーがのしかかります。その結果、選手は焦ってプレーすることになるかもしれません。

倉本 その点はどのようにすれば変えられるのでしょうか?

ランデル 指導者の責任は重大だ、と考えるべきです。落ち着いてプレーすることの重要性を指導者自身が知り、しかも、重要性を選手に伝えられ、実現するために修正する術を知っていなければいけません。そうでなければ、変えられないでしょう。

倉本 ボールから離れている選手の状況を見ること、そして全体を把握することが大切になりそうです。

ランデル 指導者は、ボールが届く前からボールが届いたあとのプレーを予測できなければいけません。その予測は、ボールを失った場合に、味方のサポートが遅かったから、あるいは、そもそもボール・ホルダーがパスすべきではないタイミングでパスしたから、とミスの理由を分析する手助けになるからです。指導者には予測力とミスの理由を判別できる能力が求められます。そして、指導者が伝えるべきはミスに対する正しい判断と評価であり、それは選手自身の意識変化を促します。過度のプレッシャーにさらされずにすむからです。
 ボールを失った責任は全員にあり、それをチームとして共有しなければなりません。決して、ボール保持者だけが責任を負うべきではないのです。〈②終了。③へ続く〉

倉本:「ボールを失った責任は誰にあるのでしょう?」

ランデル:「ボール保持者以外にも責任があるかもしれません」

画像: ランデル:「ボール保持者以外にも責任があるかもしれません」

左写真:ランデル・エルナンデス・シマル(LANDER HERNANDEZ SIMAL)/1976年、スペインのビルバオ生まれ。20年以上の指導キャリアを持ち、日本に関する知識も豊富。2002年からアスレチック・ビルバオの育成部でプロコーチとして働いている。また、選手向けのクリニックと指導者講習会で日本での指導経験もある。『スペイン公認上級ライセンス(日本のS級に相当)』保持者で、弁護士資格も保有している

右写真:倉本和昌(くらもと・かずよし)/1982年、広島県生まれ。広島市立舟入高校卒業後にスペインへ渡り、2009年に日本人最年少で『スペイン公認上級ライセンス(日本のS級に相当)』に合格し、同年、帰国した。湘南ベルマーレや大宮アルディージャの育成コーチとして活躍した。現在は指導者向けのセミナーを開催している

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