近年の夏の気温上昇とともに、サッカーの現場では「熱中症対策」が議論されるようになっている。日本サッカー協会は『熱中症対策ガイドライン』を発表するなど熱中症対策に力を入れており、熱中症対策に関してよく学んでいる指導者が増えてきた。ここでは、熱中症の予防に欠かせない「水分補給」をクローズアップ。水分補給の大切さや水分の正しい補給方法などを、立教大学の安松幹展・教授に聞き、昨日(7月18日)から3回に分けてお送りしている。その2回目は「水分を摂るタイミングと飲み物の種類」について。
(出典:『サッカークリニック』2017年8月号)

上のメイン写真=2年前の8月に広島で行なわれたインターハイ決勝。昨年、宮城で行なわれたインターハイ期間中は気温がそれほど上がらなかったものの、インターハイの開催日程(今年は三重で8/7から8/13まで実施)については毎年のように議論されている 写真/佐々木萌

メニューを1つ終えたら
水分補給を行なう

――水分を摂るタイミングについてはいかがでしょうか?

安松 胃から腸へ移動する速度を考慮すると、15分程度に1回が適切だと思います。サッカーのトレーニングでは、1つのメニューがだいたい15分ほどで行なわれると思いますが、その間に「自由に水を飲んでいい」とすると、プレーがブツ切れになって集中できなくなってしまいます。そう考えると、1つのメニューごとに水分補給をするのが、最も効率的、かつ適切なやり方だと思います。逆に間隔が30分以上あいてしまうと水分補給が間に合わなくなります。できれば避けたほうがいいでしょう。

――「15分おきに250ミリリットル飲む」というのが、理想的な水分補給と言えるかもしれませんね。

安松 以前、15分ごとに5分ずつ休憩をとってこまめに水分を補給したグループと、60分連続で練習したあとに20分の休憩をとって水分を補給したグループを比較したことがありました。どちらも60分の運動時間に対して休憩時間は20分で、補給した水分量はトータルで1リットルくらいだったのです。しかし、15分ごとに休憩したグループは誰一人体調不良者が出なかったのに対し、60分練習して20分休憩したグループは、休憩後の練習で気分が悪くなる選手が数人出ました。
 十数年前の話になりますが、それを見て、60分連続で練習したグループの指導者は「ほら、水を飲むと気持ち悪くなるんだよ」と選手たちに発言しました。これは大きな間違いです。20分間に1リットルもの水分を飲めば、おなかがタプタプになって気持ち悪くなるのは当然です。別の調査では「試合中、15分ごとに水分補給したグループのほうが良かった」という結果も出ました。ただ飲めばいいのではなく、飲み方も大事だということが分かると思います。

画像: 試合中の「飲水タイム」でしっかり水分を摂ったり、頭に水をかけたりしている選手たち 写真/窪田亮

試合中の「飲水タイム」でしっかり水分を摂ったり、頭に水をかけたりしている選手たち 写真/窪田亮

――飲み物の種類(内容)で気をつける点はありますか?

安松 運動が(気温や湿度にもよるが)1時間を超える場合は真水よりスポーツドリンクがいいでしょう。理由の一つは、ナトリウムなどの電解質が含まれているからです。汗をなめるとしょっぱいことからも分かるように、発汗すると水分とともに塩分(ナトリウム)も失われます。失われた塩分を補給しないまま水ばかり飲み続けると『低ナトリウム血症』、いわゆる「水中毒」と呼ばれる状態に陥ります。低ナトリウム血症になると倦怠感や吐き気を感じたり、重症の場合は呼吸困難や意識障害を起こしたりすることもあります。
 また、スポーツドリンクには糖質も含まれています。補給した水分が腸で吸収される際、糖分が含まれていたほうが吸収されやすくなります。理想としては2パーセントから8パーセントの間の糖分を含んでいるものです。逆に8パーセントを超えるようなものになると、今度は水分が吸収されにくくなるので避けたほうがいいでしょう。最近では、さまざまな種類の糖質が含まれているほうがいいということも言われています。
 ときどき、「スポーツドリンクは甘すぎて口がベタベタする」という理由で、水で薄めて飲んでいる人がいますが、お勧めできません。スポーツドリンクはもともとナトリウムや糖質などの割合を考えてつくられており、薄めてしまうとナトリウムや糖質などが薄まってしまいます。もし甘すぎて飲みにくい場合は、糖質の少ないスポーツドリンクを選ぶようにするといいでしょう。

――飲み物の温度で気をつける点はありますか?

安松 さまざまな議論がされていますが、最近の研究では、パフォーマンスにはあまり影響がないと言われています。体温に近い温度の飲み物よりは冷たいほうが胃から腸への排出速度が速いというデータがありますが、一方であまり冷やしすぎてしまうと、体温を下げる代わりにおなかが痛くなってしまう危険性があります。だいたい、5度から15度の間で自分の飲みやすい温度にするのがいいでしょう。

――水分補給の重要性を認識していても、実際に練習や試合で正しい方法を実践するのは難しいものです。選手たちに実践させるためには、どのようにアプローチしていくのがいいのでしょうか?

安松 まずは運動の前後に体重を計り、体重の減少量を認識させるのが最も分かりやすいと思います。体重の減少によってパフォーマンスも落ちることを理解すれば、自然と意識は高まるはずです。安全対策を強調するよりも、「パフォーマンスに影響する」と言ったほうが選手には響くはずです。また、運動中に適切な量を自分で判断して飲めるように、普段から意識して取り組むことも大切です。ケガなどでプレーが止まったときに、さっと近くの飲み物を飲みに行くようなことを練習中から習慣づけていくといいと思います。
※3回目(最終回)に続く

(取材・構成/直江光信)

画像: 水分を摂るタイミングや飲み物の種類などについて話してくれた立教大学の安松幹展・教授 写真/BBM

水分を摂るタイミングや飲み物の種類などについて話してくれた立教大学の安松幹展・教授 写真/BBM

<講師プロフィール>
安松幹展(やすまつ・みきのぶ)/横浜国立大学卒業。横浜国立大学大学院教育学研究科修了。東京都立大学(現在は首都大学東京)大学院理学研究科修了。博士(理学)。平成国際大学スポーツ科学研究所助手を経て、2011年より立教大学コミュニティ福祉学部スポーツウエルネス学科教授(現職)。専門は運動生理学で、現在はサッカー選手におけるコンディショニング、パフォーマンス分析を主なテーマにしている。日本サッカー協会技術委員会フィジカルフィットネスプロジェクトメンバー。アジアサッカー連盟フィットネスコーチインストラクターとして、選手及び指導者に対するコンディショニングサポートを行なっている。「日本スポーツ協会「スポーツ活動中の熱中症事故予防に関する研究」研究班員」

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