近年の夏の気温上昇とともに、サッカーの現場では「熱中症対策」が議論されるようになっている。日本サッカー協会は『熱中症対策ガイドライン』を発表するなど熱中症対策に力を入れており、熱中症対策に関してよく学んでいる指導者が増えてきた。ここでは、熱中症の予防に欠かせない「水分補給」をクローズアップ。水分補給の大切さや水分の正しい補給方法などを、立教大学の安松幹展・教授に聞き、3回に分けてお送りする。その1回目は「水分補給の具体的なポイント」について。
(出典:『サッカークリニック』2017年8月号)

※上のメイン写真=8月に行なわれた試合のハーフタイム。扇風機の風を浴びながら水分をとる選手たち
写真/佐々木萌

1回に飲む水分量は
最大で250ミリリットル

――そもそも、なぜ運動中に水分補給が必要なのでしょうか?

安松 運動をすると体温が上昇し、汗をかきます。その汗が蒸発する際に熱を発散することで、上昇した体温を下げようとします。汗は言うまでもなく水分であり、発汗すると体内の水分は失われていきます。そこで失われた水分を補給しなければ、どんどん水分が減っていって脱水状態に陥ります。過度な脱水になると筋肉が痙攣したり、失神したりし、深刻な場合は、命にかかわる重傷事故になることもあります。
 また、脱水はパフォーマンスにも影響を及ぼします。ACSM(アメリカスポーツ医学会)やIAAF(国際陸上競技連盟)、NCAA(全米大学体育協会)などが発表している指針にも「パフォーマンスの低下を防ぐためには、体重の減少を2パーセント以内に抑えるべきである」と明記されています。
 下の図は「発汗量とパフォーマンスの低下の関係性」を表したグラフです。グラフを見ると、脱水のレベルが進むにしたがってパフォーマンスも落ちていくことが分かります。体の機能不全を防ぐためだけでなく、パフォーマンスの低下を防ぐためにも、水分補給が必要なのです。

画像: ――そもそも、なぜ運動中に水分補給が必要なのでしょうか?

――運動中、実際にどれくらいの水分が失われるのでしょうか?

安松 以前、サッカーのプレー中に失われる水分を年代別に調査した結果、ジュニア年代の場合は2時間程度の練習でも体重の1パーセント未満に収まっています。しかし、中学年代になると夏の試合では2パーセントを超えるようになり、高校年代はほとんどのケースで2パーセントを超えます。つまり2パーセントは、普通にサッカーをしていれば簡単に超えてしまう数字と言えます。
 体重の2パーセントの水分といえば、50キロの選手なら1リットルということになります。中には汗をかきやすい選手もいますし、ポジションによっても発汗量は違います。そう考えれば、かなりの量を補給する必要があることが分かると思います。まずは、自分がどれくらい水分を失っているかを実感するために、プレーの前後で体重を計ってみるといいでしょう。

画像: 年々気温が上昇する中、「熱中症」や「水分補給」に対する指導者の関心度は高まっている 写真/松村真行

年々気温が上昇する中、「熱中症」や「水分補給」に対する指導者の関心度は高まっている 写真/松村真行

――脱水によるパフォーマンスへの影響はどの程度ありますか?

安松 体重の2パーセントを超える水分が失われると、パフォーマンスはだいたい20パーセントほど落ちると言われています。ある実験では、スプリントのタイムが平均で0・1秒ほど落ちたり、ジャンプの高さも数センチ程度落ちたり、という結果が出ました。瞬発系の能力と持久系の能力という点で言えば、スプリントなどの瞬発系の動きは本来気温が高いほうがパフォーマンスは上がりますが、その動きを繰り返す力(「高強度パフォーマンス」という言葉が最近では使われている)は脱水によってどんどん落ちていきます。サッカーで求められるのはまさにこの能力です。例えば、「試合後半に裏に抜け出す」といったプレーに影響してきます。

――水分補給の具体的なポイントを教えてください。まず、どれくらいの水分(量)を飲むべきなのでしょうか?

安松 「減ったぶんだけ補給する」というのが基本的な考え方です。減少の仕方は個人差があるので一概には言えませんが、おおまかな目安は以下の通りです。胃に入った水分が移動して腸で吸収される際、だいたい15分で250ミリリットルの水分が胃から腸へ移動します。そう考えると、15分間に250ミリリットル以上飲んでしまった場合、水分の移動が間に合わずおなかがタプタプになってしまいます。そのため、1回に飲む量としては最大で250ミリリットル程度がいい、ということが言えると思います。
 また、適切な水分量は「1回で飲む量」と「運動中のトータルで飲む量」の両面で考えなければなりません。まずは運動の前後で体重を計って2時間の運動中に必要なトータルの水分量を把握し、それを数回の給水タイムでこまめに分けて補うと考えていけば、1回あたりに飲む量を具体的に計算できます。
 なおこの数値は、「喉が乾いた」と感じる感覚とはかけ離れているので注意が必要です。喉の渇きを感じるのは、一般的に体重の2パーセント近い水分が失われたときと言われています。つまり、喉が渇いたと感じたときは、すでに脱水でパフォーマンスが落ちかけているのです。「喉が渇く前に飲みなさい」と言われるのは、このためです。
※2回目に続く

(取材・構成/直江光信)

画像: 水分補給の具体的なポイントを話してくれた立教大学の安松幹展・教授 写真/BBM

水分補給の具体的なポイントを話してくれた立教大学の安松幹展・教授 写真/BBM

<講師プロフィール>

安松幹展(やすまつ・みきのぶ)/横浜国立大学卒業。横浜国立大学大学院教育学研究科修了。東京都立大学(現在は首都大学東京)大学院理学研究科修了。博士(理学)。平成国際大学スポーツ科学研究所助手を経て、2011年より立教大学コミュニティ福祉学部スポーツウエルネス学科教授(現職)。専門は運動生理学で、現在はサッカー選手におけるコンディショニング、パフォーマンス分析を主なテーマにしている。日本サッカー協会技術委員会フィジカルフィットネスプロジェクトメンバー。アジアサッカー連盟フィットネスコーチインストラクターとして、選手及び指導者に対するコンディショニングサポートを行なっている。「日本スポーツ協会「スポーツ活動中の熱中症事故予防に関する研究」研究班員」

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