スペイン・サッカーにおける選手育成の基本的な考え方を2人の指導者による問答を通じて紹介する(5回連載)。質問者は日本人として最年少でスペイン・サッカー協会公認の上級ライセンスを取得した倉本和昌さん、答えるのはアスレチック・ビルバオで育成に長く携わっているランデル・エルナンデス・シマルさん。
 倉本さんの「問い」に「あなたはどのように答えますか?」。
(出典:『ジュニア年代の考えるサッカー・トレーニング 4』)

※上のメイン写真=ロシア・ワールドカップに向けてトレーニングに励むスペイン代表の選手たち。
写真/gettyimages

倉本 スペイン・リーグに限りませんが、下部リーグでもサッカーのレベルが向上し、「フットボールをプレーするチーム」が増えている気がします。

ランデル スペインでは、ファンも良いプレー、つまり、パスをつなぐこと、プレーすることを求めているからでしょう。
 しかし、極端に振れてしまうことを私は心配しています。

倉本 「極端」とは?

ランデル 多くのチームが「ボールを大事にするサッカー」を目指しています。しかし、「ボールを動かせれば、それは良いサッカーなのでしょうか?」。ボールを動かすことはサッカーの目的ではないはずです。
「目的はボールを動かすことではなく、相手を動かすこと」
 ジョゼップ・グアルディオラ監督(現在はマンチェスター・C)もこう言っていました。
 しかし最近は、「ボール動かす=良いサッカー」という評価になっている気がしてなりません。言うまでもなく、サッカーの目的はゴールです。

倉本 そうした現象は日本でも見られます。では、「なぜ、効果的にゴールに向かえないのでしょうか?」、「なぜ、ボールを動かしてもゴールを決められないのでしょうか?」

ランデル ボールを回すことは人々の錯覚を誘い、周囲の人々は「素晴らしいサッカーをしている」と思い込みます。
 誤解してほしくないのですが、私も、最も効果的にゴールを決める方法は「良いプレーをすること(ボールを動かしながら攻撃すること)」だと信じています。私は、そちら側の人間です。
 しかし今は、ボールを動かすことが目的になっています。それは正しいことではありません。あるいは、「良いプレー」の定義が曖昧であり、実は「良いプレー」を理解していないのかしれません。

倉本 本来は、試合に勝つために良いサッカーをし、良いプレーは勝率を上げることにつながらなければいけないはずですが……。

ランデル そこには「反動」があるのかもしれません。まともなサッカーをしてこなかったという負い目があり、その反動から「ボールにたくさん触ろう」となったのです。大きく針が触れる過程で多くの大事なことが失われたのかもしれません……。いずれによせ、私は今の流れに賛同できません。スペインにもボールを動かせるチームは増えましたが、多くのチームにはゴールが不足しています。

倉本 なぜ、だと思いますか?

ランデル 身も蓋もない言い方に聞こえるかもしれませんが、「前線のタレント不足」が1つの理由です。
 横にプレーするのは簡単ですし、誰でもできます。しかし、「縦にプレーできる選手(前にボールを運んだり、運べるようにする選手)」は貴重な存在です。私が言いたいのは、ペナルティーエリアで仕事をできる選手がいい、シュートを打てる選手がいい、といった単純なことではありません。問われるのは、プレーを前進させる能力の有無なのです。前進させる能力とは、例えば、相手のライン間に入ってプレーすることや中盤の中央に生まれたギャップやスペースを使って前に進めることを指します。相手に奪われないようにボールを横へ動かせたり、サイドで受けれたりする選手は多くいますが、縦パスを受けたり、出したりできるチャンスを逃さない選手は多くありません。私が言う「タレント不足」とはそういう意味です。
 タレントと表現すると希少なものと感じられるかもしれませんが、潜在的なものも含めれば、タレントは希な存在だとは考えていません。タレントの有無を論議する際、問題になるのは指導者の姿勢だと思うのです。指導者が選手をコントロールしようとし、創造性を引き出す手助けをしないことが問題なのです。現在は、コレクティブにプレーすることに集中しすぎるあまり、個人のタレントを大事にしない傾向があるように思います。確かに、選手に与えられるスペースは狭くなりましたが、そこを使える才能を持った選手は思っている以上に多いはずです。〈④終了。⑤へ続く〉

倉本:「なぜ、効果的にゴールに向かえないのでしょう?」

ランデル:「まず、ボールを動かす目的を知ることです」

画像: ランデル:「まず、ボールを動かす目的を知ることです」

左写真:ランデル・エルナンデス・シマル(LANDER HERNANDEZ SIMAL)/1976年、スペインのビルバオ生まれ。20年以上の指導キャリアを持ち、日本に関する知識も豊富。2002年からアスレチック・ビルバオの育成部でプロコーチとして働いている。また、選手向けのクリニックと指導者講習会で日本での指導経験もある。『スペイン公認上級ライセンス(日本のS級に相当)』保持者で、弁護士資格も保有している

右写真:倉本和昌(くらもと・かずよし)/1982年、広島県生まれ。広島市立舟入高校卒業後にスペインへ渡り、2009年に日本人最年少で『スペイン公認上級ライセンス(日本のS級に相当)』に合格し、同年、帰国した。湘南ベルマーレや大宮アルディージャの育成コーチとして活躍した。現在は指導者向けのセミナーを開催している

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