Playbackシリーズ「突撃! 研究室訪問」第4回は、神奈川県立保健福祉大学・鈴木志保子教授の研究室に突撃!
スポーツ栄養の分野で現場主義を貫く研究室にお邪魔しました。
--※本稿は『コーチング・クリニック』の連載「突撃!研究室訪問」第4回として、2011年4月号に掲載したものを再構成したものです。

「真の栄養サポートとは…」を証明

鈴木教授の研究室はいつも溌剌として活気に満ちている。それはなんといっても、鈴木教授の人柄によるところが大きい。優しさと同時に豪放磊落な一面も併せ持つ“男前”な性格は、まるで1人1人に“元気”を分け与えているかのようだ。そしてこのパワフルさとスポーツ栄養に対する信念が、この研究室から発信され、斯界に大きな一石を投じ、変革させつつある原動力になっている。

その実績の1つが、北京オリンピック(2008年)で金メダルを獲得し、日本人に大きな感動をもたらした女子ソフトボール日本代表に対する栄養サポートである。

「それまで、栄養サポートといえば、レクチャーを中心とした座学系が主流でした。しかし、それだけではなかなか成果は上がらない。そこで、現場の指導陣や選手たちとの意思疎通を図り、チームもしくは個人の目的を明らかにした上で、その目的に向かって計画的に取り組むマネジメントの必要性を、北京オリンピックの15年くらい前からずっと唱え続けていたのです。ところが、栄養関係者から『あなたのやっていることはコンディショニングコーチの役割であって、栄養サポートの域を超えている』という指摘を受け、悩んだこともありました」

 しかし、自らの信念を曲げることはなかった。いや、むしろ鈴木教授には逆境をエネルギーに変える資質があった。06年、女子ソフトボール日本代表の栄養サポートという千載一遇のオファーに対し、金メダルという実績を勝ち取ることで、スポーツ栄養マネジメントの必要性を実証してみせたのである。まさに信念を貫いた結果の成果であり、それによってそれまで傍流といわれていたサポート法が、いまや主流になりつつあるのだという。

スポーツ栄養の普及・発展に尽力

神奈川県立保健福祉大学は、03年4月1日開学。鈴木教授も開学と同時に着任した。

「今年で16年目ですから、3月で第13期生を送り出したことになります。それ以前の私は、京都産業大学女子陸上競技部のコーチを経て、鹿屋体育大学で教鞭を執っていました。ところが、スポーツ栄養を志したいという希望を抱いた学生に出会ったとき、まず管理栄養士という資格が必要になるのですが、体育大学ではその資格を取得することができない。私は、常々自分と同じマインドをもった後継者を育てたいと思っていました。そんな折、本学が新設されるというのでアプライしたら、幸いにも受け入れていただいたというわけです」

大学には、鈴木教授が敬愛する中村丁次教授(現学長)の着任が決まっていたことも、アプライする大きな動機づけとなっていた。

「20年ほど前、スポーツ栄養を本気でやりたいと思ったとき、当時の管理栄養士の間では、まず病院における管理栄養士の質が最も高く、スポーツ栄養に対する位置づけは歯牙にもかけられないという扱いでした。だから、なんとしてもスポーツ栄養の質向上に努めたいと。そのためには、中村先生の下であれば、必ず力になっていただけると思っていたのです」

もともと、鈴木教授が“スポーツ栄養”に目覚めたのは、高校生のとき。自宅が東京国際マラソンや箱根駅伝のコースのそばで幼いときから沿道で応援していたことに起因する。

「痩せた選手がどうしてこんなにすごいスピードで走っているんだろう。運動している人の身体って不思議だな、と。また、高校時代にはゴルフ部だったのですが、“上がり3ホールに弱い女”といわれていて(笑)、終盤に崩れてしまうのは、どうやら栄養と関係があるみたいだ、と。当時は、まだ“スポーツ栄養”という言葉はなく、どうしたらそういう仕事に就けるのかと調べたり、聞いてみたりすると、管理栄養士になればいいということがわかったというわけです」

スポーツ栄養の究極版

取材に訪れた日は、横須賀市消防局の協力のもと、『消防士の災害現場における水分補給法の確立に関する研究』の実験が実施されていた。これは鈴木教授が総務省に応募し、採択された委託研究だという。

「神奈川県の消防学校で水分補給法に関する講義を行ったことがきっかけとなり、5年前からスタートした研究です。実は、消防士の方々は、火災現場で水分を補給しようとすると、市民から『こんな非常事態のときに、どうしてのんきに水なんか飲んでいるんだ』という非難を受けることがたびたびあるそうです。そこで、研究データとして、作業中に水分補給することが消火作業を続ける上で大切だということを証明してもらいたい、という要望でした。彼らは決して声には出さないけれど、熱中症になっていることがわかりました。究極の熱さのなかで、防火服を身にまとい、酸素ボンベを背負っているわけですから、これでは脱水にならないほうがおかしい。ましてや、出動はいつになるかわかりません。夜でも昼でも、暑くても寒くても、それは不意にやってきます。そういう意味では、計画的に取り組む環境が整っているスポーツ現場とは全く異なります。まさに、スポーツ栄養の究極版の社会貢献といえるのではないでしょうか」

 鈴木教授は、NPO法人日本スポーツ栄養研究会会長という要職を、09年7月から15年7月まで務めた。現在もスポーツ栄養を主軸に、さまざまな仕事に忙殺される毎日だが、それでも可能な限り現場主義だけは貫きたいという。なぜなら「それが、私が私である証しだから」。

画像: 『消防士の災害現場における水分補給法の確立に関する研究』で、協力を仰いだ横須賀市消防局の方々と(当時)

『消防士の災害現場における水分補給法の確立に関する研究』で、協力を仰いだ横須賀市消防局の方々と(当時)

Profile

すずき・しほこ

神奈川県立保健福祉大学保健福祉学部栄養学科教授。公認スポーツ栄養士。実践女子大学卒業後、同大学大学院修了。国立健康・栄養研究所研修生を経て東海大学大学院医学研究科を修了、博士(医学)。アスリートたちの栄養指導の経験も豊富。著書に『基礎から学ぶ スポーツ栄養学』『仕事メシ入門』(ともに小社刊)。

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