サッカーに限らず、さまざまな動作習得に最適とされる時期が「ゴールデンエイジ」と呼ばれる9歳から12歳までの期間だ。では、ゴールデンエイジを迎える前の小学校低学年のサッカー少年には、何を求め、どんな指導をすべきだろうか? ドイツ、イギリス、そして日本で、数多くの幼稚園児と小学生を見てきた『FCしらゆりシーガルス』(神奈川県伊勢原市)の一場哲宏・監督に、4つの質問を投げかけた。
(出典:『ジュニアサッカークリニック2018』)

※上のメイン写真=神奈川県伊勢原市の『FCしらゆりシーガルス』の子供たち
写真/平野貴也

Q.1 小学校低学年に接するときの指導者の役割は何ですか?

A.1 自分の意志で取り組む気持ちを育てることです

 多くの場合、小学校低学年や幼児にとって指導者や保護者は、「人生で最初のコーチ」になります。子供がサッカーを好きになるか嫌いになるか、最初の分岐点にもなるでしょう。そのためこの年代では、技術習得よりも、自主性や「内発的モチベーション(内側から発するやる気のこと)」を持つことのほうがはるかに重要です。
 しらゆりの子供たちは、練習前から園庭で遊び、練習後も残って遊ぶ子供が多いのですが、それらを含めてサッカーをやる空間や時間を「楽しい」と感じることが大切です。以前、河川敷のグラウンドでボールを追わずに昆虫採集をしてしまう子供がいました。親御さんは「サッカーをしない」と不満気でしたが、私はプレーを強いずに「昆虫採集がうまいね」と褒めて接していました。しかしあるとき、ゴールを決めた瞬間から彼は昆虫よりもボールに熱中し始めたのです。
 逆に、サッカーがうまくても技術の習得ばかりを求められた子供があっさりと競技をやめてしまう事例も聞きます。無理にでも教え込めば、ある程度の技術は習得できるでしょう。しかし、サッカーをやめてしまってはすべてが台無しです。自分の意志で望んでサッカーに取り組む子供にすることが何よりも大切なのです。

Q.2 小学校低学年に対してしてはいけないことは何ですか?

A.2 外発的モチベーションの付与や誘導、そして他者との比較はしてはいけません

 親御さんは子供の成長を望んでいるものですが、その気持ちが裏目に出るケースが意外と多いです。
 例えば、子供が活躍する姿を見たいがために「成功したら○○を買ってあげる」と約束したりすることがあるでしょう。このような「外発的モチベーション(外側からの刺激で行なうやる気のこと)」は、全否定しませんが、自発的な意欲がおざなりになります。ご褒美への欲求がエスカレートして、満たされなくなると達成感を失います。そして、自分の目標が達成できなかったときに悔しさを感じ、次の挑戦を工夫する機会を奪ってしまいます。「教えたがる」ことも同様です。失敗しないように誘導してしまうと自立を妨げますし、子供は自分の達成感よりも親の評価を気にするようになってしまいます。幼児はともかく小学生になると、大人の仕事は子供を「ヘルプ」ではなく、「サポート」でなければいけません。
 他者との比較もいけません。目標は自分を成長させることですから、他者は無関係です。そのためしらゆりでは、自分の子供だけを応援するのではなく、チームメイトも相手も自分の子供のように思い、いいプレーがあったら拍手するように親御さんにお願いしています。

画像: 『FCしらゆりシーガルス』の子供たちは話し合って自分たちで練習メニューを決めている 写真/平野貴也

『FCしらゆりシーガルス』の子供たちは話し合って自分たちで練習メニューを決めている 写真/平野貴也

Q.3 小学校低学年で身につけておいたほうがいいことは何ですか?

A.3 「やりたいこと(プレー)」の表現の仕方を身につけさせてください

 どのスキルを、いつ磨くのか」は子供たちが見つけるものだと思っています。大人は「やるべきこと」を与えるのでなく、子供が「やりたいこと(プレー)」を引き出すことが大切なのです。
 しらゆりでは、小学3、4年生以上になると、最初に決めた練習を行なったあとに子供たちの感想や意見を聞き、練習に反映させます。自分で考えて行動し、うまくなるサイクルを覚えてもらうためです。「やりたいこと」を表現する過程では、意見の衝突もあります。正しい自己表現を覚えるためにはケンカも重要です。ケガは避けなければいけませんが、自己主張し合うことで、異なる見方や意見があること、そして他者と共存しなければいけないことなどを知ることができます。
 大人が止めれば、主張が通らない理由や他者との共存が必要であることを感じるチャンスを失ってしまうでしょう。ケンカが発生した場合、しらゆりでは「ケンカ・ゾーン」を設け、そこで言い合いを続けさせます。言葉でうまく表現できない子供には、寄り添って言語化をサポートして相手に気持ちを伝えます。普段の生活から自己表現できる選手にならなければ、どんなメニューも自分のために消化することができない、と考え、自己表現を重視しています。

Q.4 小学校低学年に対して「試合」はどのように活用すべきでしょうか?

A.4 試合中は良かったプレーを見つけることに努めるべきです

 小学校低学年は月に2、3回ほど試合を行なうのがいいでしょう。
 休憩時間を設ければ、1日に2試合前後行なっても問題ありません。ただし、試合中はとにかく、良かったプレーを見つけるようにしましょう。いいプレーを見つけ、認めるのです。そして、チームメイトや指導者と共感することが大切です。課題の指摘や他者との比較は、自尊心を失ったり、他者の視線に怯えたりする原因になりかねません。比較をしなくても、仲間のいいプレーを認め合えば、「自分もやろう、頑張ろう」と、子供が自ら思うようになります。課題の場面について話すときは、失敗の理由を聞き出したり、解決策を教えたりしてはいけません。「次はどうする?」と考えさせるようにしましょう。
 また、子供の自主性を大事にする『ボトムアップ』は有意義ですが、『トップダウン』でヒントを与えることも必要です。試合のあとの練習では「シュートをたくさん打ったけれど決まらなかったから、シュート練習をしようか?」とチームの課題を解決するテーマを投げかけて取り組むようにしています。その際も子供たちに意見を聞いてみるといいでしょう。指導者や保護者は、先導役ではなく、ファシリテーター(司会役)であるべきだと思っています。

画像: 率先して練習の準備を行なう『FCしらゆりシーガルス』の子供たち 写真/平野貴也

率先して練習の準備を行なう『FCしらゆりシーガルス』の子供たち 写真/平野貴也

画像: 低学年を指導するときに押さえておきたい4つのポイント ©BBM

低学年を指導するときに押さえておきたい4つのポイント ©BBM

FCしらゆりシーガルスのトレーング・メニュー紹介

※小学校低学年対象

練習1:チーム対抗ドリブル氷鬼

画像: 練習1:チーム対抗ドリブル氷鬼 ©BBM

練習1:チーム対抗ドリブル氷鬼 ©BBM

進め方: グリッド内で行なうドリブル鬼ごっこ。3チームが同時にプレー。Aチーム(白)はBチーム(グレー)を、BチームはCチーム(黒)を、CチームはAチームを追いかける。すべての動きをドリブルしながら行なう。タッチされたらその場で止まらなければいけないが、味方にタッチしてもらったら再び動ける
ポイント:「逃げる」、「追いかける」、「助ける」を同時に行なう。ボール、味方、相手の状況を同時に見る習慣と感覚を養う。「どうすれば面白くなるか?」に対する意見を子供たちに聞いてからグリッドを設けてもいい。ルールを子供たちがつくれるようになると考える力が身につく

練習2:「1周ルール」の「3対3」

画像: 練習2:「1周ルール」の「3対3」 ©BBM

練習2:「1周ルール」の「3対3」 ©BBM

進め方:「3対3」のゲーム。各選手はチーム全員が得点したあとでないと、2点目を決めてもカウントされない(「1周ルール」。例えばA、B、Cで1チームを組んだ場合、AとBが決めて2点。次にCが1点を取って3点になる前にAが得点してもカウントされない。得点させるためのパスを考えなければいけないため、お団子サッカーを解消しやすい)
ポイント:チーム内の誰に得点させ、得点させようとしている選手をどうサポートするかについて「作戦会議」を行なう。自分の意見を持ち、相手の意見を聞いた上で作戦を決める。同じ作戦ばかりになったり、他者に頼ってばかりいる子供が出てきたりしたら注意。「1周ルール」を用いなくても、グリッドの広さ、人数、ボールやゴールの数を変えたりして、有効な作戦を考えることができる(ただし、指導者は有効な作戦をなるべく教えない)

(取材・構成/平野貴也)

画像: 低学年を指導するときのポイントを教えてくれた一場哲宏・監督 写真/平野貴也

低学年を指導するときのポイントを教えてくれた一場哲宏・監督 写真/平野貴也

<回答者プロフィール>
一場哲宏(いちば・てつひろ)/1973年生まれ、千葉県出身。犢橋高校を卒業後、日本体育大学へ進学。大学在学中にドイツのケルン体育大学へ留学し、ドイツのクラブで5、6歳カテゴリーの監督を務めた。以降、イギリス・ロンドンの日本人向け幼稚園や湘南ベルマーレなど、国内外で指導。2013年に『FCしらゆりシーガルス』の監督に就任した。指導者B級ライセンス、キッズリーダーインストラクター、保育士、幼稚園教諭の資格を持つ

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