高校野球監督として2002年夏に久居農林高を、12年夏に松阪高を甲子園へと導いた松葉健司氏。いずれもそれまでに甲子園出場歴がなく、時間、場所、道具などに制約がある公立校で達成した快挙だった。
 現在、次世代リーダー育成会社「Human Freeman」の代表として人材育成に励み、『超集中で人は変わる 弱者を甲子園に導いたリーダーの能力を伸ばす最高の方法』(ベースボール・マガジン社)を上梓した松葉氏に、未来を担う若者たちの能力を最大限に引き出す指導のポイントを聞いた。(全3回)

※三重県内有数の進学校である松阪は2012年に甲子園初出場を果たした
写真:BBM

失敗をポジティブにとらえる

「最近の子どもは大人しい、ガッツがない」とは野球の指導現場でよく聞かれる言葉だが、松葉氏はそうした視点へ疑問を投げかける。現代の子どもたちが置かれている環境へ目を向け、そこから対処法を見いだすことが選手の自信を育むことになる。

 私は選手のバットのグリップテープがボロボロになっていても口を出すことはありませんでした。テープを巻き直すことで握りやすくなり、バットに力が伝わりやすくなることを選手自身に気づいてほしかったからです。

 よく野球は人間形成につながると言います。確かに、草を抜いてグラウンドを整備したり、道具を大事にすることは大切なことです。だからと言って人間形成を一番の目的としてしまうと、指導者は教師になり、結局、選手たちは指示どおり動くことになってしまいます。
 私はグラウンドでは選手の技術力向上のことだけを考えましたし、選手たちにもそのことに集中させました。そのために草を抜いたり、グラウンドを整備することが必要なのです。身近なことを整えるだけでも技術の向上につながる、だから道具や練習環境を大切にしなければいけないのだと分かるのです。雑念なく野球に集中する環境整備が自然と人間形成につながっていくものなのだと思います。

 セミナーなどでは経営者や保護者に「今の子は……」などと、昔と比べては絶対にいけないと伝えています。選択肢のなかった昔と生まれたときから物が溢れている現代とでは価値観が異なるのは当然です。昔と今が同じ条件ならば比較の上「それはダメ」と言えますが、環境や感覚など条件が異なっているのに「それはダメ」と言われると、今の子どもたちは納得できないでしょう。

 また、日本は戦後数回の好景気を経験していますが、いまの若者たちは生まれたときからずっと低迷した状態。頑張れば良くなるという経験がありません。さらに社会に寛容さがあったかつてとは違い、いまは些細なことでもSNSなどで非難されかねない時代です。公園でボール遊びをしてはいけない、騒いではいけないといった禁止事項も多い。そうした中で育った現代の若者は失敗の経験がなく、また失敗をしてはいけないという気持ちが強いと感じます。

 そうした選手たちに「失敗のスポーツ」でもある野球を指導する上では、失敗を意識させないことをポイントとしていました。
 例えばバッティング練習の代わりに似た動作のメディシンボール投げをさせます。選手たちは野球の練習では失敗したくないと硬くなりますが、こうしたメニューには遊び感覚で夢中になって取り組みます。そうするとバッティング技術は良くなくても、メディシンボール投げはうまい選手が出てくる。その選手にメディシンボール投げのコツをバッティングに結びつけて皆に講義してくれるよう頼むと、意欲的に話してくれます。
 こうして自信や意欲が生まれるとともに、自分は動作に問題はないのだからバットをボールに当てることが課題だと気づくのです。

 そうした上で、「失敗することを恐れるのはメンタルが弱いからではない、そのことを大事に考えているからだ。それは素晴らしいことではないか」と選手たちに伝えます。失敗をネガティブではなく、ポジティブなものとしてとらえられれば、試合での姿勢も変わっていくものです。
 

《PLOFILE》
松葉健司[次世代リーダー育成会社Human Freeman代表]
まつば・たけし/1967年三重県生まれ。松阪高―日本体育大。大学卒業後、三重県で公立高校教諭となる。野球部を指導し、2002年夏に久居農林高、12年夏に松阪高を、いずれも甲子園初出場に導いた。17年3月に退職し、次世代リーダー育成会社Human Freemanを設立。

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