2011年度、ジュニア年代(U-12)の全国大会である『全日本少年サッカー大会』が11人制から8人制となった。以来、指導現場ではさまざまなことが議論されており、トレーニングや試合を通して感じているメリットやデメリットが各チームにあるようだ。ここでは、11年度の8人制移行時に力を尽くした人物の一人であり、現在は日本サッカー協会(JFA)でユース育成ダイレクターを務める池内豊氏に、さまざまな疑問を投げかけた。現在、8人制導入において感じている効果や課題は何だろうか?
(出典:『ジュニアサッカークリニック2018』)

※上のメイン写真=2017年度の『全日本少年サッカー大会』決勝 写真/佐藤博之

勝利優先の考え方は
いい影響を与えない

――少年サッカーに8人制が定着してきました。一方で、良くも悪くも指導者側が8人制に慣れてきて「8人制のための戦い方」が広まっている印象もあります。

池内 『全日本少年サッカー大会』(以下、全少)が2011年度から8人制になり、8人制が広く定着したのは確かなことだと思います。一方、競技会(大会)で指導者たちが「選手たちに勝たせてあげたい」と思い、「8人制で勝つためのサッカー」になってきている面があるのは否定できません。もちろん目の前の勝負にこだわる姿勢はすごく大切なことですが、指導者や保護者が先頭に立ってやりすぎてしまうのは良いとは思っていません。この思いに関しては多くの人に賛同してもらえると思います。

――とは言え、アプローチに良い、悪いはあるにしても、「勝ちたい」と思う指導者がいるのも自然なことだと思うのです。

池内 愛情があるからこそ、指導者は「勝たせてあげたい」と思うわけです。その気持ち自体はとても分かります。一方、「勝ちにこだわる姿勢」は選手にも必要なものと言えます。
 しかし、勝利優先になるのはどうなのでしょうか……。あるいは、勝利を優先するために攻守分業のサッカーになるようでは選手育成にいい影響を与えるとは思えないのです。

――では、8人制を導入した世代が高校生になりましたが、変化や効果の実感はありますか?

池内 8人制を導入した当時の世代が中学生になったときの『エリートプログラム』で早くも変化を感じていました。特に、攻守においてボールに関わり続ける意識がすごく高かったのです。『8人制世代』などという名前がつくのではないか、という話をスタッフたちとしたのを覚えています。

――それは、「それまでの選手たちとは意識が違う」ということでしょうか?

池内 そういうことだと感じています。また、2017年の『日本クラブユース選手権(U–18)大会』の検証では、ゴールキーパーが積極的に関わっているということが見えてきました。攻撃に自然に関われていたのです。こうした傾向も8人制の効用ではないか、という話が出ていました。

――一方、現行ルールによる8人制では「小柄な選手が試合に出られなくなっているのではないか?」という声も聞きます。

池内 実は、そうした懸念を私たちも持っています。そのため、多くの選手が競技会でも出場機会を得られるような働きかけをいろいろな形でするようにしています。しかし、「勝たせてあげたい」、「勝ちたい」という思いを完全には払拭できないのか、なかなか難しいと感じています。
 とは言え、「仕方ない」と諦めているわけではありません。『3ピリオド制』(例えば、ファースト・ピリオドとセカンド・ピリオドでは選手を総入れ替えし、サード・ピリオドは自由に選手起用可能)のようなシステムを公式戦でも導入していく考えもあると思います。あるいは、各種リーグ戦にセカンド・チームを積極的に出してもらうことでサブの選手に出場機会を与える、というアプローチも効果があると思います。
 高い潜在能力を秘めていながらも、身体的な成長の遅い子供たちがサッカーをプレーできない、というのが最も大きな問題だと認識しています。今後も、そうした問題や状況を改善できるようにしていきたいと考えています。

――現場には、8人制ではわずかな失敗がゴールに直結するため、「リスクが大きくて子供がチャレンジしなくなる」という意見もあります。

池内 ゴール前の攻防が増えるというのは8人制における1つのメリットです。そしてわずかなミスがピンチを招くというのはある意味で事実でしょう。
 しかし、「子供たちがチャレンジしなければ試合に勝てる」というものでもないでしょう。また、リスクを回避する本当の能力やピンチからリカバーする力は試合でチャレンジしてみなければ、身につかないものだと思うのです。選手育成という本来の目的に立ち返れば、「リスクとチャレンジ」に関して違った考え方が生まれると感じています。

画像: 2017年度の『全日本少年サッカー大会』決勝では、セレッソ大阪(白)が北海道コンサドーレ札幌(赤黒)を2-1で下し、優勝を果たした 写真/佐藤博之

2017年度の『全日本少年サッカー大会』決勝では、セレッソ大阪(白)が北海道コンサドーレ札幌(赤黒)を2-1で下し、優勝を果たした 写真/佐藤博之

「3ピリオド制」に
課題解決の可能性

――「8人制の導入で公式戦を経験する選手が単純に減ったのでは?」という疑問もあります(下の表1を参照)。

池内 「(11人制に比べれば)8人しか出られないじゃないか」という批判があるのは十分に承知しています。ですから、チーム関係者の方々には多くの負担(スタッフの人数増や試合増)を強いることになるかもしれませんが、セカンド・チームやサード・チームをリーグ戦に出してほしいというお願いもしています。
 先ほどの3ピリオド制では最低でも16人の選手が必要となるため、「16人をそろえられないチームはどうすべきなのか?」という意見もいただいています。しかし、12人で運用できる3ピリオド制(セカンド・ピリオドにおける選手の入れ替えを4人とし、セカンド・ピリオドをプレーしなかった4人が再びサード・ピリオドでプレーする。つまり、各選手が2ピリオドをプレーするルール。下の図1を参照)もあります。現在、『キヤノンガールズ・エイト(U–12)大会』はこのルールを採用しています。
 私たちもチームの方々に負担を強いるだけでなく、選手たちが試合に出られるチャンスが広がるような仕組みをつくったり、ルールを改善したりしていきたいと思っています。また、試合時間に関しても意見を交換しており、試合時間をもう少し長くしてもいいと考えています。

画像: 『全日本少年サッカー大会』のデータ比較 ©日本サッカー協会

『全日本少年サッカー大会』のデータ比較 ©日本サッカー協会

画像: 「3ピリオド制」のイメージ ©BBM

「3ピリオド制」のイメージ ©BBM

――ベルギーでは「12分×5本」という設定にして試合を開催していると聞きました。

池内 情報が早いですね(笑)。
 ベルギーでは10歳と11歳で「12分×5本」、12歳では「25分×3本」となっています。しかも、サブの選手が2人くらいしかいない状態でこうした時間の試合をこなしているのです。そうした状況を考慮した場合、いろいろな面での努力が必要になると思いますが、現行の「20分×2本」という試合時間は短いですし、「現行の少年サッカー」にこだわりすぎるのは良くないと思っています。

――随時、ルールを変えるのはありかもしれません。例えば、「来年から9人制にします」など……。

池内 無責任な発言と思われたくはないのですが、9人制でもいいですし、7人制でもいいと思うのです。正解は1つしかない、というわけでもないでしょう。
 ベルギーの少年サッカーを視察した結果、「ルールは柔軟に変えてもいい」とあらためて考えられるようになりました。ベルギーでも8人制なのですが、一方のタッチラインをマーカーで設け、もう一方のタッチラインは共有するといった環境でも試合をしていました。オフサイドも直接フリーキックもありませんでした。
 とりわけ興味深いルールだなと思ったのは、「ゴールキックの際にボールを持ち出していい」、「タッチラインからキックインして持ち出していい」というものです。通常のルールであれば、「ゴールキックを蹴るぞ」とプレーが切れ、すべての選手がそれに構えることでスムーズな試合進行が失われがちなのですが、それがないのです。
「ベルギーをまねすればいい」というわけでないのですが、柔軟さは必要だと感じました。ですから、こうしたルールをトレセンで早速導入してみようと思っています。子供たちをより良く育てていくことが目的ですから、そこを起点にしてルールも考えていくべきなのでしょう。

――そうした発想があるからこそ、ベルギーは現行のようなルール設定にしているのでしょう。

池内 繰り返しになりますが、ベルギーにおけるサッカーの環境も十分に考慮しなければなりません。例えば、ベルギーでは「クラブの格」によって参加するリーグが決まるレギュレーションになっています。要するに、勝敗数や勝ち点によって昇格や降格が決まったりしないのです。しかも、12歳以下の試合では記録も残さない、と徹底されています。
 一方、日本の場合は「競技会ありき」という部分があります。それが日本らしい真面目さであり、文化とも言えるのですが……。結果として、あるルールを設定した場合、「ルールを通じて子供を育てよう」という考えになりにくく、「ルールを利用して勝とう」という思考に陥りやすいと感じています。すべての指導者がそうなっていると思いません。しかし、大人が状況をコントロールして勝敗を決めるのが優先されるという流れを終わりにしたいのです。

――とは言え、「クラブの部員を集めるためにも結果を出さなくてはいけない」という切実な状況もあるようです。

池内 そうした状況に対しては何らかの手を打たなくてはいけないと考えています。例えば、良い選手を育てたクラブや指導者にインセンティブを発生させる制度も必要かもしれません。

画像: ジュニア年代にすっかり定着した「8人制サッカー」 写真/佐藤博之

ジュニア年代にすっかり定着した「8人制サッカー」 写真/佐藤博之

中学年代への移行は
より繊細に考えたい

――「1人制審判員」に関しても競技会としての形式を重視する立場の方々からは反対意見が多かったと感じています。

池内 しかし、実際に採用した試合を見ていただいても、十分に機能することが分かってもらえたと感じています。17年度の全少でのレフェリングも素晴らしかったと思います。子供たちを抑えつけるようなこともなく、しっかり戦わせてくれてもいました。

――全少など、全国規模の大会では難しいと思いますが、「地域のリーグ戦などは実情に合ったルールで各試合を行なってもいい」と発信することは可能ですか?

池内 あり得ると思います。しかし、「競技会である以上は競技規則に則ってやる」というのが日本的な発想だと思うのです。
 また、3ピリオド制に反対する方々の中にはコートを2回チェンジすることでコートに偏りが発生するために「公平ではない」と言う意見もあります。確かにそうなのですが、そういうことを言う方にも納得してもらえるようにして選手にとってより良い環境を整備したいと思います。

――8人制のルールを含め、今後も見直しが行なわれていくと感じました。一方、中学生からの11人制へうまく移行できていない、という感覚もあります。

池内 8人制から11人制への移行に関してはもう少し繊細に考える必要があると感じています。例えば、中学年代で使用するゴールやフィールドが大きすぎるかもしれないと感じています。「この年代になれば、世界ではこのサイズのゴールとフィールドを使っている」というのは事実です。しかし、日本人の体型や成長速度に合わせたルールを採用する、というのもありだと思うのです。

――確かに、ゴールは大きすぎるという気がします。

池内 トレセンに選ばれたり、Jクラブにいたりする選手は成長が比較的早いため、そういう選手を担当する指導者は「この大きさでいい」となるでしょう。しかし、一般的なチームや選手の場合は状況が異なるでしょうし、ゴールは大きいかなと感じています。アバウトに上を狙ったシュートが入ってしまうケースも多いからです。すると、「隅を狙って強いシュートを打とう」とトレーニングで指導者が言っても、実戦でそういうシビアさが必要なければ、トレーニングでのリアリティーが低下してしまいます。

――日本サッカー協会は「諸々のルールに関して柔軟に考えていく」という姿勢なのですね。

池内 そう考えています。現場の指導者の皆さんと相談し、「子供たちを育てるために何がベストか」を考えながらいろいろなことを進めていきたいと思います。

(取材・構成/川端暁彦)

画像: 8人制導入において感じている効果や課題を話してくれた池内豊氏 写真/BBM

8人制導入において感じている効果や課題を話してくれた池内豊氏 写真/BBM

<プロフィール>
池内豊( いけうち・ゆたか) /1961年8月25日生まれ、愛知県出身。現役時代はDFとして豊田織機とフジタ工業でプレー。日本代表として8試合に出場した。93年に現役から退いたあと、名古屋グランパスのアカデミーで指導開始。2007年にU‒15日本代表の監督に就任し、09年のU‒17ワールドカップで指揮を執った。現在は日本サッカー協会でユース育成ダイレクターを務める

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