ベスト4が出そろい、ロシア・ワールドカップは残すところあと4試合。
 前評判通りの活躍ができなかった選手もいるが、シュートにパスに決定的な仕事をこなしたベルギー代表のケビン・デブライネやドリブルからチャンスを数多くつくったエデン・アザール、驚異的なスピードを見せたフランス代表のキリアン・エムバペなどが個の特徴を最大限に発揮し、チームの勝利に貢献した。
 では、日本の指導者はワールドカップを沸かすような彼らが持っている「個性」をどのように見ているのか? そして、日本人選手の「個性」に対しては? 
「『個性』に対する接し方を考える」をテーマに、東京ヴェルディや京都サンガF.C.などで監督を務め若手育成に定評があり、サッカー解説でもおなじみの川勝良一氏に話を聞いた。
(出典:『サッカークリニック』2018年7月号)

※上のメイン写真=ベルギー代表のケビン・デブライネ(マンチェスター・シティ)。ロシア・ワールドカップの準々決勝ブラジル戦では美しいミドルシュートを決めた
写真/gettyimages

脅威を与えるまで
「個性」を高める

――「個性」とは何だと認識していますか?

川勝 私は個性という言葉に「人とは違うもの」、「人より目立つもの」という認識を持っていますが、個性という言葉はどちらかと言うと性格面を表すときによく使います。サッカーにおいては、個性という言葉よりも「特徴」という言葉を使うことのほうが多いかもしれません。ただし、「人と違うもの」はただ持っているだけでは何の役にも立ちません。性格が変わっているだけだったり、プレーが独特だけれど試合で活かせなかったりでは、意味がないのです。チームを勝たせられるような「武器」にしなければ、個性的なプレーや特徴的なプレーに価値はないと思います。例えば、「ドリブルが得意」と言うのであれば、相手を抜いてチャンスにつなげたり、シュートを決めたりしなければいけません。抜いたあとに普通にパスしているだけであれば、最初からパスしておけばいいのです。「人とは違うもの」、「人より目立つもの」が武器にならなければいけません。

――「ゴールを奪う」という目的を踏まえたプレーがしっかりできる選手が、個性的、かついい選手と言えるのですね。

川勝 そうでないと、「個性的」や「特徴的」と表現されたとしても、選手として評価されません。ただ分類されているだけだと思います。相手に脅威を与えられるレベルまで「個性的」、かつ「特徴的」な選手にならなければいけません。加えて、指導者が最も気をつけるべきは、「『個性』が『個性』を消してしまう可能性がある」ということです。もともと持っている性格がプレー上の特殊な個性を近い将来に消してしまうことがあるのです。

――例えば、スピードがある選手が行き詰っているときはどのように指導しますか?

川勝 当然、スピードがある選手は相手に警戒されます。しかし、常にスピードを上げてプレーするような選手は相手の目も慣れ、対応されやすくなります。そうではなく、スピードをより速く見せる方法を身につけられるといいでしょう。最初から80から90くらいの感覚でスタートしていると、100までの差は10から20くらいしかありません。それを20から30くらいの感覚でスタートしてから100に上げるイメージでプレーできると、100までの差が大きい分、相手に対応されにくくなります。
「飛び抜けて速い」というのであれば話は別ですが、サッカーは足でボールを扱うスポーツです。「ボールを扱えた上でスピードがあるか、どうか」という視点で私はスピードのある選手を見るようにしています。スピードはあるけれど、ゴール前でのコントロールが悪く、シュートまでもっていけないのであれば意味はありません。陸上競技ではないのですから、ただ走るスピードだけ速い、では相手に脅威を与えられません。スピードがあるけれど、コントロールした瞬間にミスしてしまう選手には、「そのスピードまで上げる必要はない」と私は言うでしょう。

画像: ブラジル代表の右ウイング、ウィリアン⑲(チェルシー)。「スピードを上げて走っている状態でのファーストタッチが抜群」という選手の1人として川勝氏は名前を挙げた 写真/gettyimages

ブラジル代表の右ウイング、ウィリアン⑲(チェルシー)。「スピードを上げて走っている状態でのファーストタッチが抜群」という選手の1人として川勝氏は名前を挙げた 写真/gettyimages

――スピードのある選手はスピードの出し方が大切なのですね。

川勝 サッカーはチーム・スポーツです。1人でやるものではありません。周りとの兼ね合いも大切です。そしてスピードの出し方を意識してプレーできなければいけません。「周囲との兼ね合い」と「ボール扱い」が合致して初めて、スピードが武器となるのです。

――スピードはあるけれど、ボール扱いのうまくない選手がいたらどうアドバイスしますか?

川勝 まずは「どのくらいのスピードであれば、いかなる局面でもボールを操れるか?」を考えなければいけません。その上で、「どのくらいのスピードでボールに触るか?」を考えます。「トップ・スピードでボールに触っても大丈夫か?」、「スピードを少し落としたほうがいいか?」、「ファーストタッチでは左右どちらに流すか?」などといったことに神経を注ぐようにすべきです。
 プレミアリーグで言えば、モハメド・サラー(リバプール)やレロイ・ザネ(マンチェスター・シティ)、ウィリアン(チェルシー)などは、スピードを上げて走っている状態でのファーストタッチが抜群です。少し速いだけの選手は世界中にたくさんいますが、彼らのようにトップレベルでもスピードをうまく活かしてやれている選手はごく僅わずかです。周囲をよく見てスピードをうまく出せるようにしなければいけません。

――例えば、スピードのある選手のボール扱いを磨くとしたら、どんなメニューを与えますか?

川勝 グリッドを狭くした数的同数でのポゼッションがいいと思います。ゴールを設置せず、しかも周囲に敵(相手)が常にいるためにスピードを上げにくい状態で、コントロールと状況判断に神経を注がせるようなメニューです。これを毎日行なっていいコントロールを習慣づけてほしいです。

画像: エジプト代表のモハメド・サラー⑩(リバプール)。ロシア・ワールドカップではグループステージ敗退となったが、2017-18シーズンのプレミアリーグ得点王。スピードとテクニックで相手守備陣を翻弄する 写真/gettyimages

エジプト代表のモハメド・サラー⑩(リバプール)。ロシア・ワールドカップではグループステージ敗退となったが、2017-18シーズンのプレミアリーグ得点王。スピードとテクニックで相手守備陣を翻弄する 写真/gettyimages

「うまい」ではなく
「怖い」選手になる

――(ロシア・ワールドカップに出場できなかったものの、)3月の日本代表の試合で活躍した中島翔哉・選手(ポルティモネンセSC)が東京ヴェルディで2種登録されたのが2012年で、当時は川勝さんが指導していました。中島選手は「個性」という面でどんな選手でしたか?

川勝 東京ヴェルディで彼を見ていたときは一度も怒ったことがありません。それこそ、個性というか、性格面で言えば、サッカーにすべてを懸けているような選手でした。

――「あえて怒らない」ではなく、怒るところがなかったのでしょうか?

川勝 そうですね。サッカーに取り組む姿勢に関しては怒るところがまったくありませんでした。
 プレー面で言えば、彼はシュートを打つのが好きで、シュートに関してはトップチームの誰よりもいいものを持っていました。ただし、シュートに至るまでのドリブルやパスにまだ課題があったため、「ドリブルやパスをきちんとできないと、好きなシュートの場面までいけないよ」とよく言ったものです。そういったこともあって、私が監督在任中はトップ・デビューをさせなかったのですが、キャンプにつれて行ったり、平日であってもトップの練習に入れたりしていました。

画像: 海外移籍1年目ながら、2017-18シーズンはポルトガルのポルティモネンセSCで10得点の好成績を収めた中島翔哉。日本代表の次代を担う男の1人として期待される 写真/gettyimages

海外移籍1年目ながら、2017-18シーズンはポルトガルのポルティモネンセSCで10得点の好成績を収めた中島翔哉。日本代表の次代を担う男の1人として期待される 写真/gettyimages

――意欲的に練習に取り組める選手だったのですね。

川勝 2012年当時はユース所属の選手でした。平日は午前にトップチームで練習し、午後はトップチームの若手と共に練習し、そして夕方からはユースの選手として練習に出たりしていました。しかも彼は、午後練習が終わったあとに1人でシュート練習も行なっていたほどです。こちらのほうから「もうやめてくれ」とお願いしたくらい、彼は「練習の虫」でした。

――最後に、若手を試合で使うときの基準を教えてください。

川勝 2つあります。1つ目は明確な武器を持ち、それを理解し、その武器を使えることです。2つ目は、「トップの試合でも通用するかもしれない」という指導者としての勘が「5:5」くらいまで達したときです。「4:6」くらいの感覚ではまだ使いづらかったです。例えばユースの試合を見たとき、点をとれるポジションにうまくいると感じたり、ゴールを決めるコツを知っていると感じたりしたら、トップの試合で使ってみるようにしていました。

――個性や特徴が「武器」になったときに初めて、トップの試合で使えるようになるのですね。

川勝 ある選手のことを「彼はここがいい」と伝えられるようになれば、それが選手の個性や特徴になると思います。例えば、「小林祐希選手(SCヘーレンフェーン)の左足フリーキックの威力はすごい」というのは誰でも答えられると思います。逆に、誰でも答えられるようでないと個性とは言えないでしょう。さらに、選手が試合に出られるようになるのは、個性や特徴が武器として通用する段階に達したときです。
「器用→うまい→怖い」という3段階が選手にあるとします。「うまい」選手は数多くいますし、「器用」な人はそこら辺の公園にもたくさんいることでしょう。現在テクニカルアドバイザーとして指導にあたっている拓殖大学の選手にも話していますが、「怖い」と言われる選手にならなければいけません。加えて、今のJリーグには個性のある面白い選手が少なくなっていますが、1人でも「怖い」選手がいたら、お金を払ってでも試合を見に行ってほしいとも思っています。

取材・構成/髙野直樹

画像: 川勝良一氏(BBM)

川勝良一氏(BBM)

Profile
川勝良一(かわかつ・りょういち)/1958年4月5日生まれ、京都府出身。現役時代は読売クラブ(現在の東京ヴェルディ)などでプレー。日本代表として13試合に出場した。91年に現役から退き、育成年代の指導にあたったあと、97年にヴェルディ川崎(現在の東京ヴェルディ)、99年にヴィッセル神戸、2006年にアビスパ福岡、10年に再び東京ヴェルディ、14年に京都サンガF.C.と、トップチームの監督を歴任。現在はJリーグや海外試合の解説を行なうほか、拓殖大学でテクニカルアドバイザーを務めている

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