※米国での定説を覆し、プロ転向後も引き続きハイレベルなパフォーマンスを見せるリデキー
写真◎Getty Images

 連載第7回で、女子自由形中長距離の女王、ケイティ・リデキーが今春プロ宣言したことをレポートした。このニュースは今でも米国水泳界で大きな話題となっており、リデキーがプロ選手としての初戦となったTYRプロスイムシリーズ・インディアナポリス大会で、いきなり1500m自由形で世界新記録(15分20秒48)をマーク、役者の違いを見せつけたことも影響している。

 読者の「もっとリデキーの話を聞きたい!」というリクエストもあり、プロ選手ケイティ・リデキーを今回、もう一段階深掘りする。

代理人はダン・レビー氏に

 リデキーの競泳選手としての大まかな経歴は前回の「グローバルウォッチ」に譲るが、リデキーはその後、ウォッサーマン・メディア・グループと契約し、代理人はダン・レビー氏が指名された。レビー氏は、これまで女子100mバタフライの元世界記録保持者であるダナ・ボルマーや女子100、200m平泳ぎの元世界記録保持者、レベッカ・ソニの代理人も務めている。筆者は前回のレポートで、若くしてプロになった米国の女子選手で、プロ選手として大きな成功をつかんだ選手がいないことを指摘した。リデキーサイドもこうした米国における女子プロ競泳選手の歴史は当然、研究し、代理人の選定を慎重に行なったと見られる。

 代理人は選手のために、ビジネス提案、スケジュール提案、スポンサーの獲得などの面で大きな役割を果たす。それだけに代理人が競泳を理解し、2年後に迫った2020年東京五輪に向けて、長距離を泳ぎ込むリデキーのトレーニングプログラムを理解することが必要不可欠。そのため、代理人の選定は、プロ選手になる上でもっとも重要な選択のひとつと言えるだろう。おそらく、同じカリフォルニア州で、ママ選手として現役を続けるボルマーやソニからも十分な情報を得た上での判断と見られる。

「(プロとしてもっとも重要なのは)私自身のトレーニング時間をしっかりと確保すること。私が今日、成功できているのはトレーニングによるものであり、その点でのフォーカスをぶらさないようにしたい」とリデキー自身も『スイミング・ワールド』誌(2018年6月号)に語っている。

 リデキーのプロ宣言は、2020年の東京五輪が当然視野に入ったうえでのものであり、その前後にはスタンフォード大を一時休学して、オリンピックへの準備を進める算段だ。2016年リオ五輪前にも、スタンフォード大への進学を遅らせて、オリンピックへの準備を進めてきた。彼女は、単に競泳で素晴らしいパフォーマンスを見せるだけでなく、スタンフォード大では学業面でも心理学を専攻し、成績もトップクラスにいると言われている。今では死語になりつつある「文武両道」を突きつめている。

水着の契約はTYRスポーツ社が獲得

 プロ選手としての契約の中で、もっとも注目されるのが、どの水着メーカーと契約し着用するのか、ということだが、6月8日、TYRスポーツ社が彼女との契約を発表した。その中で、TYR(ティア)社はリデキーとの契約は水泳業界の歴史の中で、「もっとも高額なものになった」とプレスリリースで発表している。プレスリリースに名前は出ていないが、あのマイケル・フェルプスを超える契約になっているものと推測できる。TYRの水着を着用している選手は、現在、ライアン・ロクテやボルマー、マット・グレバース、コディ・ミラーらのオリンピックメダリストがいる。

難しい所属チームとの調整

 プロ宣言について言えば、コーチのグレッグ・ミーハンの影響も大きい。ミーハンは「どのタイミングで、どのような形でプロになるか」という点で大きな役割を果たした。リデキーが引き続いて、スタンフォード大でミーハンからコーチングを受けることを望んでいる以上、それは当然ともいえる。しかし、スタンフォード大コーチとしての仕事は、大学水泳部をより高いレベルに引き上げることであり、プロ選手をコーチングすることではない。このことは、大学事務方や、既存のチームメートとも「調整」を必要とする。

 実際、ミッシー・フランクリンが過去にプロ選手になった経緯も今連載第8回で紹介したが、カリフォルニア大バークレー校から幾度もコーチを変更し、今年ジョージア大でトレーニングを開始した経緯を書いた。プロになるということは、選手本人だけでなく、コーチや既存のチームメート、チームの運営や文化にも影響を与える一大事なのだ。この点において、米国全体を今後引っ張っていくだろうと見られるミーハンが、スタンフォード大とリデキーのコーチングをどのように「両立」するかには注目が集まる。

 最近では、世界の男子競泳でもっとも注目を浴びているケーレブ・ドレッセルのコーチで、名伯楽として名高いグレッグ・トロイ氏がフロリダ大のヘッドコーチを引退し、プロ選手に集中してコーチングするというケースも出てきている。あのマイケル・フェルプスを始めとして、プロ選手が大学でトレーニングをするという構図は、トップコーチとプール施設が大学に集中している米国では、今に始まったことではない。しかし、大学コーチのプロ選手のコーチングの両立は、リデキーの「プロ選手化」で再び注目を浴びる展開となっている。

画像: どん欲に高みを目指し続けるリデキー。今後の動向にもますます注目 写真◎Getty Images

どん欲に高みを目指し続けるリデキー。今後の動向にもますます注目
写真◎Getty Images

 ミーハンは、「自分と代理人のレビー氏の両輪で、リデキーのスケジュール管理をしっかりやっていくことになる。(リデキーは)プロになったことで、彼女の生活はよりシンプルなものになるだろう」と前出の『スイミング・ワールド』誌に語っている。どういうことか? 2017年から2018年のシーズンにかけて、スタンフォード大女子水泳部は、長距離の移動を伴う8回以上の大学間試合や地域大会に出場している。もちろん毎春行なわれるNCAA(全米大学体育協会)が主催する全米大学選手権を含めてだ。まず、これがなくなる。そのことで、1月、2月には長水路(50mプール)で集中した泳ぎ込みができるようになる。

 しかし、ミーハンはNCAAでも忙しいため、スタンフォード大を離れることも多くなるはず。この「コーチがいなくなる」問題についてリデキーは、コロラド州にあるオリンピック・トレーニングセンターを活用する方針だ。そしてスタンフォード大進学前のコーチ、ブルース・ゲンメル氏のヘルプを得ることを想定している。ミーハンも「そうすることで、春の忙しくなるシーズンに、多忙で神経質にならなくていい」としている。

800m自由形で8分切りを目指しているのでは!?

 どれほどの良い成績を収めても、リデキーは満足しない。「自分をエキサイトさせる目標設定が本当に大切だと思う。高い目標設定をすることを難しいと思ったことはない。次の数年間の目標もすでに設定した。達成するための通過地点でのゴール設定も含めて、です。私は、そのロードマップにこだわっていく」とリデキー。

 レースも私生活も「高い目標を設定し、高いレベルで安定させる」というのがリデキーの考え方であり、これを米国では「コンシステンシー:consistency」という。競泳人生の中盤に入っていく中で、周囲から与えられたものではなく、リデキー自身の言葉で語っている。

「ここ2年くらいで、私はすごく多くのことを学んだ。周囲が求めることに合わせるのではなく、私自身が達成したいことにフォーカスしたい。それにはトレーニングと自分自身への規律が必要になる。これからも、多くの試練や学びを経験していくのだと思う。そのときに、自分の中心にある軸は、しっかりとしたものにしたい。そう、あまり高すぎることも、低すぎることもなく」

 リデキーは性格的には静かで、個別の具体的な目標を仰々しく語るタイプではない。しかし、「高い目標を自分で設定し、そのプロセス管理を自己で行なう努力能力」において、他を圧倒しているように見える。これは筆者の全くの個人的な推測だが、記録的には、女子800m自由形で8分切り、1500m自由形で女子選手初の15分を突破する目標設定とそのイメージが見えているのではないか――それを通じて、女子競泳そのもののレベルを大きく引き上げる。もしそうなら、プロ競泳選手、ケイティ・リデキーの2020年東京五輪への戦いは、より一層の刺激とインパクトを放つことになる。

★リデキーの400m自由形
 彼女が持つ現在の世界記録は3分56秒46で、2016年リオ五輪で樹立したもの。2位のジャズミン・カーリン(英国)に4秒77の大差をつける快泳だった。リデキーは現在、世界歴代10位までのすべての記録を占めている。

★リデキーの800m自由形
現在のレデキーの世界記録は、8分4秒79で、これもリオ五輪で樹立したもの。このレースでは2位のカーリンに11秒もの大差をつけたことが話題になった。

★リデキーの1500m自由形
今年のTYRプロシリーズ・インディアナポリス大会で15分20秒48の世界新をマークしたばかり。リデキーはこれまで15分30秒以内で4度泳いでいる。

文◎望月秀記

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